第86回目(4/4) 春日 武彦 先生 精神科医 成仁病院顧問

優しさだけでは駄目。使える道具=“言葉”を持つ

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「今、悩みを抱えている方へ、先生からのメッセージをいただけますか?」

まず、その悩みをきちっと言語化して誰かに伝えること。頭の中だけでぐるぐる考えている間は、多分、解決はつかないだろう。解決の仕方って、自分だけでは「こんなことしかないだろう」と思っていても、実は思ってもみないような方法があり得るんだよね。

だから、他人に伝わるような形にして、「困っている」というメッセージを発しない限りは救いは訪れない。逆に、その思いを発すれば、すぐに何とかなるとは限らないけど、思わぬところで意外と解決がつく。

それは自分が望んだとおりでなくて意表を突いた形なのかもしれないけど、別の展開があり得るということは言っておきたい。それは、自分自身がこの悩みを一体どうすればいいかわからないっていう体験があったから言えること。

小さい時にね、音楽で木琴を叩くという授業があったんです。だいたい、ぼーっとしている方なんで、何が何だか分からないけど、適当にやっている振りをしてごまかしていたのね。そうしたら「来週、木琴の試験をやります。一人ずつ叩く」って言われて。

何もわからないし、近所に友達も住んでいないし、どうしようって思った。そもそも、木琴のドの位置が分からないわけね。その時どういう訳か、ドレミのドの位置さえわかればこなせるって、それだけはなぜか分かったんだよね。そうすれば練習すれば何とかなると、そこまでは薄々分かった。

でも、その先がわからない。ひたすら悩んで。悩むって言ったって、「どうしよう。どうしよう」と思うだけなんだよね。ついに、来週に試験があるという日曜日に、もう本当に大決心で親父に泣きを入れたわけね。「こういうことで木琴が分からない。どうしよう」ってね。

そうしたら、親父が「わかった。とにかくデパートに行こう」って。西武デパートの楽器売り場に行って、木琴を買ってもらったわけ。ついでに教則本も買って。その時の、本当に救われたという気持ち。本当にこれで俺の人生何とかなるという気持ち。

その時は帰りの電車の中で木琴の箱を抱えながら、「俺の人生救われた」と思ったわけ。ありありと、今でも覚えていますよ。窓の外は雨が降っていて。

「お父様が神様に見えた?」

そうそう。よく考えれば、あの時泣きを入れたのが良かった。もっと考えればちゃんと授業を聞いていれば良かったっていう話なんですけれど、とにかく、そういう風に言えば良いんだって分かったって大変なことだよね。

そういう体験を持てたというのは、それなりに自分が恵まれていた訳ですよね。そういう所まで追い込まれたのを不幸と思うべきなのか、そこで泣きを入れて救いが訪れたという体験を持てたということを幸福と思うべきか。今の仕事にリンクさせれば、明らかに幸福な出来事だと思うんですね。

いかに助けを求めるか、あるいは、胸の中でじくじく思っていることと泣きを入れるということが、どれだけ違うのか、身を持って知っているので。基本的にはドライな所があるんだけれど、いざという時には、わりと親切ですよ。

自分で言うのもなんですけど、意外と手を抜いている割には、人のツボを突いて「助かった!」と思わせるようなところは、他の医者よりちょっと上かもしれないという自信はあるのね。身を持って学んだという風なところですよね。

人生万事塞翁が馬というかね。あまり恵まれ過ぎる人生も良くない。小さい頃に少し辛い目に遭うのも重要だとつくづく思いますね。

「心の仕事をする人へのメッセージをお願いします」

単なる優しさだけじゃ駄目だろうと思う。自分が辛かった時にどういう形で救われたのかとか、そういうことを頭に思い描いたりして、人助けをというか、心のお手伝いをするということを考えないと駄目ではないかということ。

もう一つは、言葉ということ対して、自分自身、ボキャブラリーが豊富でなくてはいけないし、いかに相手に意見交換させるかとか、言葉というものを大事にするというのは重要なんじゃないかって、つくづく思います。


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「言葉を大事にする・・・」

病院に当直していると夜中に「不安です」と、電話してくる患者がいるわけですね。ある程度お話に付き合ってあげればいいんですけど、眠いし、回線を塞がれるのも病院としては困る。「注射打つから病院に来なさい」と言うのもタダじゃないわけだから実際的な話じゃない。

どういう風にしたら良いだろうかと、自分で思いついたことがありましてね。「君は夜中になると不安になるけど、朝まで粘るとどうにかなる傾向があるよね。ついては、朝まで粘る練習をしてみよう」と提案してみたわけです。そうすると、相手は「朝まで粘れるようになった」と。

これは何かというと、“練習”という言葉ですよ。練習という言葉っていうのは裏を返すと、失敗しても良いと言っているわけです。なるべく頑張って欲しいけれど、「どうしても耐えられない」と電話してきたって怒りはしませんよ。ただ出来ることなら頑張ってみましょうという提案ですから。

それと、練習とこっちが言いだしたことはね、直接脇にいるわけではないけれども、気持ちとして「あなたの脇に伴走して、あなたが頑張っているっていうのを、こっちだって心の奥に留めていますよ」という意思表示になっているわけじゃないですか。

だから、そういう風なことによって、相手も予想外に頑張れたりする。つまりそれは単に「練習してみよう」という物の言い方それだけで、えらく違ってくるということがあるわけです。

ある種、それは自分にとって使い勝手がいいとか、自分とマッチしているとかなので、自分が言うとうまくいく言い回しとか、いろいろと有ると思うんです。そういう風なのを見つけたり、そういう風なことができるようにならないと、終わっちゃうっていうところがあるんじゃないかな。

そういう意味で、言葉というものに鋭敏になるのは重要になる。

「使える道具を持っておこうということですね?」

そうそう。それは、我々にとっては言葉になるわけですね。

「先生が、お仕事をなさる上で大切にしていることは何でしょうか?」

結局、風邪が治りましたみたいな、そういう単純な形でのエンディングはないんじゃないですか。どの辺で、「まあいいや」と思ってもらうようにするかとか。いかにあきらめさせるか、そういう風なスカッとした気持ちになれないことが結構多いわけじゃないですか。

まあ、この辺で妥協しろよ、ということが多い訳だけれども、その辺をね、スカッとしないことを嫌だと思わないようにしようというのが、それも、それでありなんだと。むしろ、歯切れよく解決しましたみたいな方が、よっぽど危ない。

実は生焼けみたい、フェードアウト、無力感が出ちゃうみたいな方が現実にマッチしているんだと。そういう風な中途半端さを抱えながら仕事をしていくというのに耐えていくというのが、自分の仕事だという風に思うあたりが重要だと思っている。

だから、スーパーマンになろうなんて、さらさら思っていない。せいぜい迷った時に道を教えてくれるおじさんみたいな、そんな風なものだと思っています。

「ご自身の心の健康、セルフケアとしては、どんなことをなさっていますか?」

物を書くのが一番、自分にとって救いになっていますね。言葉に興味があるということだからなんですよね。書くことが確実に救いになっています。あるいは物を考えたり、整理したりする時に、書くということが助けになる。

妙な話をするんですけれど、言葉に関しても決定的な体験があります。

小学校1年生の時に、テレビで6時55分から『野村証券提供、国際ニュース』というのをやっていました。国際ニュースというのですけれども、実際にやっていたのはアメリカ軍の新型ジェット戦闘機が出来ましたみたいな、軍事物ばかりやっているものでね。

だけど、男の子だから好きなわけですよ。欠かさず観ていたわけね。そして、よく遊んでいた小学校6年生のませたやつに向かって「国際ニュースが好きだ」と、そのことを盛んに伝えたかった。だけど、上手く伝わらない。非常にもどかしい。

核心を突いた言い方をしたかったのだけれど、ジェット機や戦車が出てきて嬉しいとか、幼稚な言い方しか出来ない。その時にませた小学校6年生の子が偉そうに、「なるほどね。確かに君は好きそうだね。あのニュースは非常に飛行機的だからね」という言い方をしたんですね。

今から思えば、めちゃくちゃな言い方だけれどね。でもそれを聞いた時、「そういう言い方があるのか。まさにそれで俺の言いたかったことを串刺しにした!」その快感は大変なものだった。

この一言で今まで回りくどく言っていたことが、ちゃんと言えたじゃないかと。その言葉の驚きは大変なものでした。このように、言葉には大変な力があるんだという気持ちがあるのでね、ずっと、こだわり続けている。

そのあたりで言えば、言葉を商売にするということで、精神科医兼、物書きになったというのは、当然、必然のことでした。

「今後の夢や展望を、教えていただけますか?」

好きなことを書いていく。それじゃないとリアリティが何もなくなっちゃいますから、臨床は続けますけれども。小説にウエイトが傾いてきています。小説は好き放題書ける。医学系の物を引きずっていると、いわゆる色ものと見られるという、そういうところが寂しい。

「先生のアイデンティティーとしては、クリエイタ―でしょうか?」

音楽の才能は全然無いし、しょうがないから書く。

「文筆家?作家? どれが一番ぴったりきますか?」

文筆家でいいです。本当はミュージシャンが良かった。35歳位の時に、コードなんて一つも知らないんだけど、にもかかわらずフェンダーUSAを買った。ボディーも黒でネックも黒でね。ピックガード張り替えて。すごく高いの。練習を始めたのに全く上手くならない(笑)。

「次のご執筆のご予定は?」

今もゲラが出ています。今、抱えているのは5冊位。大体、いつもそうですけど、そういう状態じゃないと不安。そうじゃないと、世の中から見放された感じがしてね。


<編集後記>

今回は、優しい笑顔の春日武彦先生にお話しを伺いました。

「精神科医は、患者さんの将来や生き方まで考えなきゃいけない」
「だから、せめて見聞を広げないと・・・」と、
診察室を飛び出して、アウトリーチを続けられた春日先生。

先生の「好奇心」は、患者さんの人生をみつめる「暖かいまなざし」
なのだということが伝わってきました。

その先生の優しさの原点は、「木琴問題」で、ご自身が
お父様に救われた体験と、今回お話を伺ってわかりました。

「スーパーマンになろうなんて、さらさら思っていない」と、
おっしゃる春日先生ですが、「わりと親切」どころか、
“言葉”という最強のツールを駆使する
稀代の“スーパードクター”と、感じ入りました。

春日 武彦(かすが たけひこ)  精神科医。医学博士。成仁病院・顧問

1951年、京都府生まれ。医学博士。
日本医科大学卒業後、同大産婦人科医を経て精神科勤務。東京都精神保健福祉センター、都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院神経科部長などを歴任。
現在は成仁病院・顧問の立場で、臨床および執筆を続けている。
専門書・一般書ともに著書多数。

<春日武彦先生の著書>
cover
援助者必携 はじめての精神科 第2版


cover
精神科医は腹の底で何を考えているか


cover
「治らない」時代の医療者心得帳


cover
病んだ家族、散乱した室内―援助者にとっての不全感と困惑について


cover
緘黙 五百頭病院特命ファイル



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:高橋美智代(たかはしみちよ)

高橋美智代

不惑を過ぎてから、心理学を勉強中の身です。
一瞬一瞬を、共に過ごす人々と、大事にして生きていきたいと思う
今日この頃です。

好きな動物:猫
趣味:読書 ピラティス
レイキマスター


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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