第83回目(2/4) 久保 隆司 先生 インテグラル・ソマティックス

ソマティック心理学は、身体をアクセスルートとして心理の内面にアプローチする

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「ご存知でない方に、ソマティック心理学について易しく教えていただけますか?」

ソマティック心理学(somatic psychology)は、身体心理学、身体心理療法と訳するができます。欧州では、ボディ・サイコセラピーと呼ばれることもあります。

そもそも、ソマティック・サイコロジーとは、身体を表す古代ギリシャ語のsoma(ソーマ)、魂、心を表すpsyche(サイキ)、そして、学問、論理を表す、logos(ロゴス)が組合わさった言葉です。人間を全人的に知るためには、心理だけでなく、身体だけでなく、その両方が統合された存在として理解することが不可欠なのです。

心身は一であるという観点から研究した心理学者は歴史的には稀です。これまでの、少なくとも20世紀の心理学の主流は“心理”、より限定して“認知”を見るだけで、十分とみなすことにしてきた傾向があります。

しかし、本来的に “心理”だけを抽出することは不十分ですし、不可能でもあります。近年、ソマティック・マーカー説、ミラーニューロン、ポリヴェイガル理論なども含め、神経科学の世界からも提唱されていますが、身体・情動・心理は、深く結びついているのです。

「身体・情動・心理は不可分なのですね?」

21世紀の心理学は、身体性を軽視することはもはやできません。世界は、既にその大きな流れの中にいるのです。そしてその流れは、日本にも少し遅れて、今、ゆっくりとしかし確実にやってきています。大きな流れ、枠組みを知ることは、旅行で地図を得ることと同じであり、歩んでいく方向を知るためにとても重要です。時には生死に関わります。

基本的な地図が頭に入っていると、あとは車で行っても、列車で行っても、歩いても、寄り道しても、ともかく日々前進して行くことになります。人生の貴重な時間を無駄にしないための1つの地図として、総説的な『ソマティック心理学』(春秋社刊)を、2年前に上梓しました。この種の著作としては、日本で初めてのもので、現時点で唯一のものです。世界的にもそれほどありません。

ソマティック心理学とは、身体、または身体感覚をアクセスルートとして、心理の内面にアプローチする心理療法の総称で、1つの学派や個々の手法を意味するものではありません。日本にも既に紹介されているものには、ハコミメソッド、プロセスワーク、バイオエナジェティックス、バイオシンセシスなどがあります。

「様々なアプローチ法があるのですね?」

これらは、ソマティック心理学の分野に属する学派といえるのです。フォーカシングやゲシュタルト療法、EMDRも、ソマティック心理学の親戚と言えるでしょう。最新の行動療法にも積極的に導入されているマインドフルネス系は身体感覚や瞑想を活用する点からみると、ソマティック心理学の流れと無縁ではありません。

そして、身体性を重視するということは、物理学的、生物学的な知見も重要なリソースにするということも意味します。最新の脳科学、神経生理学、生物学などが、比喩としてではなく、心理療法と直接的にリンクしてくるのです。

近代心理療法の祖のフロイトなんかも、元々神経学者で、ニューロンの研究をしていたんですね。精神分析学は生物学、神経生理学をベースにした面がある。しかし、百年前の生物学、神経生理学には限界がありました。フロイトの夢の実現が、今日、現実味を帯びてきたとも言えます。実際、ニューロ・サイコアナリシスという動きもあります。

これは前世紀的な、脳や脳内物質への素朴な還元主義的アプローチを意味しているのではありません。21世紀は統合の時代です。一面を的確に示す一つの観点として科学も取り込むというか、表裏一体であるということです。心と身体、主観と客観、個と集団といった多元的な見方を、統合的に捉えるという基本姿勢が要求されるんです。このことは、ソマティック心理学にとっても重要です。

ソマティック心理学は、心理と身体の統合をその目的とし、分離(解離)している人には、つながりの恢復を。ある程度達成している人には、さらなる高度な意識段階における心身統合を。心理療法や身体性のワークを通じて、それらの機会を提供する役割が期待されます。

心身の統合は、ボディ・マインド・インテグレーション:宗教的な境地では、身心一如ともつながるものであり、西洋ではボディ・マインド・スピリットの統合としても表現されます。ちなみに、スピリットとは、スピリチュアルな部分であり、精神性や霊性とも訳されますが、ここでは、とりあえず、現在の学問水準では不可知な霊妙・微細な特質やその働きとしておきます。

より細分化すれば、身体・感情・心理・精神性の統合であり、私は、韻を踏んで、身・情・心・神と表現しています。詳しくは、拙著『ソマティック心理学』(春秋社刊)をお読みいただきたいところですけど、現在、在庫が僅少で、重版も来年までないようなので、書店で見つけたら即買いして下さい。

「ソマティックの強みは、何でしょう?」

誰もが身体を持っているということです。違う部分もありますが、DNAも持ち出すまでもなく、生物的に共通するところが圧倒的に多い。ソマティック、もしくは身体性というのは、人種とか国境を越えて人類に共通する基盤なのです。もちろん、人類以外の生物とも共通する部分は多くあります。

そこを意識的、無意識的双方にアクセスするための重要な基盤、ベースキャンプにしている。毎回基本に返って、そこから、今・ここに積み上げていく。それが意識の発達なのか進化なのかわからないけど、探索すべき未来につながっている。適時、ベースキャンプに帰った時には、正しいかどうか、安全かどうかを検証してまたそこから旅に出発する。ベースキャンプが身体または身体性、すなわち、ソマティックです。

それを無視すると、妄想に行っちゃうわけですよ。根無し草です。その世界はその世界で面白いのでしょうが、長らくいると妄想の世界からは帰って来られなくなる可能性が高くなります。多くの先人同様、人生を無駄にしてしまいます。帰って来るルートをきちんと設定しないといけません。

一般に言われる主観性や内的世界は非常に重要ですが、ともすると、ちっぽけな独我論に取り込まれてしまう危険性があるということも意識していなければなりません。ソマティック心理学/心理療法では、常に主観性と客観性とのバランスを見て行きますので、迷走することを防げます。

いいかえれば、一人称的な内面的な気づき、二人称的な共感、三人称的な身体的現象/システムという三つの人称の観点からバランスよく、無理なく統合的に見ていけるところに、ソマティック心理学の強みがあると言えます。


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「ソマティックは、どういう方に向くというのはありますか?」

原則的には、身体を持ってこの世に存在しているすべての人にとって有意義でしょう。食わず嫌いを止めて、ご自身の身体性の部分を大切にしてもらいたいですね。もちろん、身体的なことが好きな人には積極的にやってもらいたいし、そこから身体だけじゃなくて、心理的な方とか広い意味でのスピリチュアルなところも考えてもらいたいですね。

頭でっかちになり易い人には、身体性に戻ってそこから現実を見つめて構築していくことが大事ですね。最初は取っ付きにくいでしょうが。少なくとも、こういう要素を実践レベルで取り入れることは、やはり肉体を持っている存在である限りは、避けて通れないのではないでしょうか。

身体の気づきは大切だと思っているけれど、人に触れられるとか、それに対して抵抗がある人に対しては、ハコミとかフォーカシング的な感じで、自分でちょっと胸に手をあててみるぐらいの言葉によるアプローチを主力に、やっていけば良いと思います。

「ご自身は、今はセラピーをやっていらっしゃるのですか?」

ええ。個人セラピーも続けていますが、セーブしています。その他にも、ローゼンメソッド・ボディワークやビオダンサ、執筆活動、レクチャー、勉強会、研究会、さらなる自身の学びなど、心身統合的な考えや、広義のソマティック心理学の領域を、少しでも世の中の多くの人達に知ってもらうため、今、並行してやることが多くあるからです。

器用な人間ではないので、とても時間が足りず、その時々で自分がなすべきことは何かを考え、時間配分を最適に調整しようと努力はしているのですが、大変です。

命がけでひとつのテーマに専念しているわけですが、非常に大きなテーマであるがゆえに、多角的、多元的な研究と実践が必要となってきます。外からは、色々なことを、もしかしたら雑多なことをやっているように見えるかもしれませんが。

「セラピーは、一対一でなさるのですか?」

そうですね。心理カウンセリング、心理療法という意味では、一対一のセッションをカウンセリングルーム、相談室でやっています。

「グループでというのは?」

集団療法そのものは、今のところやっていません。ただ、ボディワークのワークショップなどは、グループでやりますし、“ビオダンサ”というダンスアプローチもやっていまして、踊る前の20〜30分は参加者でシェアリングをしますので、グループのファシリテーター的なことはやっています。

「その“ビオダンサ”について教えていただきたいのですが。ビオダンサとの出会いは?」

それもみんな偶然の出会いですね。ビオダンサに触れる前に、少し大枠の話をさせてください。私は、心身統合への道として、主に三つの領域、道を想定しています。一つ目はソマティック身体心理療法からの道、二つ目はソマティックス(身体技法)からの道、三つ目はダンス/ムーヴメント(動き)からの道、以上の三つです。

「心身統合への三つの道ですか?」

そうです。三つの道は、三本の矢でもいいですが、相互に補完的です。この三つをバランスよく組み合わせることで、心身統合へのプロセスを促進できるものと考えています。

まず、第一の道とは、これまで主にお話ししてきたもので、狭義のソマティック心理学です。基本的には身体指向の心理療法(ボディ・サイコセラピー、ソマティック、ハコミ、フォーカシング、ゲシュタルトなどを含めて)です。

例えば、深層心理学などは夢をアクセスルートとして、夢からの分析を通じて無意識にアプローチしていくというのが精神分析学系の基本ですよね。それに対して、ソマティック身体心理学というのは、身体を無意識のアクセスルートとします。身体感覚や感情を含めて身体で感じとるものを無意識の窓口として利用するんですね。

第二の道がソマティックス。身体技法、身体学、狭義のボディワークを意味します。ソマティック心理学の近接分野です。フェルデンクライスとか、アレクサンダーテクニークとか、ロルフィングとか、私がやっているローゼンメソッドとか。直接的に心を扱わないのですが、身体的なワークを通じて、いわゆる自己成長につながる気づきが生まれたりするものです。

通常の物理的、肉体的に身体を鍛えるためだったり、リラックスするためだけのエクササイズや訓練とは違うものです。ソマティックスは、ボディワークと同義的でありますが、ボディワークは、より一般的に使われる呼び名で、必ずしも自己成長や気づきを目標にしているとは限りません。

第三の道がダンス・ムーヴメントです。ダンス・ムーヴメントは、実際に身体を、筋肉、骨格を通して、動かすことによって、気づいていくアプローチです。いわゆる表現芸術療法と重なる部分もあります。

第二の道との違いですが、少々乱暴ですが、第二の道は、内面的にはダイナミックなことが起きていても、外見的にはクライアントは受け身である、施術を受けるといった風がありますが、第三の道は、実際に自分で動いて、内面を外部に積極的に、物理的に表現していきますので、クライアントという呼び方は適切でないでしょう。

同時に、第二の道に従事する人は、セラピストと呼べるでしょうが、第三の道では、ファシリテーターという呼び名の方がしっくりする印象ではないでしょうか。

個人的には、一つ目の道として、ハコミを中心とするソマティック身体心理療法、二つ目として、ローゼンボディワークを学んでいましたが、三つ目の領域のダンス/ムーヴメントとして学ぶものを探していた時に、ちょうど、ビオダンサと出会ったのです。

大学院のソマティック心理学科のメーリングリストがあって、プログラム・ディレクターからメールで様々なワークの情報が配信された中の1つに、たまたまビオダンサ・スクールの開校案内があって。まあ変な名前じゃないですか、馴染みのない南米産まれで。それで、ちょっと異文化体験的に参加してみたのがきっかけですね。

(次回につづく・・)

久保 隆司(くぼ たかし)  インテグラル・ソマティックス代表 臨床心理士
                  ローゼンメソッド公認ボディワーカー、ビオダンサ公認ファシリテーター

大阪大学人間科学部にて文化人類学、米国ジョン・F・ケネディ大学大学院に てソマティック心理学(身体心理学)を専攻。カウンセリング心理学修士。
現在、都内にて大学院非常勤講師や心理カウンセラーを務める。
ビオダンサ・サンフランシスコ校出身
その他、サンフランシスコ・ハコミ研究所なども修了。
日本トランスパーソナル学会理事、日本トランスパーソナル心理学/精神医学会理事。東京在住。

<久保隆司先生のHP>
【Welcomeソマティック心理学へ!】

<久保隆司先生の著書・訳書>
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ソマティック心理学


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PTSDとトラウマの心理療法―心身統合アプローチの理論と実践


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PTSDとトラウマの心理療法ケースブック


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ローゼンメソッド・ボディワーク 感情を解放するタッチング


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インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論


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インテグラル理論入門II ウィルバーの世界論



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:前田みゆき(まえだみゆき)

前田みゆき

身も心も魂も輝やくように、いつも笑顔を心がけています。
人とのご縁で、気づかされることが喜びです。

自称 遅咲きさん

コーチングと心と体の健康について、もっか勉強中


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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