第86回目(3/4) 春日 武彦 先生 精神科医 成仁病院顧問

いろんなことを背負い込まされるから、基本的に家族って面倒くさい

インタビュー写真

「“家族”については、どのようにお考えですか?」

うちは子どもがいなくて女房と二人だけなんだけど、僕は最初、女房と結婚する時に「子どもを作る気はないけどいいですか?」と確認して、結婚したんです。

何で子どもを作らないかと言うと、僕は、ゆうちょで払い込みも満足にできない人間なので、子どもを教育するとか躾けるとかまったく自信がないわけですよ。自分が子どもを育てるということに対して責任を持てそうにないんですね。

もう一つは、健康な子どもが生まれるかどうか、これは丁半博打みたいなもの。産婦人科医をやっていた頃は、出産前に超音波検査とかやるわけですが、生まれたら「あちゃー」ってことは必ずあるわけです。自分の子どもがそうだった場合、自分がどう思うか想像がつかなくて。

僕はくじ運悪いわけですよ。だから、神様がいるとしたら、「お前みたいな奴は背中に荷を背負え」と言われそうで、どうも障碍児が生まれるんじゃないかと、根拠のない確信があるわけです。と言って、障碍児が生まれても大江健三郎みたいな根性もない。そういうわけでそこまで冒険する気になれない、というのが一つある。

僕は、望まれない子どもだったら、生まれてこない方が遥かにいいことだと思っている。下手に生んでくれるよりは、とっとと堕ろす選択肢を選んでもらった方がいい。むしろ、お前みたいに子どもを産む方が迷惑なんだよ、と言いたくなることが遥かに多かったから、子どもを持たないという選択に対しても割とドライに構えられた。

さらに言うと、自分自身が一人っ子だったこともあって、一人っ子って期待が分散しなくて辛い部分があるんですよ。

「いまだに辛い?」

俺、基本的に家族って嫌いなんだよね。こんなこと言うのは何なんだけど、僕の母親って割と美人なんですよ。山口淑子に似ているような感じ。僕の母親への一番の負い目は、母親は口に出したことないんだけど、母親の期待に応えられるようなルックスのいい子どもになれなかったってこと。

母親は、多少頭が悪くても、ジャニーズ事務所の子みたいな子を多分望んでいたんだろうと、俺は勝手に思ってるんですよ。そこでものすごい罪悪感があるわけですよ。だってルックスなんて今更努力で変えられない。罪悪感というか、空しさというか、この歳になっていまだに引きずってる。

そんなこと言ったってしょうがないだろう、馬鹿馬鹿しいって、理屈ではちゃんと分かってるんですよ。人間内面が大事だって一応は思っているけれど、実際そういうのは引きずるんだよ。そういう点で、自分は親の期待に応えられなかったって、いまだにクソ面白くないわけですよ。

父親に関してはどうかっていうと、それなりに外科医として結構なところまでいって、厚生省、環境庁に行って局長になって、そのあと東海大学の公衆衛生の教授になって、まあ一応それなりの形になってるわけね。そんな親父に勝てたかっていうとなかなか怪しい。

だから、僕がなぜ本を書くかって、自分で書きたいっていうのもあるんだけど、両親に対して真っ当に勝てないから、少しずれたところで奇襲作戦をしてるんです。あんたらこんなに沢山本出したりできないでしょうって、ちょっと卑劣なやり方でね。でも正攻法で勝った気がしないから不全感があって、いまだにグジグジ言ってるわけですよ。

そういう風なんで、もう、家族って面倒くせーなって思っていて、本当に嫌。家族がいることで、こんなにいろんなことを背負い込まされるのかと思って。

家族っていうと暖かくて、ある種シェルター的なイメージを持つ人と、家族は嫌なものと思う人といるけれど、俺はもう、家族ってのは嫌だと思う方ですよ。

「治療側としては、ご家族にはサポーターになってほしいですよね?」

だけど、見てると、サポーターになるような家族は俺のところに来ない。だから患者には、「とっとと家を出ろ」と言いたいんだけど、僕自身が家を出たのは30歳、医者になってからですよ。

自分がひきこもりにならなかったのが不思議なくらいだと思ってるんだけど、僕は30歳まで自分の服を買ったことがないんですよ。

まあ、それには俺なりの理屈がちゃんとあってね。服を買いだしたら、他の物も欲しくなる。でも自分で稼いでない限り親に金出してもらわなきゃならない。そうすると買い物するのに理由をつけなくちゃいけない。でも、「この服がほしい」って、大体根拠ないわけ。

敢えて根拠を言うとすれば、あのロックスターが着てた服とか。そんなこと親に言えないじゃない。そうするともう買ってもらうしかない。それもね、人から見ればおかしいけど、俺なりの倫理なのね。全然倫理にも何にもなってないけどね。

服は母親が買ってくるんだけど、結構高い物を買ってくるんだよね。学生の分際で結構いいブランド物を着てたんだけど、自分の趣味とは絶対に違うわけ。そういうのが嫌だなと思っていた。だから早く自分で稼いで自分の服を買いたいと、本気で思ってました。

医者になって最初に金もらった時は、札束を握って服屋に飛んでいきましたよ。あのころ一番高かったY'sで服を全部そろえた。それから当時、一番今っぽいと言われてた白山眼鏡店で眼鏡を買って変身しました。そういうことをせずにいられなかったんですね。

それまでは、医学部でバイトもできなくて親の世話になってるのもしょうがないと悶々としてたけれど、医者になってからは家を出て、歯止めが外れてはじけました。

「家族で苦労している方に、先生からのメッセージは?」

とっとと家族を捨てて逃げろ、と、それだけです。

大体、問題のある家族って、家族の図を作るとわかりますね。真っ当な人間から、進学だの就職、結婚にかこつけて家を出ていきますよ。最後まで家に残ってる人は病理性の高い人だから、我々が介入する時にはもうドロドロに煮詰まってコールタールみたいな状態になってる。

もう逃げようにも逃げられない人しかいない所、そんな所にしか我々は介入しないからね。それで、逃げた家族の一人に連絡を取ると、関わらないでくれと断られるわけです。「逃げ損ねた君、かわいそうだね。だけど今更無理だったよね。よくわかるよ」って声をかけるんです。

その時、自分の過去と重ね合わせて、「俺でなくてよかった」と思うわけですよ。そこは、俺でなくてよかったにしろそうでないにしろ、何らかのリアルな思いを抱けるかどうかって重要なことじゃないですか。

「完全に他人事だったら介入なんてできないですものね」

そうそうそう。だから共感や同情はしないけど、わかりますよ、と。理解はできますよね。


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「援助者として燃え尽きないようにするには、どうすれば良いでしょうか?」

それはもう、好奇心を前面に出すことだと思う。だって、面白いと思えなければ、こんな割に合わない商売はないもの。

いわばメーターの振り切れた人とわかり合える機会があるわけだし、こういう人もいるんだ、こんな家庭でも何とかなってるとか、それを知ることができるという、その楽しみだけだよね。だけどそれって重要じゃないですか。単に儲けようと思ったら他の方法はいくらでもあるし。

もう一つは、着地点を我々は探らないといけないんですよ。着地点っていうのは、いかに相手の幸福を見定めるかということなんだけれど、そこでわかったことは、幸福って実は、金と地位と健康があればいいってことじゃなくて、人それぞれ違うんだってことですよ。

それぞれの人に、その人その人の幸福を考えてあげるっていうのも興味深いですよね。幸福の多様性っていうのを身をもって知ったのは、非常に重要な経験だったと思っています。

「援助職に就いてはいけない人とはどんな人でしょう?」

ステレオタイプな物の考え方しかできなくて、それを押し付ける奴ですよね。自分が正しいと思っていて、それを無理やり人に押し付ける奴は、間違っていると思います。私なんかは、歳ごとに脱力傾向になっていますがね。「まあいいか」みたいな感じでね。

我々が介入して何とかしようと思う時って、一番多いのが共依存、あとは何らかの形で妙なことになっていてどうにもならない状態の時です。どうにもならない状態って、何でどうにもならないかって言うと、実は安定してるからなんですよ。

不安定だったら、どんどん変わったり、こっちがちょっとつつけば変わるわけです。こっちがつついても変わらないっていうのは安定してるからであって。だけれども、その安定の具合っていうのがこっちから見れば、そういう低レベルの安定って人としてどうかと思う、という状態なんです。

だから、こっちとしてはもうちょっと高いレベルに持っていきたいと思うわけじゃないですか。そこで介入して低い安定を高い安定に持っていきたいんだけれど、そのためには、実は一度、安定を突き崩さなきゃならない。一旦不安定にして、組み立て直して高値の安定に持っていく。

だけれども、ほんのわずかな時間でも不安定に耐えられないっていう人が多い。「そんな不安定を味わうくらいなら、今のままでいいです」と言うんだよね。

昔はね、「それは君は間違ってる」とかいろいろ言ってたんだけど、最近は、「まあいいや。それもあなたの考えだから」って。

ただ、それで引き下がったらこちらも寝覚めが悪いので、「あなたのその考え方は不健康だと思うし、あなたの今の状態は、少なくとも俺から見ると幸せとは思えません。でもそれを変えるためにはエネルギーも根性も要るし、痛みも伴います。もしも、やるとしたらこういうやり方もあるし、こういうやり方もあります」と選択肢は示します。

「もし本気でやる気があるなら連絡して。手伝うから」とオープンエンドにします。もしかすると、彼らが他のやり方の選択肢すら思いつかない、或いはもっと別の幸せがあるってことを想像できないという可能性は結構ありますから、せめてそれだけはちゃんと教えてあげる。

それから、それを実現するためには、決して楽ではないけれどやり方はあって、手伝うこともやぶさかではない、だからチャンネルは一つ開いておきますよ、と伝えています。

だけどみんな、そのままで行く。それが世の中なんだろうなと。それはしょうがないし、一応チャンネルを開いたということでこっちの役目は果たしている。それ以上は、はっきり言って多分余計なお世話なんだろうと思うわけです。

自分自身で言えば、自分はそのチャンネルを頼って、抜け出した人間だと思っている。もしかしたら、ひきこもり何十年ということになっていたかもしれないけど、どこかで「こりゃまずい」と思って、抜け出したのが自分だという位置づけでいます。

「先生ご自身がサバイバーということなのですね?」

そうそう。だけれども、それを他人に強制する気はない。

「サバイバーになれる人となれない人の違いは何でしょうか?」

一つは運でしょう。それともう一つは、安易さが違う。これでいいやと思うのか、まずいんじゃないのと思うのか。危機感をちゃんと持てるかどうかですよ。ある意味、「このまんま」っていうのが楽で。人間は「面倒、なしくずし、こんなもん」の3種のセットでズルズル行くのが、実は一番楽ですからね。

もう一つ、自分が恵まれていたとしたら、親族にちゃんとした人間が多かったということです。「あまり恥ずかしい立ち位置にはなりたくないな。一族の恥っていうのは嫌だな」というのがあった。

父親に対して少しずれた所で見返そうという発想って、安室奈美恵の元夫もそうですよね。実家が代々医者で、彼だけがダンサーになって。それでも一流になれたからよかったけど、ああいう人は共感が湧くよね。

(次回につづく・・)

春日 武彦(かすが たけひこ)  精神科医。医学博士。成仁病院・顧問

1951年、京都府生まれ。医学博士。
日本医科大学卒業後、同大産婦人科医を経て精神科勤務。東京都精神保健福祉センター、都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院神経科部長などを歴任。
現在は成仁病院・顧問の立場で、臨床および執筆を続けている。
専門書・一般書ともに著書多数。

<春日武彦先生の著書>
cover
援助者必携 はじめての精神科 第2版


cover
精神科医は腹の底で何を考えているか


cover
「治らない」時代の医療者心得帳


cover
病んだ家族、散乱した室内―援助者にとっての不全感と困惑について


cover
緘黙 五百頭病院特命ファイル



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:高橋美智代(たかはしみちよ)

高橋美智代

不惑を過ぎてから、心理学を勉強中の身です。
一瞬一瞬を、共に過ごす人々と、大事にして生きていきたいと思う
今日この頃です。

好きな動物:猫
趣味:読書 ピラティス
レイキマスター


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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