第93回目(4/4) 斎藤 学 先生 家族機能研究所

対話で、大概の問題は解決する

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「御著書にある『自己との和解』において、必要なポイントは何でしょうか?」

自分の中にいる批判者、これは超自我というものですが、その一部はエス(無意識)に隠れていて非合理な自罰感情になります。これが自分でも説明できない万引などを引き起こすので、長い時間をかけて意識化(言語化)する必要があるのです。

こうした自罰感情や自己批判が一番手強いんです。その批判者は自分の弱点をよく知っているし、「もっと頑張れないのか?」というようなことを言ってくる。これに対して、「うるせえ!」とか言うと独り言になっちゃうから、私は、「心の中で『またまた』と言え」と言っている。

「またまた」は「うるせえ!」と違って、「また出てきた」とかいうように批判者を外在化することになります。名前をつけたっていいんですよ。リエコという人の批判者を“エリー”とか言って。「エリー、勘弁してよ。そんなことばかり言ってきてさ」とか心の中で思えば、もう1人の自分の中の人格を外在化したことになる。

「あなた、知っているじゃない。私がこういう風に思いながらああいう風にやったこと。私にも一理あるのよね。うまくいかなかったことは認めるけど、でもそんな風に私の全体を否定しないで」と。一番自分を全面否定するのは自分自身だからね。

私がまず、皆さんに言っているのはそれだよね。自分の中の批判者。それはお母さんの似姿であることが多いので、それに似せちゃうと実際のお母さんと全然違うモンスターができ上がる訳ですよ。でも、実際のお母さんを見ると、娘を心配しているごく普通のおばさんにすぎないことが多い。

「モンスターを作ってしまっているのですね?」

母親なんていうのは、自分にとって一番のリソース(社会資源)ですよ。お金の面ではお父さんかもしれないけど。お母さんのように、自分と同じように、あるいは自分を犠牲にしてまで娘に尽くそうなどと思っている人は他にいないじゃないですか。それをモンスターにして自分の中に作って飼っている。

「実際にお母さんとお話してごらんよ」と言うと、「もう20年帰ってません」というのはザラにあるからね。私も、「お母さんをここに呼んでよ」って言うけど、「いや、全然相手にしてませんから」などと言うから、「とにかく連絡しなさい」「連絡しないなら来なくていいよ」と言うとさすがに呼んでくる。

それが本人の人間関係の重要なポイントの泉のようなものじゃないですか。2人で話すと難しいことも、3人目の私がいるとそれは既に家族療法的面接になるわけ。とにかくそういう場の設定を柔軟にやっていくことが私の治療技法なんですよ。要するに“対話”。「対話でもって大概の問題は解決する」というのは私の考え方。

薬を使わないわけじゃないけどね。双極T型障害の人に炭酸リチウムを使う、とか理が通っていることだったらやりますよ。

「心の仕事をしている方へのメッセージをいただけますか?」

あまり既存の教科書や人名にとらわれないことじゃないですか。自分の考えていることでやれると思ったことがあったら、放り出さないで結果が出るまでやり続けること。その時代時代の潮流みたいなものに翻弄されていると何もできない。

特に精神科の医者に言いたいんだけど、薬屋の店員みたいになっちゃダメだよ。だいたい薬屋が書いてくる医者用の説明書は、都合がいいことしか書いていなくて、一言でいうとウソ。それに、そこで使われているシェーマはほとんどマンガ。モノアミン仮説とか、二重盲検法による統計学的な有意差とか、あんなもの信じちゃいけませんよ。

「100人のうち、1つの実薬で50人治りました。だけど、うどん粉でも35人治りました」と言ったら、こんなのは効かないということなんですよ。統計学的には十分有意になっちゃうけど、そういうものをエビデンスと呼んでいるので、あまり薬屋(創薬産業)主導の考え方に溺れないことじゃないですか。


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「日本におけるこれからの心理臨床はどうあるべきだと思われますか?」

「患者に学べ」だよね。まだ心理療法そのものを、「そんなものはないかもしれない」みたいに言っている人がいる。私は、十分学習した上で言っているつもりだが。

外国人の名前にとらわれて、アラン・ベックのCBT(認知行動療法)だの、マーシャ・リネハンのDBT(弁証法的行動療法)とか色々なのがあるけれども、「そんなものに振り回されていないで自分で考えろよ」というのが私の批判。箱庭療法みたいに、日本でしか通用しない権威が言ったことをそのまま遵守している人が多過ぎるんだよ。

そうしないと行動するタイプの精神科医とリンクできない。むしろケースワーカーとならリンクできて、「家族の様子を教えて」とか現場同士の話ができる。そういう部分で人がほしい時にコワークできるのはむしろソーシャルワーカー、PSW(Psychiatric Social Worker)なんですよ。

ナラティブ・セラピーのギアンフランコ・チキンという人が23か24通りに分類していたけど、それを全部使いこなせるようになってから、ナラティブならナラティブを主に使う、というやりかたをしろ、と言っている。

でも本当に必要なことは、2つか3つしかない。あとはそのヴァリエーションです。起こっている現象を肯定的に考え直してみること(肯定的意味づけ)。2つ目は違った枠組みからとらえなおしてみること(リフレーミング)。そして、3つ目は時間を味方につけることです。

子どもが学校へ行かないという現象も、これを困ったこととだけ見ないで、そこに肯定的意味づけをしてみてください。肯定的にとらえれば、子どもの不登校は離婚しかけている仲の悪い親達が相互に結合するきっかけになるかも知れない。だから、急いで解釈しようとしない方がいい。

「肯定的にとらえなおす・・・」

拒食症の子を入院させて血管栄養したりとか、あんなムダなことをやっていて。頭のいい子だったらそこでおとなしくしていて、41kgくらいまで体重が回復して退院したら、また29kgくらいまで痩せちゃうなんて簡単ですから。

そういうことを繰り返してないで、「なんでまたそんなにボニー(boney)なの?」と「そういう風になっちゃう自分というのはあなたの中に確かにいるけど、それがあなたを全面的に支配しているのは変だよね」とか言って、“ボニーちゃん”とかいう名前つけて外在化して、「ボニーちゃんの他に誰がいるの?」と言って、そういう考え方の中に彼女を慣らしていく。

そうすると、お母さんの人格とかが出てくる。多重人格というのはなかなか治らないけど、自殺しないという特徴があるんですよ。多重人格化することで自分を守れる。それを逆に使うと自分がやっていることを外在化させて何人かの登場人物がいるようにしちゃうんですよね。

「多重人格を肯定的に使うのですね?」

病気というのは使い方によってはすごく役立つ治療法なんです。逆説的だけど。

「カウンセラーは今後どうあるべきだと、お考えですか?」

カウンセリングそのものの質というのはどんどん上がっていくし、専門の必要性も正当に評価されていくようになると思うんです。その点では将来明るいと思う。ただ、自分の知的欲求を満たしたり、それによって「世間から尊敬されよう」とか、その点に関しては今とあまり変わらないと思う。

要するに、「人の上に立とう」という野心の道具にはなれない。ちょっとwebで調べれば、先生が言ったことの確認が可能な訳です。クライアントはそういう情報を見た上で来ていると思った方がよくて、単に知識を振り回して「私は専門家です」みたいなことを言っていると足をすくわれちゃう。

「先生だけがわかってくれる」と言っていても、ボーダーラインタイプの人だと一転して治療者を悪魔みたいに扱います。それを1〜2例経験するとカウンセラー自身が仕事がイヤになっちゃうんですよ。そういう経験が必ず何度か訪れるので、「先生だけが頼り」「先生しかわかってくれない」という時が一番危ない。

「そんなことはありえない」と言って、「言っとくけど、私はあなたを治せるかどうか全然自信ない。ただ1つできることがあって、それはあなたという役者を見続ける観客でいる」と。これは正しいんですよ。

「これからは私がいつも見ていると思って生活してみてね」と言ってみる。駆け出しの人が言うと変かもしれないけど、その分、長く見られるからね。そうすると、「あなたと私は親友よね」とか、「ずっと見ているからね」というのと同じでしょう。これは患者を随分落ち着けるんですよ。

「見続ける立場なのですね?」

そう。病気を治す立場じゃないんですよ。「とにかくあなたを見る。助けないけど見てる」。主役はあくまでクライアントであって、クライアントがどう生きるか、ということ。カウンセラーはそれを面白がって見る立場。

あと、最初の段階でクライアントに、「自殺を考えているなら私の患者としない」と言っておくといい。「死にたいと考えるのは自由だけど、本気で死ぬと考えているのにその責任取れというのでは仕事できません。死にたい方が強いんだったら、そちらの気持ちが落ち着いたらまた来てね」と言ってかまわないんですよ。

「今、辛さを抱えている方にメッセージをお願いします」

「なんとかなる」ということですね。ただ、ちゃんと自分がなりたいものを明確にすることでそれに行き着く。富士山に登頂するには、7合目まで車で行って登ったらいいのか、富士吉田で1合目から登っていくか。それから山梨側からも静岡側からもあるじゃないですか。

だけどまず、「富士山のてっぺんに登りたい」というのがなければ、その次のことを思いつかない。次の段階として、「7合目から登るのが実力だな」と思ったらそうすればいい。もし困ったら聞きに来ればすぐに教えるよ。それにもし、私が死んじゃっても、私と似たような人を残すからね。


<編集後記>

行動する精神科医として、セルフヘルプ・グループへの活動支援など、
多方面で精力的に活動を続けていらっしゃる斎藤学先生。

診療後の夜に、お時間を頂戴したのですが、先生はお疲れの様子もなく、
ユーモアたっぷりにお話し下さいました。

斎藤先生のパワフルぶり、そして、患者さん達への深い想いには
圧倒されました。

「『先を歩む人』つまり、リカバリング(回復途上者)による助言者活動で
日本の嗜癖(依存症)問題はほぼ解決する! これが私の最後の仕事です」

と、おっしゃる斎藤先生の言葉は、セルフヘルプ活動の大きな可能性と、
対等な関係性の大切さを再認識させて下さいました。

斎藤 学(さいとう さとる)   家族機能研究所 代表、精神科医 医学博士
                   医療法人社団學風会さいとうクリニック理事長

1941年東京都生まれ。1967年慶應義塾大学医学部卒。同大助手、WHO研修生、フランス政府給費留学生、国立療養所久里浜病院精神科医長、東京都精神医学総合研究所副参事研究員(社会病理研究部門主任)などを経て、1995年より、家族機能研究所代表。
医療法人社団學風会さいとうクリニック理事長。医学博士。日本嗜癖行動学会理事長、同学会誌「アディクションと家族」編集主幹。日本子ども虐待防止学会顧問。日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン(通称:JUST)理事長。アライアント国際大学/CSPP臨床心理大学院 東京サテライトキャンパス 主任教授。
“現代の病”ともいえる過食-拒食症、アルコール・薬物・ギャンブルなどの嗜癖(依存症)問題に長年取り組む。現在、アディクション及び家族の機能不全に関する研究者の第一人者として、彼の研究業績および思索はあらゆる分野の人たちに示唆に富む問題を提起。また、行動する精神科医としても知られ、AKK(アディクション問題を考える会)、NABA(日本アノレキシア・ブリミア協会)、JUST(日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン)など多くの自助グループ・団体の誕生を支援。現在も、臨床の合間をぬって、全国各地で講演活動やワークショップを行うなど多忙な日々を送る。

<家族機能研究所のHP>
【家族機能研究所】

<さいとうクリニックのHP>
【さいとうクリニック】

<斎藤学先生の著書>
cover
依存症と家族


cover
インナーマザー あなたを責めつづける心の中の「お母さん」


cover
家族パラドクス―アディクション・家族問題・症状に隠された真実


cover
アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す



インタビュアー:下平沙千代(しもひらさちよ)

下平沙千代

日本一やさしい女性ケアドライバーです。
タクシー車内がセラピールームになることも・・・、
アロマハンドマッサージや、ソース・ワークショップも開催しています。

ソース公認トレーナー、アロマハンドセラピスト、NLPセラピスト
レイキヒーラー、トラベルヘルパー、NPO法人東京シティガイドクラブ会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:大島まさあき(おおしままさあき)

大島まさあき

大島まさあきと申します。年齢は木村拓哉さんと同級生になります。

現在、働く悩み専門カウンセリングを行っています。
小田急 新百合ヶ丘で活動しています。
働くことに苦痛、違和感を持ったまま働き続けると
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インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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