第86回目(1/4) 春日 武彦 先生 精神科医 成仁病院顧問

現代型うつは、“うつ”という手段による“リセットの儀式”

今回のインタビューは、『精神科医は腹の底で何を考えているか』等の
数多くの著書でおなじみの精神科医、春日 武彦(かすが たけひこ)先生です。

春日先生の、人間の心についての、鋭くかつ優しい論考は、
多くのファン・専門家から支持されています。

精力的な執筆活動と併行して、豊富な臨床経験を持つベテラン精神科医として
臨床現場でもご活躍の春日先生に、
「現代型うつ」「家族」「言葉のちから」などについて、深いお話を伺いました。

インタビュー写真

「先生は、小さい頃はどのようなお子さんでしたか?」

僕はひとりっ子で喘息でした。そして、喘息のせいで幼稚園にも保育園にも行ってないんです。それに、小学校は電車に乗って通っていたので、近所には友達がひとりもいませんでした。親は何も教えてくれなかったので、小学校に入った時も、右も左もわからないような状態だったんです。

このように、最初から社会性ゼロだったように思いますね。

「では、1年生の時は大変でしたね?」

ものすごく大変でした。

特に子どもの時は、わからないことをどう聞いていいかわからなかったり、質問すること自体が選択肢として思い浮かばなかったりして、結局、自分の中でウジウジ悩んだりして、散々大変な思いをしました。

多分、その時の経験が今につながっているんだよね。適切に物事を尋ねるとか、SOSを出すとかできれば何とかなるんだけど、それができないとか、聞くこと自体が頭に登らない人は結構いるよね。

自分なりにいろいろ工夫してみるんだけど、大概トンチンカンになってうまくいかないから、世の中は敵意に満ちているものだと思ってました。だから、僕は子ども時代に戻りたいとはまったく思わないですね。

「医学を志したのは、その時の影響もおありですか?」

実はそんなに深い理由はないんです。ただ、ウチの一族は医者が多くて、父親も元々は外科医だったし、医者という選択肢は身近にあったんですね。

それから、自分は社会的に無能で、サラリーマンは絶対に勤まらないとわかっていたから、それでもやっていける仕事として医者は安全圏だと思ったんです。

「最初は産婦人科でしたよね?」

これもたいした根拠はないんですよね。ただ、医者になるとメスを持ってみたくなるわけなんですね。それに昔は、外科系の方が女性にモテたんです。

でも外科系は当時人気があったので医者が多かった。その中で、産婦人科だけは入局する医者が少なくて、それで僕は「これは絶対大切に扱ってもらえるぞ」と思って決めました。このように、非常に根拠薄弱な選択だったんです。

それで、産婦人科は6年ほどやりました。6年くらいやると、開業するか、大学に残って上を狙うか、という分岐点が出てくるんですね。

その中で精神科を選んだ理由は2つあって、1つは、僕は、外科医としては凡庸だったけれども、人の話を聞かない医者が多い外科医の中で、僕はまだ聞く方だったので、適性があるのではないかと思ったことですね。

もう1つは、産婦人科では、なりゆきで子どもができちゃたとか、堕ろす金がないから産むとか、ものすごくいい加減な親が多くて、そんな人が子どもを育てたり、躾けたりすることが納得いかないと感じていて、それでも職業柄、「おめでとうございます」って言わなければならないことに耐え難くなってきて「これは一生やるには向いてないな」と思ったんです。

その半面、僕の中では精神科は趣味みたいな感じですよね。最初から精神科に行く医者は変な人が多いし、何となく無能感があるよね。

精神科は、比較的独学でできる部分もあるけど、外科系は徒弟制度なので、外科系から精神科へは比較的簡単に移れるけれども、反対は難しいんです。

それに、外科系は身体管理ができるから差をつけているような自信があるし、患者の扱い方もひと通り知っているので移ることに苦痛はなかったですね。

「臨床の現場から見て、昔と今で患者さんの傾向に変化はありますか?」

昔の方が症状が派手でしたね。統合失調症は、いかにもって感じでしたし、パーソナリティ障害も、暴れ方や、すさまじさがハッキリしていました。


だから、昔の方がメリハリが効いていて、今の方がハッキリしない、生煮えている感じです。ズラーっと薄く広がった、という印象ですね。

「それは、昔は重症化してから来院していた、ということですか?」

そこはよくわからないんだよね。実は、食事の影響も結構あるのではないかと薄々思っています。だって、今まで人類の体に入ったことがない物質が、ここ最近になってどんどん入ってきているわけで、その影響がないわけがないよね。

「患者さんの母数は広がっているのでしょうか?」

広くなっていますね。精神科の敷居が低くなっているのは事実だけれども、それがいいことか、というと、一概にそうとも言えないよね。一番顕著なのが、いわゆる“現代型うつ”ですね。

実際には、パーソナリティ障害圏の患者が圧倒的に多くて、怠けとは言わないけど、本人としては辛くても、それを辛いといったらどうしようもないでしょうと、つい説教したくなるようなレベルでもありますよね。

もちろん、これは本人申告だから、来院したら対応せざるを得ないけれど、本来なら心理療法的なアプローチで治療するべきだと思うし、実際はそんなに多くの時間を割くことができないわけ。

例えば、午前中の3時間に30人とか来たりするから、そうすると1人5分とかになりますよね。もちろん、うんと短い人もいるから、それで何とかやりくりしているような状態です。

だから、どうしても薬を出す形になるし、患者も薬を希望しているところもある。ところが、本来的に薬は効かないので、そうすると患者がどんどん増えていく、という流れになっていて、完全に悪循環ですね。

さらに、現代型うつでは、他のクリニックから、「もうどうにもならない」ということで、事実上患者を押し付けてくるようなケースも一杯あるんですね。その時に、その症状は本来の病気なのか、または、たくさんの薬を服用した副作用なのかわからなくなっていることもあります。

「副作用の可能性もあるのですね?」

本人は、病人として扱われていることで、病人人格になってしまっているし。病人として生きるというのは、ある意味でラクな部分もあるわけですよね。

病人なら立つ瀬があるし、それなりに承認されるし、ラクな部分もあるから、そういう立場に慣れている患者はものすごく多い。しかも、それで生活保護も受けていたとしたら、そこから抜け出すのは容易じゃないですよね。

考え方によっては、生活保護を受けたら、ラクはラクじゃないですか。だけど、人が生活保護を受けないのは、恥ずかしいとか情けないとか、そういう気持ちがあるからだけど、一旦そこを突破してしまったらもう怖いものなんてなくなってしまうんだよね。

そういう意味では、精神科の敷居を低くしたせいで、生き方を間違えさせてしまったというのはものすごく大きいと思います。生活保護が緊急避難じゃなくなってしまっていますね。

「他に、現代型うつの特徴は何かありますか?」

あと僕が感じるのは、現代型うつは“リセットの儀式”みたいなところがある、ということですね。

現代型うつは長期間休む必要が出てくるので、会社を辞めざるを得なくなります。そこで、普通なら会社を辞めることに焦るはずなんだけれど、意外とみんな簡単に辞めるし、辞めた後、再就職する時には、就職先が格落ちすることが多いけれど、意外と平気な顔をしていて悔やまないんだよね。

自己実現に近い形にはなっていないんだけど、みんなどこか清々した顔をしていて、給料が下がったとか、格落ちしたということを嘆き悲しむ人は意外と少ないんです。

それを見ていると、本来なら、学生時代とか、もっと若いうちに自分探しでジタバタするべきタイミングが後の方に繰り越してきている感じですね。

とりあえず就職して、割といい会社に入ったけれども、何となくこれは自分の本来の姿じゃない、みたいに思うようになって、そこからうつっぽくなって会社を辞めて清々している、みたいな。

どこか通過儀礼というか、本当の自分らしさを選び直す“リセットの儀式”みたいなところがあるような気がするんですね。

こんなことは普通なら言い出せないし、自分でも認めたくないし、周囲も許さないけれど、“うつ”という手段によって、リセットすることを儀式化している人が結構多いような気がします。


インタビュー写真


「それは、親の呪縛から逃れる、というような感じですか?」

そう。そういったことが思いもよらない形で実行されているということ。そういう意味では、現代型うつは「治す」という発想より、「本人のやりたい形でやらせる」方向でいいのではないか、と感じています。

僕の価値観としては、「今の会社にいた方がお得ですよ」と言いたくなりますけど、そこは本人がどう思うか、が大切だということですね。

あと、“現代型うつ”について、もう一つは言葉の問題だよね。

「言葉の問題ですか?」

患者は“うつ”と言ってくる。だけど、よくよく話を聴いてみると、微妙に違っていて、彼らが“うつ”だと言っているものは、実は不全感だったり、不満感だったり、不安感だったり、納得できない気持ちだったり、違和感だったりする。

つまり、自分自身の細かい気持ちを全て“うつ”という言葉に肩代わりさせているんだよね。

だから、“うつ”と言うと、文字通り“うつ”かと思うけど、実は結構違うんですよね。だけど、とりあえずそれを“うつ”と言ってしまう。そう言われてしまうと、医者は抗うつ薬を出さざるを得ないんだよね。

これは、“言葉の雑駁さ”が問題ではないかと思います。“うつ”という言葉が流行っているから、その言葉に全部流し込まれちゃってる。特に、若い人は言葉が大雑把だという気がするね。

たとえば、「カワイイ」という言葉も、今はものすごくニュアンスが広くて、微妙なイントネーションや文脈によって全然意味が違っていて、「カワイイ」が実は「キモい」と同じ意味になることもあるわけだよね。

仲間内だと全て「カワイイ」で通じるけど、それは仲間内でしか通じないから、外に出ると他人とのコミュニケーションが成立しなくなって、外に出ていけなくなったり、他の人とは話が成立しないと反発したりする。

このように、言葉の使い方自体が、ものすごく雑駁になってきている感じがしますね。

「“うつ”という言葉が、とても便利なものになってきているのですね?」

そう。そして、おそらくそのうち、“うつ”という言葉は別の言葉に取って代わられるんだと思っていますけど、とりあえず、今のトレンドで、且つ、便利な言葉として扱われていますね。

「従来の“うつ”には高尚なイメージがありますよね?」

少なくとも同情されるわけだし、突っ込みどころがないような領域だよね。

「一方で“現代型うつ”は他罰的な感じで、違和感がありますよね」

少なくとも医者の立場としては「それは“うつ”なんかじゃなくて、いわば考え方と根性の問題だよ」とは言えないわけだよね。本当は「“うつ”とは違うんだから帰れ」と言いたいけどね。

「そういうことは言えないのですか?」

患者が納得しないということですよね。また、その対応に対して、患者は「見捨てられた」と感じるので、当てつけに自殺されたりしても困るよね。だから、少なくとも相手をしないといけないけれど、かといって話だけ、というわけにもいかないんですよね。

話だけでもいいかもしれないけど、1時間も割けないよね。そうすると、短時間で無難な薬を出すことになる。すると、次の診察の時「あの薬は効かなかった」となって、結局、薬は増えていってしまうよね。

患者も薬を要求しなければいいんだけど、薬が存在するイコール病人認定、という証拠になるわけだから。それも非常に不健康な形だよね。本当は「カウンセラーのところに行け」と言いたいんだけど、1回6千円だと実際は無理だし、まして生活保護の人だとより一層行けないよね。

だから、精神科は、本来は病気を治す場所だったはずなのに、ある種のよろず相談所のような、駆け込み寺みたいな性質を帯びてきている。だけどそれには対応できていないし、そもそも時間的に無理なんだよね。

その点は採算の問題になってくるけど、1人1時間かけたら午前中に3人しか診れなくて、それでどうやっていくんだ、ということになる。

「カウンセラー側としてはどういうことに配慮し、どこまでやればいいのでしょうか?」

正直なところ、カウンセラーの差があまりにもありすぎて、誰に頼めば安全なのか、僕もよくわからないんですよね。実際とんでもないカウンセラーもいるわけですよね。

実はこの前、看護師さんに対して、職場のメンタルヘルスの話として、パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)の話をしたんです。

BPDの人は割と人助けが好きだから、看護師にもそういう人が結構混ざっているんだけど、実際には戦力にならないどころか、夜勤の2時間前に「今日はちょっと行けません」とか言ってきて、迷惑を掛けてたりしているんだよね。

そういう人はハッキリ言って使えないし、治療と言ってもすぐに治るということではないから、現実問題としては、「治らない」という風に考えて、人を補充せざるを得ない、というようなことを、実践的な立場から話したわけなんですね。

そうしたら、次の時間に話をする予定だったカウンセラーの女性が話し掛けてきて、その人は「BPDは、対人関係を改善するように導いていけば、ちゃんと治ると思います」というわけだよね。

そのカウンセラーが言っている治り方というのも何となくわかるんだけど、それにはとんでもなく長い時間が掛かるだろうし、そこでいう「治る」っていうのは普通の生活レベルの話であって、修羅場みたいな医療の現場で使い物になるかと言うと、次元が違うわけですよね。

だから、共感とか、そういうノリで言われると、医者が極悪人みたいな形になってしまうけど、医者である僕からすると「そんな甘っちょろいことを言わないでくれよ」と内心思っちゃうわけで、そういう落差はあるよね。

大体、昔から、カウンセラーと精神科医は仲が悪いということになっていて、カウンセラーは良い方を見るのに対して、医者はまず最悪の場合を考える。

だから、カウンセラーから見ると「医者はこんな人にまでガンガン薬を出してとんでもない」となるし、医者から見ると「統合失調症なのに、カウンセラーは『寄り添って歩んでいくんだ』なんて言ってふざけるな」となってズレる、というように相場は決まっている。

そこをお互い理解し補えばいいけれど、現実はうまくいかないことが多いよね。

(次回につづく・・)

春日 武彦(かすが たけひこ)  精神科医。医学博士。成仁病院・顧問

1951年、京都府生まれ。医学博士。
日本医科大学卒業後、同大産婦人科医を経て精神科勤務。東京都精神保健福祉センター、都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院神経科部長などを歴任。
現在は成仁病院・顧問の立場で、臨床および執筆を続けている。
専門書・一般書ともに著書多数。

<春日武彦先生の著書>
cover
援助者必携 はじめての精神科 第2版


cover
精神科医は腹の底で何を考えているか


cover
「治らない」時代の医療者心得帳


cover
病んだ家族、散乱した室内―援助者にとっての不全感と困惑について


cover
緘黙 五百頭病院特命ファイル



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:高橋美智代(たかはしみちよ)

高橋美智代

不惑を過ぎてから、心理学を勉強中の身です。
一瞬一瞬を、共に過ごす人々と、大事にして生きていきたいと思う
今日この頃です。

好きな動物:猫
趣味:読書 ピラティス
レイキマスター


インタビュアー:川田史郎(かわだしろう)

川田史郎

マーケティングプロデューサー、コーチ。

現状を変えていきたい人、何かをはじめたい人の
コーチングをしながら、
解決策のプロデュースや事業化のお手伝いをしています。


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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