第100回目(1/4) 野村 総一郎 先生 日本うつ病センター 六番町メンタルクリニック

うつ病は、チーム医療を行うべき時代になってきた

今回のインタビューは、日本うつ病学会の元理事長で、
うつ病、気分変調症治療の第一人者、精神科医の
野村 総一郎(のむら そういちろう)先生です。

現在、野村先生は、一般社団法人日本うつ病センター(JDC)の副理事長、
六番町メンタルクリニック所長、JDC精神療法センター所長も
務めていらっしゃいます。

新聞の『人生案内』の名回答者としても有名な野村先生に、
今後のうつ病治療の方向性、チーム医療の強み、JDCの目指すもの、
薬物療法だけでなく精神療法・心理療法を組み合わせた包括的診療
などについて、お話しを伺いました。

インタビュー写真

「医学を志されたのは何歳頃なのですか?」

私は慶應高校出身ですが、推薦で大学に進む際、担任から成績的に医学部に入ることが可能だと言われたので選びました。父が小学校五年生の時に心筋梗塞で亡くなったというのも、無関係ではないと思います。子ども心に「病気と闘う」という心理があったのだと思います。

「精神科を目指されたのは?」

精神医学に関心があったことが基本にありますが、今考えると、きっかけは慶應大学独自のグランドラウンドという講義です。内科、外科、精神科など、いろいろな科が集まり、患者さんや時には患者さんの家族の方にも参加していただいて、総合的なリサーチや専門的な話を聞いたりする機会がありました。

医学部の授業というのは細胞やら化学物質やら、解剖学的で生理学的、即物的なものがほとんどです。これらの知識はもちろん必要ですが、4年、5年と経つにつれ飽きてきたのです。

そんな時、ある膠原病の患者さんについて、精神科の先生が家族との関係や思い、どのように支えているかなどの話をされたことがありました。免疫がどうだとかいう話ばかり聞いてきた中で唐突な感じもしましたが、その話を聞いた時、視点が違う心理学的な話を新鮮に感じました。

またこれも慶應大学独自ですが、学生5人に教授が1人つき世話をするという体制がとられていました。私は精神科の保崎教授の会に入りました。当時の精神医学は、学生運動などの影響も受けて混乱が生じていて、精神科医の中では反体制的な人が力を握った時代でもありました。

精神医学は拡大と縮小を繰り返していて、細胞レベルのみだけが精神医学だと言われた時代もあれば、心に関すること全てが精神科の領域であると言われた時代もあります。このように縮小、拡大を繰り返していく中で精神科医は自信を失ったり、誇大的になったりしています。

私が入局した1974年当時は精神科医が自信を失くしていた時代で、自らを否定している感じでした。現在も反省期に入っており縮小傾向で、否定的な圧力をやや感じています。少し前、と言っても5〜10年前ほどですが、当時は肥大し過ぎていました。

私が入局した当時は、東大の紛争などもあり自己否定的な雰囲気ではありましたが、私はそこに面白さを感じました。

「面白さとは?」

縮小してはいるが、面白さは広いのです。対象にしている範囲が幅広いことに知的な興味をそそられました。私はものすごく人間が好きというわけではないし、ものすごく社交的というわけでもありません。ただ、カウンセリングや相談に乗ることは好きでした。

三鷹に五年ほど下宿していた時、下宿の世話役のおばあさんの愚痴の聞き役、相談役のようなことをしていました。学生の身分ながら町内会などにも参加していると、近所にうつ病の人が多いことがわかりました。まだ学生なので特に精神医学的な見方をしていたわけではなかったのですが、近所の奥さんが相談に来たりと、よく相談に乗っていました。

「長く精神科医療をやってこられて、どんな風に感じていらっしゃいますか?」

幅の広い学問で、そこに面白さがあると感じています。最初に関心を持ったのは精神分析でした。精神分析の小此木啓吾先生の元で可愛がってはもらったのですが、自分にはついていけない世界だと感じました。精神分析のセミナーは独特の雰囲気で、息が詰まるような感じで、研究会後、信濃町の駅に行くとやっと楽に呼吸できると感じたほどです。

その当時の精神分析の特徴、ということもありますが、精神分析のセミナーでは疑惑的、攻撃的、暴露的な自己分析を強いられました。

若手の勉強会で、外来で治療を行っている7〜8人の精神分析医が集まってスーパーバイズしてもらうという機会があり、どんな治療をしたかを報告するのですが、ある独身の女性セラピストが、患者さんに「結婚もしてないあなたに私の気持ちがわかりますか!」と言われてショックだった、と泣き出したことがありました。全員が「小此木先生は何と答えるのだろう」と見守る中、先生が言った言葉は「痛いとこ突かれたね〜」でありました。この時、この世界に自分はついていけないと感じてしまいました。

そこで次に、水俣病の研究などもされていたビッグネームである中澤先生の元で14年間ほど細胞病理の研究をしました。細胞神経科学を研究し、先生について名古屋に行ったりもしました。バイオマーカーの研究といって、血液の成分を測定し、客観的な所見を得ようとするものです。


インタビュー写真


「その研究は、今も続けられているのですか?」

これこそ精神医学の目標とするところです。私はいろいろなことをやりましたが、一番成果が出たのはうつ病の患者の血液中のアミノ酸の測定です。うつ病の患者は血液中のアミノ酸のレベルが低いのではないか、という仮説に基づいたものです。

少し専門的な話になってしまいますが、必須アミノ酸にもいろいろありますね。主に食べ物によって規定されますが、代謝的な個性によっても決定されます。当時はセロトニン仮説が登場したばかりでした。うつ病の患者は脳のセロトニンが少ないから、セロトニンを増やせばいいのではないかという考え方です。この仮説は未だに否定されておらず、今もこの主張をしている人もいます。

セロトニンは脳の中にもあります。セロトニンの前駆物質はトリプトファンで、トリプトファンが代謝されてセロトニンになります。セロトニンが少ないということは、大元のトリプトファンが少ないのではと考えたのです。そのような論文も出ていました。しかし測定してみるとたいして変わらなかったのです。

そこで気付いたのは、体内のトリプトファンはタンパク質と結合して体の中を巡っています。タンパク質とくっついていると分子が大きいので、脳の中には行きません。タンパク質と結合していないフリートリプトファンは一割程度です。このタンパク質とくっついていない小さな分子が脳に入るのです。

フリートリプトファンのみを測定できれば脳内のトリプトファンが正確に測定できるのでは、と考えました。どうやってフリートリプトファンを測定するかに二年程かかりましたが、高速フィルターを使って測定すると、やはりうつ病の患者さんは低かったのです。

「それは現在、臨床で使われているのですか?」

臨床では現在は使われていません。もう一度研究したいとは思っていますが。なぜ使われてないかと言えば300ccほど採血をしなくてはならず、患者さんに負担がかかってしまうので現実的に難しいのです。ほとんどのトリプトファンはタンパク質とくっついているため、高速のフィルターを用いても大量に血液が必要になってしまうのです。

また、全身の血液中を調べても、脳の部位のどこで低いのかわからない、ということもあります。PETや他の画像診断を用いて、もう一度やってくれる人がいればいいなとは思っています。

「うつ病と、病気ではないうつ気分の違いは、何でしょうか?」

うつとは人間の生理的な感情、気分状態であり、ないといけないものです。つまりうつ、不安感は全くの正常心理です。うつ的な心理を作りだす遺伝子も存在します。しかし、うつになりやすい体質の人や、ストレスが強くなるとダメージを受け、より強いうつ状態になってしまいます。

質的に正常なうつと、病的なうつ病とは、質的にも違うと思えるんですけれど、一番わかり易いのは、トータルで見ると、質的なものより量的なもの、つまり程度の問題ということではないでしょうか。正常心理の憂鬱と、病的なうつ病のうつはつながっています。

例えて言えば、富士山のてっぺんは誰が見ても富士山ですね。つまり非常に強いうつ病は誰が見てもうつ病とわかるわけです。七合目でも富士山だろうとわかりますね。では三合目は? なんとなくでもわかりますね。ではずっと降りてきて箱根の小涌谷はどうでしょうか? 富士山ではありませんが、大地はつながっています。

そのため、定義を定めなければなりません。例えば富士山とは雪が積もるところまでとする、などです。精神医学でも定義を決めて、強引に富士山と富士山じゃないところを決めています。膨大なデータに基づき、世界的に定められた操作的診断で、うつ病という定義を定めています。

「クリニックに行くべきかどうか、迷われる方も多いかと思いますが?」

憂鬱であることが自覚できており、生活にどのくらい支障が出ているかによって、相談相手として精神医療を意識してもいいと思います。

「わかりやすい目安はありますか?」

その人が困っているかどうかで判断すればいいのではないでしょうか。単なる憂鬱かどうかというのは論理的に追及することはできません。バイオマーカーがあれば質的なものがわかりますが、利用されてはいますがまだまだ妥当性はないですね。

保険でも認められたNIRS検査(脳血流測定)もありますが、それほどの確実性があるのか、個人的にはまだ難しいと思っています。

困ったことがあれば、精神医療に限らずいろいろな機関や専門家に頼れば良いのではないでしょうか。悩みがそれほどでなければ近所の人に相談してもいいし、法律的なことがからんでくるなら弁護士に相談すれば良いのです。カウンセラーや学校の先生に頼っても良いと思いますし、精神医療が必要だと思えば、かかればいいと思います。

「この程度でお医者様にかかるのは大げさでは? と感じる方も多いようですが?」

大いに利用していただければと思います。

現在は精神医療は範囲が狭まっていて、少し自信を失くしかけていますね。薬を飲んだら体によくないのではないかとか、薬の使い方にも問題があったり、精神医療不信に陥っている感じがします。反省期に入っている所なのです。指摘には事実が含まれているため反省し、縮小傾向なのでしょう。

私は、うつ病では今まであまりなかった、チーム医療を行うべき時代になってきたと感じています。


(次回につづく・・)

野村 総一郎(のむら そういちろう)   六番町メンタルクリニック 所長
  一般社団法人日本うつ病センター(JDC)副理事長
  医学博士、精神保健指定医
  日本うつ病学会 元理事長

1949年広島県生まれ。1974年に慶應義塾大学医学部を卒業。
1985年テキサス大学医学部、メイヨー医科大学留学。藤田学園保健衛生大学精神科助教授、1993年に立川共済病院神経科部長を経て、1997年に防衛医大精神科学教授に就任。2012年から2015年3月まで、防衛医科大学校病院長・精神科診療部長。
日本うつ病学会理事長などを歴任。
現在、一般社団法人日本うつ病センター(JDC)六番町メンタルクリニック所長。
うつ病や双極性障害を専門とする。読売新聞「人生案内」の回答者を長く務めており、回答を担当した回を集めた書籍も刊行されている。

<野村総一郎先生のクリニックのHP>
【六番町メンタルクリニック】

<一般社団法人 日本うつ病センターのHP>
【一般社団法人 日本うつ病センター】

<野村総一郎先生の著書>
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図解やさしくわかる うつ病の症状と治療


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双極性障害(躁うつ病)のことがよくわかる本


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人生案内 もつれた心ほぐします


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うつ病をなおす



インタビュアー:下平沙千代(しもひらさちよ)

下平沙千代

日本一やさしい女性ケアドライバーです。
タクシー車内がセラピールームになることも・・・、
アロマハンドマッサージや、ソース・ワークショップも開催しています。

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レイキヒーラー、トラベルヘルパー、NPO法人東京シティガイドクラブ会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
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インタビュアー:比屋根章仁(ひやねあきひと)

比屋根章仁

呼吸を調え、自分を調える。毎日の生活をより豊かにしてくれる呼吸法を
お伝えしています。呼吸法を生活に取り入れると
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日本マイブレス協会ブレスプレゼンター、マインドマップ講師
HP:まなびの寺子屋
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インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、精神保健福祉士、認定THP心理相談員、統合心理カウンセラー、
米国NGH&ABH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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