第100回目(2/4) 野村 総一郎 先生 日本うつ病センター 六番町メンタルクリニック

薬だけに頼っていてはいけない。精神療法やグループセラピーも!

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「チーム医療について、教えていただけますか?」

病気だから医者がやるということだけでなく、医療、福祉、心理など各分野の専門家を集めてチームを作り、皆で対応していこうという考え方です。これは身体医学においても同じで、例えば外科で手術をした場合、切除して取り除いたら終わり、というわけではありませんね。

術後は看護師、リハビリ、福祉、ボランティアなども含め、多くの人が参加しています。うつ病については、ややチーム医療のあり方が遅れていました。極端に言えばセロトニンの問題だから医者しか治せないとか、ノイローゼのうつは心理士だとかいうふうに区切られていました。これは都市伝説的で、明確な区別にこだわる必要はないのです。

臨床心理士や精神保健福祉士(PSW)、看護師はもちろん、運動療法、作業療法、音楽療法など、各分野の専門家のノウハウを総動員していこうという考え方が、うつ病でも急激に進んできています。

もちろん音楽療法だけとか特定の何か一つに偏ってはいけませんが、必ずしも医者が中心となって行わなければならないわけでもなく、患者さんに合わせてチームセラピーとして行えればいいと思います。

「患者さんに合わせた統合的なチームセラピーが可能なのですね?」

薬だけで治すのは難しいからと言って、精神医療が否定されたわけではないですね。チーム医療に研究者や製薬会社の人も入って、現場を見てもらいたいですね。ネズミしか見たことがなくて患者さんを一回も見たことがない人が薬を作っているっていうのは十分ではないと思うんです。

日本うつ病学会というのを10年以上前に作ったのですが、そこは『チーム医療を育てる』ということを目的として作った学会なのです。6割くらいの参加者がいわゆるコ・メディカルの人達。看護師さんや保健師さん、企業の人事で衛生業務をやっている人など。臨床心理士も多いですね。手前味噌ですが、うつ病学会はチーム医療の1つの牽引車になっているのじゃないでしょうか。

チーム医療は明らかに広がってきていますよね。精神療法センターの中にはいろいろな精神療法をやる職種の人がいる。朗読療法とか。ちょっと私も入ってみたんですけど、新しいグループセラピーの1つのあり方だな、素晴らしいものがあるな、と思いました。

あとは、認知行動療法。これは個人療法だけれども、それからSST(Social Skills Training:社会生活技能訓練)を今準備中で、今年中にはやりたい。

「今、情報が広がり過ぎて、薬物療法への恐怖がひとり歩きしている感じがするのですが、その点についてはいかがでしょうか?」

薬はとても重要で、薬の効果は、現場で診ているとすごく頼りになる存在ですね。ただ、薬の使い方と、薬自体が持っている問題点とを区別しないといけない。抗うつ薬はやはり副作用がありますよね。そこが非常に大きな問題で、これは開発の人とも協力しながら副作用のない薬を作っていく必要がある。

それから、抗うつ薬自体は依存性や毒性が高かったりするわけではないけれど、1回使うとやめにくかったりするというのは非常に大きな問題です。やめる時に時間がかかったりする問題がある。こういった薬自体の問題がある。

もう1つは、薬自体の問題ではなくて、薬の使われ方が悪いということがある。いわゆる多剤投与。

「これは日本特有のようですね?」

そうですね。そう言っていいと思います。アメリカの医療の中でもある程度の多剤投与はありますけれど、日本ほど極端ではないですよね。

ではなぜ日本でこんなに多剤投与が多いのか、ということを考えると、1つは精神科医が精神療法への知識や技術を持っていない、弱いということじゃないですかね。ちょっと極端な言い方ですけれど、ほとんど薬物療法しか知らないんじゃないか、と思える場面もあるんです。

ほとんど薬物療法しか知らないから、治らないと薬をまた重ねて出してしまう。抗うつ薬の有効率って国際的に見ても40%くらいですからね。さんざん工夫したり偶発的なものも入れれば60%くらいで、せいぜい6割くらいしか効かないわけです。

でも6割ってすごいと思いますよ。アメリカの研究では初診の有効率は40%くらいと言われているのでそんなところですよね。この数値は実感とも合っています。薬だけに頼っていてはいけない、ということでしょうね。

「薬物療法だけでは、限界があるのですね?」

ですから、あとは精神療法や、患者さんの相談に乗っていく中でできるアドバイスですね。支持療法とか、具体的なアドバイスとか。具体的なアドバイスを求められる部分もありますよね。人生相談的なものを求めて受診される方も非常に多いわけです。

患者さんの立場から言ったら、病気と人生相談の区別はできない。連続したものですから。だからある程度そこにも対応してやっていく。人生相談的なものをやるには時間がかかるし、医療の制度の限界はどうしてもあるので難しいのですけどね。


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「先生は、新聞の人生相談の回答者も、長く担当していらっしゃいますね?」

新聞で人生相談をやっているから、それを医療に活かしていく、ということも1つ考えとしてあります。あれは医療にすごく活かされました。人生相談を新聞でやることによって気づいたこともあるんですね。

でも、基本的には人生相談は精神医療とは全く違うものです。簡単に言えば、答えを出すか出さないか。精神医療では、答えを出すのはものすごく悪いわけですよね。「あなたはこうした方がいいよ」「これが正解です」とズバッと言うのは、患者さんの成長を妨げますからね。

この人が悩んできているというのは、その人の生き方に癖とか問題点があるからです。それを「こうやりなさい」と具体的に指示したら、その人の悪いところは全然治りませんし、むしろ強化されます。だから、精神医療は答えを出すのではないんですよね。

だけど人生相談は読み物だから、読者を意識して答えを出していく。人生相談は「私はこう考えます」と言うようなもの。でもそれでは精神科医とは言えないですよね。そういうことを言ってはいけない世界ですからね。「そういうことは言うな」という教育で40年来てますからね。

人生相談をやっていると、それが言えるところにこちらの面白さというのがあるような気がします。もちろん患者さんや相談者のことをすごく考えますよ。この人にとってベストであると考えてやっていることは確かです。

「相談者の方の愛読コミックを全巻読まれたそうですが、大変ではないですか?」

こういうこともとても勉強になるんですね。今でも読んでいますけどね。

「回答を読ませていただいて、最高のリフレーミングだなと感じるのですが、先生はそれを意識されているのでしょうか?」

いやいや。意識はしていないですよ(笑)。精神医学的、心理学的な理論をできるだけ持ち込まないようにして、現実的な答えを与える、ということを心がけています。どうしてもそうはいかない部分はありますけれど、それを心がけています。

まあ、相談の質にもよりますね。精神医療を未完成なものとして考えている部分はあります。精神医療の中で人生相談的なものをどういうふうに活かしたらいいか、組み込んだらいいか、というのは悩むところです。

「精神医療と人生相談的要素・・・」

人生相談的な展開ができるのは、おそらく時間が長くかかるんじゃないですか。患者さんと5〜6年以上付き合うと、かなりその人のいろんなことが見えてくるから、そうすると関係性で治療される部分があるから、もちろん無制限に近づいてはいけないけれど、誤解を恐れずに言えば、友達的になって、友達がちょっと言うアドバイスみたいな。

それが、精神科医の専門性があって、質的に多少高いとなれば、一番いいアドバイスになるんでしょうね。だけど、それが数回しか会ったことがない中で、わかったようなことを言うというのは、関係性がないので、逆に拒否感が出るので、そこは気をつけなければいけない。

人生相談をやっているので、若い精神科医に「人生相談をどう活かせばいいんですか?」とよく聞かれるんだけど、「それは止めておいた方がいい。そういう発想でやらない方がいい」と若い人には言います。でも、5〜6年付き合った患者さんはそれでもいいのかなと、最近ちょっと思いますね。

「患者さんの方にもそれを受け入れる準備ができる、ということでしょうか?」

そうですね。人生相談的なものを期待して来る人が多いからね。精神医療の多くがそうですよ。

「うつの方も大変だと思いますが、ご家族も苦労があるかと思います。ご家族が気をつけるべきことがあれば教えていただけますか?」

“ご家族”と言っても、夫婦の場合と親子の場合とでは、ちょっと違うかもしれませんね。家族というのは煮詰まると良くないでしょう。「向き合ってあげろ」「病気を理解しろ」と言われるし、それぞれその通りだと思うけれど、ずーっと向き合っていると疲れてかえって良くないということがある。

これは細川貂々さんの『ツレがうつになりまして。』によく表れていたよね。少し離れた方がいいんでしょう。自分の世界を持つ、ということでしょうか。介護者の会もありますけれど、集まって旦那の悪口を言うと、そんな感じですよね。ずーっと向き合って、というのはツラいですよね。そういう息抜きをするのは大事です。

大学生などの子どもの場合は、母子密着のように母親とベッタリになっていて、長年にわたって二人の世界みたいになっている方が多いですよね。少し遠ざかることも大事なんじゃないですかね。

「これだけはやってはいけない、というのはありますか? よく家族から『薬を飲むな』と言われて、やめたら崩れたというようなことを聞きますが?」

それも大事なポイントですね。家族に限らず、会社の人やご近所の人によって、「薬なんて飲むんじゃない」とい言われたことが影響するということがありますけれど、それは危険ですよね。薬は、やめるにもやめ方があります。急にやめられないのが薬の欠点でもあるからね。そこを急にやめると、ちょっと危ない。

「うつへの偏見より、薬への偏見の方が危険な気がします」

今はちょっとそういうことがありますね。薬はやめ方がある、ということ。特に抗うつ薬。睡眠薬などもそうだけど、反動がきますからね。そこは慎重にやらなければならない。

医者の立場から言うと、「精神医療によく相談しなさい」ということに尽きるんだけどね。チーム医療という考え方で言ったら、いろんな相談相手がいてもいいからね。健全な相談ができる機関を育てたい、という思いはあります。

「薬剤師さんや看護師さんに相談することもできますよね。いろいろな聞き役がいますからね」

そうですね。チーム医療をやる中で、教育研修をどのようにやるか、という問題も大きいですね。

「ご家族への教育研修もなさっているのですか?」

そういうこともやらなければならないでしょうね。市民公開講座はよくやりますよ。全体的に見ると参加者にはご家族が多い気がしますね。

「インターネットなどで、“薬は危険”“依存性が…”と騒がれていますが?」

睡眠薬や抗不安薬の依存性はありますね。処方する側も安易に出したらいけないし、気をつけなければいけない。ただそうは言っても出さなければならない時があるから、漫然と出さない、ということですね。

病院長を退官して、久しぶりに現場復帰して、薬の使い方は、以前より少しずつではありますが良くなっている印象はあります。

いわゆる“安定剤(抗不安薬)”というのは依存の問題があるから、よほど注意して使わなければならない薬とも言えます。あとは、多剤併用に対する弊害や、漫然とした処方も問題です。昔は、「とりあえず安定剤でも出しておけ」というように安易に出されていたところがあった。その辺りは以前よりはだいぶ良くなってきている感じはしますが、まだ問題のある処方も散見されますね。

「抗不安薬の長期服用というのはどのくらいを指すのですか?」

初診の人だったら、普通は1ヶ月とかそのくらいが目安でしょうか。安定剤や睡眠薬もできれば。ただ、ケースによって随分違うから一般論では言いにくいですね。

「飲んだ場合は、上手にやめていく、ということですよね?」

それはもちろんそうです。抗うつ薬にしても安定剤にしても、やめるということを意識していかなければならないですよね。

抗不安薬は依存性薬物ですから、やめにくいことは確かですね。身体依存、精神依存、両方ともありますからね。ちゃんと指導すれば、もちろんやめることは可能ですが、最初からやめることを意識して出さなければならない薬と言えましょう。

抗うつ薬や気分安定薬などは、維持療法という考え方があるから、再発防止のために薬を継続して飲んだ方が良いという場合があります。もちろん早くやめた方がいいけれど、抗うつ薬は半年〜1年くらいファーゼ(発病)がない場合は、ゆっくり慎重にやめる体制に入っていく。

1ヶ月、薬の種類によっては2ヶ月近くかけて、ゆっくりやめて、最終的にゼロにすることを目指します。

「“薬”というのは、医師と相談しながら使えば怖いものではない?」

いや。やはり毒性や発癌性などの問題は小さいとは言え、副作用については問題がありますから、「怖いものではない」とは言えないです。慎重に使うべきものだと言えると思います。やめるのには技術が必要、ということですね。特に、自己判断で突然やめる、というのは危ない。

医者の方もそういう相談に乗れる体制作りや、相談しやすい雰囲気、相談してくれるような臨床医にならなければならない、ということですよね。


(次回につづく・・)

野村 総一郎(のむら そういちろう)   六番町メンタルクリニック 所長
  一般社団法人日本うつ病センター(JDC)副理事長
  医学博士、精神保健指定医
  日本うつ病学会 元理事長

1949年広島県生まれ。1974年に慶應義塾大学医学部を卒業。
1985年テキサス大学医学部、メイヨー医科大学留学。藤田学園保健衛生大学精神科助教授、1993年に立川共済病院神経科部長を経て、1997年に防衛医大精神科学教授に就任。2012年から2015年3月まで、防衛医科大学校病院長・精神科診療部長。
日本うつ病学会理事長などを歴任。
現在、一般社団法人日本うつ病センター(JDC)六番町メンタルクリニック所長。
うつ病や双極性障害を専門とする。読売新聞「人生案内」の回答者を長く務めており、回答を担当した回を集めた書籍も刊行されている。

<野村総一郎先生のクリニックのHP>
【六番町メンタルクリニック】

<一般社団法人 日本うつ病センターのHP>
【一般社団法人 日本うつ病センター】

<野村総一郎先生の著書>
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図解やさしくわかる うつ病の症状と治療


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双極性障害(躁うつ病)のことがよくわかる本


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人生案内 もつれた心ほぐします


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うつ病をなおす



インタビュアー:下平沙千代(しもひらさちよ)

下平沙千代

日本一やさしい女性ケアドライバーです。
タクシー車内がセラピールームになることも・・・、
アロマハンドマッサージや、ソース・ワークショップも開催しています。

ソース公認トレーナー、アロマハンドセラピスト、NLPセラピスト
レイキヒーラー、トラベルヘルパー、NPO法人東京シティガイドクラブ会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:比屋根章仁(ひやねあきひと)

比屋根章仁

呼吸を調え、自分を調える。毎日の生活をより豊かにしてくれる呼吸法を
お伝えしています。呼吸法を生活に取り入れると
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日本マイブレス協会ブレスプレゼンター、マインドマップ講師
HP:まなびの寺子屋
発行メルマガ:毎朝の習慣!自分道〜Making The Road〜


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、精神保健福祉士、認定THP心理相談員、統合心理カウンセラー、
米国NGH&ABH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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