第98回目(1/4) 吉田 エリ 先生 アトリエ ワイエス

絵はやめよう…と決心した時、アートセラピーを思い出した

今回のインタビューは、アトリエワイエス主宰、
表現アートセラピストの吉田エリ先生です。

表現アートセラピーをベースに、創造の可能性を探り、自分を見つけ、人とつながる
オリジナルのワークショップを展開されています。

「安心できる居場所」づくり、クライアントが自分を越えていくために必要なこと等、
従来のアートセラピーの枠を拡大し、オリジナルのワークショップ、アート表現の可能性を
追求されている吉田エリ先生のお話しを伺いました。

インタビュー写真

「小さい頃はどのようなお子さんでしたか?」

自由奔放な子どもで落ち着きがなかったので、困った母が紙と鉛筆を渡して絵を描かせたら、大人しくしていたそうです。家にいる時は絵を描いて、あとは外で遊んでいるという感じで、勉強はあまり好きじゃなかったですね。結局、それで絵の道に進んだんですけれども。

「絵はいくつくらいからお好きだったのですか?」

物心ついた時からでしょうか…。小さい時は落書きしている程度だったと思いますが、そのうち小学校に上がってしばらくして、絵画教室に通ったり、油絵に興味を持って描き始めました。高校から絵の専門の学校に通ったりしていたので、絵とは縁が深かったと思います。

「絵にも、色々とジャンルがあると思うのですが?」

高校の時は日本画を専攻していました。高校受験の時に専攻を決めなくてはならなかったのですが、当時は物珍しさもあって日本画を選びました。始めたら面白くて結構夢中でやっていたんですけど、美大に進む頃には、将来のことも考えはじめ、デザインに転向したのです。日本画では、食べていけないと思ったのでしょうね(笑)。

大学では、グラフィックデザインを専攻し、専門はイラストレーションだったので、絵を描くことは続けていたんです。でも、ガラス会社のデザイン室に就職してしまうと、仕事に追われ、だんだん絵を描かなくなっていったんですね。

結局、その会社に5年ほど勤めていたのですが、離婚を機に、ニューヨーク(以下NY)に行くことにしたんです。仕事は面白かったんですけど、「デザインの仕事を辞めて、もう一度絵をやってみようかな」と思い立って、スーツケースに画材だけ入れてNYに行ったんです。当時の私は、NYに行きさえすれば、絵が描けるような気がしていたんでしょうね。

1年くらいNYにいたのですが、結局、滞在中に1枚も描けなかったんです。描こうと思っても、何をどういうふうに描けばいいのかわからなくて、ただ時間だけが過ぎて行きました。そのうち精神的にバランスを崩して、「ずっとここにいたらおかしくなるな」と思って日本に帰ってきたんです。

「帰国後はどのように?」

「絵が描けなかった」という挫折感があって、「絵も描けないし、デザインもやりたくなし、何もできないし、私はこれからどうやって生きて行こう?」って考えた時、やみくもに「私に出来ることなんて、人生相談か、お絵かき教室ぐらいだろう」など、無茶な妄想をしていました(笑)。

でも、結局日本に帰ったら全部忘れて、友人に頼まれ、またデザインの仕事を始めたんです。当時はバブルのおかげで仕事もうまくいったし、結婚して子どもも年子で生まれたりして忙しい毎日でした。だから絵も描く暇などないわけです。でも、やっぱりどこかで「絵を描きたいな」と思い続けていたんです。

絵を描いて生きてきた人間って、「絵を描かねばダメだ」という強迫観念みたいなものがあるんでしょうね。でも、いざ「自分で絵を描こう」と思って白い紙を目の前にすると、心臓がバクバクしてパニックみたいになって描けないんです。いつまでも、白い紙の前で泣く日々でした。

でも不思議とイラストレーションの注文が来ると描けるわけです。幸か不幸か、それまで培ったテクニックがあるので、注文に応じてどんなタッチの絵でも器用に描けるわけです。でも自分の絵は、自分の中から湧きあがるものがないので描けないんですよ。

そんな時、小学校に上がったばかりの長男が、軽いいじめにあっていることを知りました。悩んだあげく、「いじめはよくないんだよ」という内容の絵本を創って、いじめっ子がいる教室で読んで聞かせようと思い立ったんです。

「絵本ですか?」

ええ。その当時、始めたばかりの銅版画で作ったんですけど、けっこう出来が良くて(笑)。「せっかくだから絵本の公募にでも出してみようかしら」とまたまた、思い立って応募したら、講談社の新人賞に入選したんです。それがきっかけで、絵本の道が開けました。

しばらくは、絵本の仕事も楽しく、やり甲斐のある仕事だったんですが、やっぱり絵本の絵を描いていても、どこかで自分の絵ではない感覚がありました。依頼があれば描くんですが、自分の絵は描かないわけですよ。

そのうち、「私は絵本のような小さい作品ではなく大きな作品を描きたい。そのための大きなアトリエが欲しい!」と、また思い立ちアトリエを建てるために頑張ったんです。そして、夢が叶い自然に囲まれた理想的な広いアトリエが完成したんです。

そこに沢山のキャンバスや、水彩紙、絵の具をなど、あらゆる画材を用意しました。そこまでは本当にワクワクできたのですが…。いざ、アトリエに籠もってみたら、何も描けないんですよ。まるでNYに行った時の再来のようでした。

デザインもやりたくないし、絵も楽しくない。その時ようやく、「もう絵はやめよう」と決心したんです。「では、何で生活していこう?」と思うと、ここで行き詰まってしまいました。「私は絵のことしか能はないからアートに関わることしかないな…」と考えていたら、ふと昔興味をもったアートセラピーのことを思い出したんです。


インタビュー写真


「アートセラピーですね?」

ナタリー・ロジャーズ博士の書いた『表現アートセラピー』という本に出会い、「これなら私に合ってるかもしれない」と思えました。当時は、日本で学べる機関は見つからなかったので、カリフォルニアで行っていた彼女のワークショップに3年間通い詰めて学んだのです。

ワークで絵を描くという経験は、仕事で描く時の感覚や、作品を描く感覚とは違い、とても新鮮なものでした。絵を描く時の緊張がほぐれ、少しずつ感じるままに描けるようになり、たちまち表現アートの楽しさにはまってしまいました。

そのうち、「絵を描く人をサポートするファシリテーターが面白そうだから、私もやってみたい」と思うようになったのです。トレーニングを受ける一方で、見よう見まねで自分自身でもワークの提供を始めるようになり、気がついたら今に至っていました。

「ナタリー・ロジャーズのワークショップに参加した時の印象は?」

はじめは、「ただ自由に絵を描くだけなんだな…」という印象でした。何かを達成するプログラムがあるわけではなくて、ただ「感じたことを描いてください。感じたことを動いてください」という感じで、淡々と時間が流れていく感じでした。

ナタリーの場合、パーソンセンタード・カウンセリングを確立したカール・ロジャーズというカリスマの心理療法家の父の下に生まれ、学んだこともあるので、自由意志を尊重してコントロールしないんです。というか、必要な場面でもしない。「もうちょっと介入した方がいいんじゃないかしら?」と突っ込みたくなったほどです(笑)。

その自由度はすごいなと思いました。もちろん、放っておくのとは違うんですけどね。ただ、そういった環境の中では、自立した人でないと、自分の心を探究するのは難しいのかもしれないと思いました。

「ナタリーと出会ったことで、変化はありましたか?」

「自分とは誰か?」ということを徹底的に見ることによって、「何で自分が描けないのか?」という理由に気づくことができました。すると、やみくもに急いだりする必要もないし、もっともっと自分とゆっくり関わっていこうと思えるようになったんです。

私は自分自身を持っていると思い込んでいたのですが、実際は絵に関するアイデンティティを失っていたんです。絵を描くこと、すなわち「これが私の絵です」というのは、私にとってとても危険なことだったんです。自分は変わっていくのに、「これが自分の絵だ」って、残っていく絵を描くのが嫌だったんです。そもそも、自分が何かも解らずにいるのですから。

でも、表現アートでは、表現することで一瞬一瞬を昇華していくんですね。破り捨てるような絵を描くだけなんですけど、ムーブメントのようにその一瞬を切り取って表現して、嫌だったらいくらでも再創造できることを学んだんです。つまり、描いたものにこだわらないというスタイルを見つけました。

今では絵よりも夢中になれる表現アートセラピーを見つけたので、あまり描きたいという衝動は湧かなくなりました。表現する人と関わり合ったり、人をサポートしたり、人にスポットライトを当てたりしてファシリテーションすることが、私の天職だなと思えたんです。アートセラピーや心に関する本を書いたり、プログラムを作ったりすることが、私にとっての表現だったんです。それで、目下のところ十分満たされています。

ファシリテーターをしていると、「これが私です」と絵で表現する時よりも、エゴが出てこないことが自分にとってよかったんです。主役は参加者の人だということは、自分の影を弱めていくような感覚なんですね。「魂と調和するためにも、これからはエゴを解放することがいいのかもしれない…」と願っていた私にとって、ファシリテーターという役割は絶好のスタンスだったんです。

「そう思うきっかけは何かあったのですか?」

20年も前のことになりますが、あるセミナーで「マザーテレサに会いにいくツアーがある」と聞き、参加したことがありました。子育て中の身だったこともあり、最初は行けるとは思わなかったんですけど、いろんな偶然が重なって奇跡的に実現したんです。

初めてカルカッタのマザーズハウスに訪れた時、もう夕方の礼拝が始まっていて、シスターが説教しているのを聴いていました。後からマザーが一人でやってきて、礼拝堂の一番後ろに座って静かに祈っている姿がとても印象的でした。彼女が本当に表に立たず、一人の信者として祈っていて、その姿は理屈じゃなく真摯で胸を打たれたんです。

「私もこんなふうに生きる人になりたい」と思うようになり、それがやがてファシリテーターの姿勢へと重なって行ったのかもしれません。エゴを解放することが、これまでの、そしてこれからの私の目標となっています。だから、「ファシリテーターって何もしてないんですね」と言われることは、私にとって褒め言葉なんですよ。


(次回につづく・・)

吉田 エリ(よしだ えり)   表現アートセラピスト アトリエワイエス主宰
                  イラストレーター

多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、デザインの仕事を経て独立。絵本や雑誌の他、書籍装丁のイラストレーターとして活躍する傍ら、国内外のアートプロジェクトのセミナーやワークショップに参加。
米国カリフォルニアのパーソンセンタード・イクスプレッシブ・アートセラピー研究所にて、表現アートセラピーを学ぶ。B・エドワーズ博士の「脳の右側で描け」ワークショップの経験を基に、独自のドローイング・メッゾトの研究を経て、ファースト・ドローイングのトレーニング法を開発・実践する。
ドローイングのワークショップの他、自由なアート表現を追求する「表現アートセラピー」のセラピストとしてオリジナルのワークショップ開催する。
既存の芸術教育にはとらわれないアプローチを実践し、従来のアートセラピーの枠からも離れたアート表現の可能性を追求している。

<吉田エリ先生のHP>
【アトリエ ワイエス】

<吉田エリ先生の著書>
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はじめてのアートセラピー 自分を知りたいあなたへ


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7日間で完全マスター 絵が描ける脳をつくる


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もう落ち込みたくないと思ったら読む本 悩みを手放す「マインド・デトックス」メソッド


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アートセラピーで知るこころのかたち



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:大島まさあき(おおしままさあき)

大島まさあき

大島まさあきと申します。年齢は木村拓哉さんと同級生になります。

現在、働く悩み専門カウンセリングを行っています。
小田急 新百合ヶ丘で活動しています。
働くことに苦痛、違和感を持ったまま働き続けると
人生の大きな舵取りを誤る可能性があります。
自分を見つめ直す機会を持ってみませんか? お気軽にご相談下さい。
HP:働く悩み専門カウンセリング


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:岸眞美(きしまみ)

岸眞美

会社員生活を送るうちに、人が幸せになる、ってどういう事だろうという
素朴な疑問が生まれました。

社内教育に携わり、コーチングに出会い、資格を取得。
現在は、ほっとする「居心地の良い場所」を追究すべく、
自然療法フットケアサロンOPENに向け、日々研鑽中。


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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