第99回目(3/4) 岩松 正史 先生 傾聴講師 株式会社あえるば

自分に誠実でありながら、相手とやりとりすることが一番大事

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「ではその知識と技術、受容・共感・自己一致を簡単に教えていただけますか?」

カール・ロジャーズは自己一致が大事だと言っていますね。英語だと『congruence』、合致や合同という意味になります。自分は聴き役なので相手を持ち上げたり自己卑下する。あるいは自分は聴いてあげる人で相手は聴いて貰う人だと上下関係を作ると、これは一致していないと思うんです。

相手の為に聴くのも、我慢するのも一致ではないです。自分も人、相手も人、同じ人、これが本当の一致だと思うんですよね。

以前ある先生から自分の感じたことに意識が向いている状態を、ロジャーズは一致と言っていると聞いてすごく納得しました。一致は文章にすると、嘘をつかないとか仮面を被らないとかになりますけど、ロジャーズはある本の中でこう言っているんですよ。

カウンセラーは自分の中で、例えば「あなたの話が聴けません」という、カウンセラーとしてあり得ない立場で且つありえない感情だとしても、そのことについて自分を欺いてはいけない、と。相手ではないですよ。自分を欺いてはいけないと書いてあるんです。

その感覚に意識を向けながら聴くんです。話を聴きながら、この人が言っていることは正しい理屈だけど、何か変だな違和感あるとか、自分が感じていることに意識が向いている状態を一致といったんです。

要は自分との対話ですよね。私は今、何を感じているの? この対話をすればするほど相手を受け入れやすくなる。自分に誠実でありながら相手とやりとりすることが一番大事であって、そこから出てくる結果は相手に任せるしかないという感覚を持っています。

「同感と共感の違いについても、お聞かせいただけますか?」

同感というのは一言で言ったら賛成です。「私も賛成、反対」という「私も」を基準にするのは全部、同感です。

例えば、誰かが水を飲んで「これ美味しい!」と言った時に、「私もその水好き!」と言ったら、これは100%同感ですよね。「この水好きじゃないけど、水は好きよ」と言ったら、半分賛成だから半分同感でしょう。あとは過去の経験や知識から「私も似た経験があるからわかるわ、あなたの気持ち」というのも全部同感です。

でも、ロジャーズが言っている傾聴は、受容・共感・一致であって、同感とは言っていないんですよね。という事は、同感は傾聴とは一切関係がないという事でしょう。例えば、水を飲んで「これ美味しいよ」と言われた時に、聴いてる方は同感していても、していなくても、どっちでも良いんです。

自分が同感していてその水好きだなと思っていたとしても、その部分は横に置いておけば良いんですね。真っ白にするんじゃなくて、横に置いておくんです。頭の中も心の中も真っ白にしてしまうと人間は感じられなくなってしまうので、自分はこれを言いたくなっているなとしっかり感じながら、横に置いておく。それでいながら、耳は相手に向いている。

「感じながらも、横に置いておく・・・」

「あなたにとって本当に美味しいんだね」と、この「あなたにとって」が共感な見方ですよね。同感というのは「私も、私も」で、共感は「あなたは、あなたは」、ここが決定的な違いです。

あと、もう一つ付け加えておかないと、いつも勘違いされてしまうのが、「あなたはこうなんですね」という言い方が共感ではないということです。テキスト通りに「あなたそう思っていらっしゃるんですね」「あなたは・・・ですね」とやると、共感っぽく感じるわけです。

でもこれは共感ではありません。共感というのは「わあ、美味しいよ、これ!」と誰かが言った時に、話を聴いてる方の人が「わあ、この人、めちゃ美味しがってるわ!」と、聴き手の心が動かないといけない。

その動いたものを「私も好き」と言うのではなくて、相手がそれを美味しいと思っていることを認める表現方法として、「それ美味しいんだね」という言い方をするだけの事なんです。けれども「あなたはそれが美味しかったんですね」という言い方が共感だと思っている人がいます。これは大きな勘違いでしょう。

「それは明らかに距離を置いていますよね」

そう。「あ・な・た・は・そう思うんですね」と言うと「私は違いますよ」が伝わります。でもテキストの文字を見たら、「あなたはそう感じてるんですね」と言いなさいと書いてある訳ですから、これが共感で、これができていたら「私、傾聴ばっちり」と思ってしまう人が出てきます。

「それは大間違いという事ですね?」

そう。そこが誤解なんだけど、本にすると伝わらないので仕方ないですね。もう一つ悲しいのが、最近、僕と同じか、もう少し上の先輩方が指導者の立場になっていたりしますが、その中にも結構そういう人がいるんです。これはもう、如何ともし難い、と思います。

だから僕は傾聴という言葉を使うのをやめようかと真剣に思ったりもしますね。もう傾聴という一つの枠ができているので、そこを修正しようとすることにエネルギーを使うのは、どうかなと思っています。

僕も僕なりの傾聴の型という、ある意味、宗教をやっている訳です、その他にいろいろなカウンセリングの型がありますね。人間は一つ信じるものがあると、他の価値観は要らないんですよ。これを敢えて中に入って違うんだよと言う必要もないので、距離をとってもいいかなと。

「でも、それが本来の目的から外れているのは明らかですよね」

それも分からないんですよ。10人いれば、「その聴かれ方が良かった」という人が出てくることもあると思うんです。それではクライアントさんの本当の気持ちがわからないだろうと突っ込むのも何かおかしいし、僕がわかってあげたい事が、本当に必要とされる事がどうかもわからないですよね。何が良くて何が悪いかは人によって違う。

でも僕自身は「いやだな」と感じる訳ですから、それは僕の中で解決していけば良い訳で、人に言うことじゃないかなとも思うんですね。

僕がいつも思うのは、同感と共感の話と、一般会話と傾聴の話、その二つが何かを明確に人に説明できない状態で、いくら頷き・相槌・繰り返しの練習をしたって身に付かない、ということだけは確認しています。ちゃんと「共感とはこれです」「傾聴とはこれです」という目的地を持ってからスキルの練習をする。

例えば船で言ったら、最新型の船を用意して、漕いでて、「航海は順調か?」と訊かれた時に、「はい。船は最新式で、どんどん前に進んで航海は順調です」と答えたとします。でも「ところでこの船は何処へ向かっているんだ?」と訊かれた時に「わかりません。とりあえず漕げと言われたので漕いでいます」と、目的地が明確でない航海では意味がないでしょ。

だから中身は何でも良いけれど、自分の中の価値観を明確にしてから、技術の練習をすることをお勧めします。そうでないと「・・・ですね」という言い方さえすればそれが共感ですという話に、どうしてもなっちゃうと思うんです。


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「繰り返しばかりされてかえって傷ついた、という話を耳にする時があります」

ありますね。でもそれしかできないんだと思うんですよ。僕も完璧に聴き取って、完璧にカウンセリングできる訳じゃないので、人のことは言えません。でもそれが傾聴じゃないという意識を持っていて欲しいと思って、著書『聴く力の強化書』の中では話が聴けない11のタイプを示してあります。

僕は聴けていない時は、聴けてないんですって言います。言えれば、良いんじゃないかなと思う。できないことを認められる、自分がそのままを受け止められるという事が大事であって、表面的なスキルができているかと言うと、僕はできていない所が多々あるので、人のことを言える立場ではないと思いますね。ただ、できていないという認識が無い人もいる。

「自己一致のセンスを磨くために何が必要でしょうか?」

知り合いのコーチに、ありのままを受け入れるといいながら、一方で良いことしか考えない様にしているという人がいるんです。これは不思議ですね。

僕が普段何をやっているかと言うと、高校の時はオタクで、異性と接することが苦手で、学校ではガリ勉ぽく見せてても実は勉強が嫌いで、プライドが高くて、という自分がいた、そういう自分の中の嫌なところをしっかり見る。一生懸命探す。見つけて自分の手の中に入れられたら良いなと思って探すんです。

もしそれらを無いことにする、あるのに見ない、あるいは何となくモヤモヤとしたガスや陽炎の様な掴みどころがない状態になっているとしたら、掴みどころがないから、これと付き合うことはできないと思うんですよ。でも実際は自分の中にあるんだから、不意を突かれて突然出て来きたりする。

「悪い(と思う)のはこれだよね」とちゃんと自分の中でクリアに見る。人の話に触発されて言いたくなっている僕もいるんだけど、それを責めたりせずに捕まえて「ちょっと僕、今、人の話を聴きたいから、ここにいてくれるかな」と横に置いておく。で、「私こうなんです」とは言わず「あなたそうなんですね」と、やる訳です。

「ちゃんとハンドリングできる様にしておくという事ですね?」

そう。悪いものをちゃんとクリアに見て、よいしょと横に置いておける様にする。

「そうでないと相手に押し付けますよね」

そうそう。心のフィルターが反応しちゃうから。結局は自分への傾聴なんです。自分が感じているものを、クリアに見ようとする。見ようとすること自体が一致です。悪いものの存在もちゃんと所有できているからこそ、安心して相手の世界にグッと入っていくことができるんだと思います。感情的に巻き込まれてしまうと思ったら行けませんからね。

例えば僕が母親と仲が悪かったとして、母親のようなクライアントが来て息子にいうことを聞かせたいとか言われたとすると、きっと僕の中のフィルターがカチンと反応するでしょ。「お母さん、そうじゃなくてお子さんの気持ちわかってあげてください」と言いたくなっちゃうでしょう。

母親には心のフィルターが反応しやすい自分がいるとわかった上で、よいしょと横に置く、この練習ですよね、傾聴の練習って。これだけです。これだけできたら技術や知識はいくらでも後から身につくはずです。

でも企業研修で、この自分と自分との関係をたくさんやろうとするとまだあまり歓迎されません。基本的には知識とスキルを知りたいと言われます。最近は少しやりやすくなって来ましたけれども、内面と向き合うというのはまだなかなか慣れていないようです。

カウンセラーさんの中には「自分の嫌な部分や悪い部分を全部吐き出しましょう。吐き出すと楽になるよ」と言う人もいるようですね。これも一つの暴力だと思います。僕は、吐き出したくても、吐き出したくなくても、どちらでも傍にいるよ、という姿勢が好きです。

「吐き出せというのも、押し付けですね」

そうなんですよ。吐き出して喜んでるのは誰かと言ったら、吐き出して貰ったカウンセラーの方なんじゃないでしょうか。「やったー。吐き出させたー!」って。そういう関わり方をされた時は自分もされて嫌だなと思ったことがあるし、僕も似たようなことをしてしまっている事があるかもしれないけど、それは僕がやりたい事じゃないと思いますね。

「カウンセリングと傾聴の関係をどう捉えていらっしゃいますか?」

傾聴をどこに位置付けるかで変わると思うんですけれども、僕は、傾聴というのはある意味人生そのものだと思っているんです。自分をわかってあげるという生き方の一つだと。そう考えると傾聴の中にカウンセリングがあるとも言えます。でも一般的な考え方で言えば、カウンセリングのやり方の一部として傾聴が存在するという事になるでしょうね。

仮に決まった時間の中で、クライアントさんと定期的にお会いしながらやりとりする行為そのものがカウンセリングだとすると、傾聴はカウンセリングのスキルの一つでしょうね。聴き方として、「ふんふん。はあはあ」という傾聴の基本スタイルができたら、いわゆる聴き上手という事になり、「傾聴ができているね。はい○(マル)」で終わりでしょう。

「最初の段階というか、入口としては必須ですよね?」

そう思います。認知行動療法だろうが、精神分析だろうが、人との関係を作る中で傾聴という戻る場所があるとやりやすいでしょうね。僕も昔、若者サポートステーション(サポステ)で一年間相談員をしていたんですけれど、そこには半年間の中で就労させるという明確な目的があるんです。

サポステの事業目的には心理カウンセリングをしてくださいとは一言も書いてないんです。正社員でもアルバイトでもいいので、とにかく就労したという形を作るという目標なので、それを達成するための組織なんです。行動計画をきっちり立てて具体的に提案していくアプローチが増えます。僕もそれをしました。アドバイスもしました。

でも途中でくじけそうになったり、心が折れる人が出てくるんです。その時に、新しい行動計画を立てたり、励ますだけではどうにもならないことがあります。例えば同僚にはハローワーク出身の人や、心理カウンセラーを経験していない相談員もいるんです。そういう人の中には、アドバイスや励まししかできなくて苦労している人もいました。

今よりもっと励まして一緒に頑張ろうとする。でもエネルギーの低い人にそれでは動けないですよ。当然ですが、やがて来なくなってしまいます。その様子を見て頭を傾げるんです。「一生懸命やってあげたのに、何故来なくなったんだろう。最近の若い奴はダメだな」なんていう風に言って。

傾聴は心のエネルギーを上げるものだと思っているので、そういう時にも役立つと思います。


(次回につづく・・)

岩松 正史(いわまつ まさふみ)   傾聴講師 心理カウンセラー
                        株式会社あえるば・飯田橋カウンセリングオフィス代表
                        産業カウンセラー、心理相談員

長野県出身。東海大学政治経済学部卒。
コンビニエンスストア本部スーパーバイザー、システム開発プログラマーを経て大人の教育をする会社、株式会社あえるばに入社。2006年に横浜でカウンセラーによる無料悩み相談会を立ち上げ、多く人のサポートをしマスコミにも取り上げられる。2007年から引きこもり支援NPOの相談員を務める。
2010年から東京都千代田区、台東区の傾聴ボランティア養成講座に関わる。
2012年は飯田橋カウンセリングルームを立ち上げカウンセリングやセミナーを開催している。
その他、企業、団体向けのメンタルヘルスケア研修、講演だけでなく保育園、小学校、子育て支援施設などでのコミュニケーション講座の経験を持つ。
また厚生労働省管轄の神奈川県西部地域若者サポートステーション事業の立ち上げメンバーの一人として、1年で100回以上の面談を行った。
「脳と心を開いて人生を開く」を信条としてカウンセリングの枠にとらわれず心のエネルギーを上げると手伝いとしてアクティブ・ブレイン記憶術、アクティブ・ダイエットなども全国で展開。協会認定マスター講師を務める。
傾聴講座の開催は100回、800人を超える。

<岩松正史先生のHP>
【初心者のための傾聴1日講座】

<岩松正史先生のブログ>
【聴く人が楽になる傾聴スキル】

<岩松正史先生の著書>
cover
「ねえ、私の話聞いてる?」と言われない「聴く力」の強化書



インタビュアー:福田りこ(ふくだりこ)

福田りこ

あなたの中に隠された宝の箱を開けてみませんか。

潜在意識に直接アプローチする心理療法を中心に、
自己受容と自己変容のプロセスに寄り添って行きます。

心理カウンセラー
米国催眠士協会認定ヒプノセラピスト
HP:セラピールーム・サンクチュアリ


インタビュアー:大島まさあき(おおしままさあき)

大島まさあき

大島まさあきと申します。年齢は木村拓哉さんと同級生になります。

現在、働く悩み専門カウンセリングを行っています。
小田急 新百合ヶ丘で活動しています。
働くことに苦痛、違和感を持ったまま働き続けると
人生の大きな舵取りを誤る可能性があります。
自分を見つめ直す機会を持ってみませんか? お気軽にご相談下さい。
HP:働く悩み専門カウンセリング


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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