第86回目(2/4) 春日 武彦 先生 精神科医 成仁病院顧問

大切にしているのは、面白半分ではない“好奇心”

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「今後はチーム医療が大事かと思いますが、大事なポイントは?」

やはりヒエラルキーがあり、医者が一番上みたいな形になっちゃいますね。船長は医者だって話だけで、船長ひとりで船は動かない。でも、船長じゃなくて、単にヒエラルキーになっていることが問題。

「役割の違いですよね?」

そうそう。役割の違いなんだけれども、そうならずに、いまだに上下関係になっちゃうところがありますね。

「専門性が発揮しきれないという感じでしょうか?」

専門性ってところで言うと、医者から見て、「うまく対応してくれてるな」っていう、カウンセラーは少ないという印象はあるのがひとつ。

精神科医で一番得なところは何かと言うと、薬を処方できるということもあるんだけど、ひとつの権威的なものとして確立している部分があること。医者が言ったってことで結構ゴリ押しできたり、断定したり、そういう部分ではすごく便利な資格です。それをずるく使ってる部分はある。

そういう意味では、カウンセラーはいまだに資格もはっきり定められてない。ものすごく大変だろうなって思うし、その中でどういう風にうまくやっているか、よく見えないわけですね。

だから多分、ちゃんとうまくやってる人も、適当にやってるやつもいるんだろうし、あるいは教祖様みたいになっちゃってる人とか、あるいは占い師みたいになってる人とかもいるんだろうなぁと。そのあたりが全然見えないんで、正直戸惑っている。

今勤務している病院はカウンセラーはいないんですが、その前の病院はいました。くどくど話す患者はカウンセラーの人に回すっていう風でね。話が長くてうるせえ奴はカウンセラーに押しつけるっていう、それをやっていただけでは、チーム医療でもなんでもない。

そういう風な形をになってるっていうのは、お互いに信頼感はうまくいってないということでね。それは、わかってないっていうだけなんだと思う。

「心理職側がドクターにフィードバックを返すことが必要ということでしょうか?」

うん。心理職がうまくやった成功例を見せてもらいたい。何をもって成功とするか。けろりと治りましたじゃなくても、こういう風に安定しました、落ち着きましたとか、そういうので全然かまわないから、「ああ、なるほどね」って思わせてほしい。

そんな体験がないっていうのは、もしかすると心理職側の怠慢かもしれないよね。

「“根拠に基づいた医療”が、今謳われていますが、根拠を示していくというのが、心理職側の仕事として求められているのかもしれないですよね。そこが足りないですか?」

ヘタというか、わからないから、どう信用していいか。どっちかって言うと、医者って自分でやりたがる方だからさ。割とそういうところあるから、人任せってなかなかできないところがあるから、よけい難しくなるって感じですよね。

僕は占いに2回行ったことがあるんですよ。占いに行ってもね、何となく気が晴れたり、やや救われたりするから、そこから類推すると、カウンセリングしてもらうのは効果があるだろうってのはわかるわけですよ。

「先生は精神保健福祉センターにもいらしたのですが、あそこはお医者様としては一番キツイのではありませんか?」

確かにきつかったですね。それはまず、当時はアウトリーチ(訪問)なんてほとんどなかったんです。実にヒマだったんです。あんまりヒマ過ぎるので不安になって、自分で勝手にアウトリーチする班を作って訪問したりとか、必要だったら病院と話をつけて患者を運んじゃったりとか。

精神医学というのが、反倫理的だとか、そういう雰囲気ってまだあったんですよね。反精神医学的な雰囲気があったんですよ。ましてや医者が訪問して患者を連れて行くとなると、これは拉致だとか非難する人はいくらでもいました。

医者が動くということ自体が我慢できないみたいな、反権力的で、いやーな雰囲気でしたよ。でも結局、僕にとっては一番の財産はセンターの時期。だって、生活保護を受けて月4万5000円の家賃で暮らしていくってどんなものか、訪問しなきゃわかんないわけじゃないですか。

あるいは、ごみ屋敷に行ってダニうつされてみなきゃわからない。あるいは統合失調症の患者が部屋に引きこもって、窓を段ボールでふさいで、家の中の電波をはね返すためにアルミ箔貼ってるなんて、そんなの行ってみなきゃわからないわけ。

そういうのを実際に体験できたってのはものすごい財産ですよね。いわゆる順調なエリートコースの精神科医でいたとしたら、そういう経験って持てないわけです。患者さんって診察室に来たら、当然、別な顔しますからね。それで訪問しまくったというのが、一番の財産ですよね。

「精神保健福祉センターにいらしたのは、ご自分の希望で?」

うん。それまで大学病院にいたんだけれども、大学病院もタラタラしてたのでいやだなって。それでそっちに行ったんだけど、いわゆる臨床とはちょっと離れると、そこでまたアイデンティティを揺す振られるんですよ。

ある病院から誘われた時に、「精神保健福祉センターの医者なんて、使えねぇ医者だろ」っていう風に、はっきり言われました。

例えば、保健所長やる医者、精神保健福祉センターにいる医者っていうのは、半分は使えない医者、臨床ができない医者、実は病気で仕方なくそこに置いている医者、あとはそうでないのが混じってるというのが事実なわけなんですね。

だからそこでアイデンティティをめちゃくちゃ揺さ振られて、不安な毎日と、もう1つは実際に患者宅を訪問してものすごくいい経験をしたというのと、両方でしたね。

「患者さんの生活面が見えるというのは、やはり病院では得られない?」

そうそう。はっきり言って、好奇心満たされるわけ。僕は何で精神科医をやってるかって言うと、好奇心ですから。それを面白半分でするのは別としてね。

こういう人生もあるのか、こういう風にも人は生きていけるんだっていうのは、普通は見られないわけですから、それはもう素晴らしいことだって思いました。


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「診察室という構造で守られている部分というのは、おありですかね?」

それはものすごくありますね。診察室というのは、白衣を着るということで守られるし、ある種の権威というものもできるし。だけれども、そこに安住すると、ものすごく偏ったことしかできない、あるいはキレイごとしか言えないということになりますよね。

「あえて、診察室の外に出ようと思われたきっかけは?」

やっぱり診察室の中だけじゃ、「ホントかいな」ということも思うし、それに自分自身がとても社会経験が薄かったというのを自覚してるんですね。

というのは、僕はいわゆるアルバイトっていうのをしたことがないんですね。例えばマクドナルドで働くとか、ティッシュを配るとか、世間一般でいうアルバイトはしたことないんです。当然会社勤めもしたことがない。そういう意味で、ものすごく偏った人間なわけです。

だからよけいそういうことに負い目がある。にもかかわらず精神科医っていうのは、実際のところ、単に治療するというだけでなく、患者さんの将来とか生き方まで考えなきゃいけない。さすがに、そりゃあまずいだろうと思って、せめて見聞広げとかないとまずかろう、というわけで。

「見聞を広げる?」

いやホントに、自分で何にもできねぇなと思うのが、今日午前中にさ、ゆうちょ銀行に金を払いに行ったわけね。キャッシュカードって持ってないのね。アメックスのカードがあるから、だいたい事足りる。だからATMは使ったことないのね。

今日、ゆうちょ銀行に金を払う必要があったから、たまには自分でと思って行ったんだけど、郵便局の中のATMでお金を入れて操作すれば自動的に送金できるだろうと思ったら、ダメなのね。窓口に聞きに行ったら、ゆうちょ銀行や他の銀行のカードが要るって言うわけ。

しょうがないんで、窓口で払ったら手数料取られて。「えー、それってオカシイじゃん」って思うんだけど、どうもそういう仕組みらしい。その後ネットで調べたら、ゆうちょ銀行だけなんだよね。他の所だとちゃんと払えるみたい。

そういうのがよくわからないってネットで質問している奴もいたわけ。そうしたら、その答えがみんな、「書いてある通りにやればいいじゃん、バカ」とか、そんなこといっぱい書いてあるんだよね。

でも、今日の僕みたいに、例外事態もあるわけ。ゆうちょ銀行では、現金で払えませんとは、どこにも書いてないわけじゃん! そういう風に、何か変なとこに落ち込むクセがあるんだよ。それは、自分の運命として一応、受け入れているんだけどもさ。

「運命ですか?」

それは人によって違うみたいね。その通りにすればいいじゃんって、絶対そういうのに引っ掛からない奴とかさ。だけど俺は、例外事態にどうもぶつかるタイプなんですよね。それもまた、多分話のネタになるわけで、「選ばれし者」と俺は考えることにしてるんだけど。

というわけで、当り前のことができないという意味で、俺は実は社会で生きていくのが辛いんですよね。多分それって、病気の人の生きにくさと、結構つながってる部分もあるんじゃないかと、薄々思っている。

そういう意味で、社会経験はないんだけれど、そのヘタさ加減というあたりで、普通の医者よりは、患者さんに共感できるんじゃないかと、無理やり思うことにしてるんです。何かねぇ、うまくいかないことが多くてさあ。

「でも、丁寧につまずくってとても大事なことですよね?」

そうそうそう。俺って微妙に違うことをやろうとするから、ドツボにはまるんだと思う。郵便局でゆうちょ銀行に払えば、きっと手数料も掛からなくてATMで一発だろう」と思ったら大間違い。「世の中そうだったのか!」っていうのをこの歳で学んだわけ。まあ、そういう運命なんです。

「先生のご著書の中で、病気は優先順位の逸脱ということをお書きですね?」

そうそう。あの時はパニクってて、とにかく手数料はどうでもいいから、「早く用を済ませて、この場から逃れたい」ってそれしか頭にないわけ。

そういう意味で自分は非常に不器用ゆえに、コストもかかってるって、よーくわかってるんだよね。それでも「傷つかないように生きたい」って思うわけです。他の銀行に行くという根性はないし、そんな根性を発揮する気もサラサラない。自分でそう決めてるからそれで全然OKなんです。

明らかにはたから見たら、バカなことも損なこともしている。でも、俺的になるべく傷つかないでラクにするにはそのやり方だということです。やる気を出して、根本からちゃんと勉強し直せばいいんだけどね。一度やってみてもいいんだけどね。

「そこまでのエネルギーをそこに割くか?ということですね?」

そうそうそう。例えば、どんどん忙しくなってくると、かったるいんで、タクシーを使う頻度が高くなる、あるいは遠くに行くとき、ラクをしたいからグリーン車を選ぶ。すると、コストはどんどん高くなっていくわけですよね。収入は上がるんだけど、出ていくものも増える。

そこで前の通りにやっていたら、金は貯まるんだろうけれど、そうはいかないのが世の中であって。結局、忙しくなっただけって話になる。

まあそこで、流されるようなところが、僕の人間としてダメな部分だと思うんだ。それでもいいやって思ってるんですね。「優先順位」に関しても、もっと賢くやれる方法っていうのも自分でわかってるんだけど、面倒くさい、あるいはイヤなの。

で、損してる。そこで何となく「不条理」を感じて、占い師のところに行ったりしてるんですよ。

「先生はご自分で帳尻を合わせていらっしゃいますが、それがうまくいかないと“病気”いうことなのでしょうか?」

結局、そうでしょうね。自分がどこかで帳尻を合わせることができると分かっているというのは、明らかに社会的に有利な医者という立場に立っていると分かっているからですよね。そういう意味ではずるいわけだし、他人にあてはまらない部分なんだよね。

(次回につづく・・)

春日 武彦(かすが たけひこ)  精神科医。医学博士。成仁病院・顧問

1951年、京都府生まれ。医学博士。
日本医科大学卒業後、同大産婦人科医を経て精神科勤務。東京都精神保健福祉センター、都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院神経科部長などを歴任。
現在は成仁病院・顧問の立場で、臨床および執筆を続けている。
専門書・一般書ともに著書多数。

<春日武彦先生の著書>
cover
援助者必携 はじめての精神科 第2版


cover
精神科医は腹の底で何を考えているか


cover
「治らない」時代の医療者心得帳


cover
病んだ家族、散乱した室内―援助者にとっての不全感と困惑について


cover
緘黙 五百頭病院特命ファイル



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:高橋美智代(たかはしみちよ)

高橋美智代

不惑を過ぎてから、心理学を勉強中の身です。
一瞬一瞬を、共に過ごす人々と、大事にして生きていきたいと思う
今日この頃です。

好きな動物:猫
趣味:読書 ピラティス
レイキマスター


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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