第80回目(3/4) 子安 美知子 先生 シュタイナー教育

シュタイナー教育では、「早産」させてはいけない…と考える

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「シュタイナー学校では、8年間担任が同じですよね。その辺りについても教えてください」

3〜4歳、7〜8歳、あるいは9歳とか10歳の子どもさんがお近くにいらしたら思い浮かべて。人間が普通お誕生日って言うのは身体の生まれで、何年何月何日と明確です。それからあと3回誕生がある。体の誕生を入れて、全部で4回誕生がある。

第1の身体誕生の次は歯が抜け替えだす時期。全部生え替わるまで何年もかかりますけれど、大体7歳前後が第2の誕生。

それから次は思春期。いわゆる第二次性徴の現れる時。これが第3の誕生です。最後は成人する前後。成人式をやったり選挙権もらったりする辺りが、第4の誕生。

「そのように分けるのですね?」

それぞれを、第1の七年期、第2の七年期、第3・七年期、第4・七年期と言います。そして、それぞれに臨月があって、その「時が満ちる」までは保護膜に覆われています。身体の保護膜は母体。その次に生まれてくるものをエーテル体と言って、このエーテル体にも保護膜がある。

その次、思春期で生まれるものがアストラル体。これにも保護膜がある。二十歳前後で生まれるのが自我。シュタイナー用語としての「自我」という言葉を言い表すのは、ここで深入りするのは難しいけれど、自分の中の「真」の自分って言うのかしら。

平塚らいてうという人は、真実の「真」に「我」で「真我」と使ったりしています。その「真我」が、二十歳前後に生まれる。

肉体の誕生の時に、臨月を待たずに赤ちゃんが出てきたら、早産です。予定日、臨月までちゃんと保護膜の中で熟してから生まれるようにと、みんな願います。

それと同じ様に、第二の誕生の時にも、臨月が来るまで保護膜から無理に外に出さない。第二の誕生の臨月の兆候は、歯の抜け替わりが始まるあたり。

第3の誕生が思春期。最近は思春期が早まっている感じがするけれども、不思議とね、シュタイナー学校の生徒って、その点一般よりはちょっと遅いの。それは機械文明とかテレビとかから、少し保護しているせいもあるとは思うけど。

それから、最後が自我の誕生。社会に自立して出、社会で責任をとってよろしい、という本当の意味での誕生ですね。

そして、それぞれの七年期ごとに、教育の主題が変化します。

「教育の主題、それはどういうことでしょうか?」

最初の、学校へ上がる前の、歯が抜け替わる前のこの子ども達にとっては、肉体の五感、見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わう、この五感が健全に発達することが一番の主題。そこで本物を見せて、本物を聞かせて、本物を味わわせる。

食べ物の添加物に敏感なように、見るもの、聞くものにも添加物がある。見るものの添加物は電子映像など映像に代表される。聴覚にとっての添加物は、拡声器とか電子機器の音。この時期には、どんなに下手でもお母さんが肉声で歌を歌って聴かせる。

見るもの、触れるもの、着るもの……五感で感じる全てが本物であること。それが最初の七年期に大事で、その子がやがて大人になった時の行動力、意思力、生きる力、というものになっていく。それをしっかり味わわせなかったら、どこか意思力が弱かったり、行動力が欠けたり、という風になってしまう。

でね、早産させちゃいけない。例えば無理矢理英語を教えたり難しい理屈を子どもに叩き込むと、早産させてしまう。早期教育をやる人が、冷蔵庫に「冷蔵庫」っていう漢字を貼っておくという例を聞いたことがあるけれど、これって全くの早産ね。

「人参はカロチンが含まれてるからたくさん食べて大きくなろう」的な言い聞かせも早産。「美味しいね〜」と楽しみながら味わうのが、第1の七年期では大事なこと。

さて、4〜5歳児になると記憶力の「胎動」が始まります。この胎動に気をつけましょう。身体の誕生にも胎動があります。胎児が5〜6ヶ月になると、ピクッと動きますね。でも、「動き出したから早く産みましょう」とは誰も思わない。

子どももね、4〜5歳で「あらこの子、物覚えが良い」という場合、それは記憶の胎動だから、それを無理に早産させてはいけない。そこで文字だの九九だのを教え込むと、早産になるということなんです。

「子どもの準備が充分整うまで、無理強いしてはいけないのですね?」

歯が生え替わりだして、ここの理屈は今省略しますけど、生え替わりだしたら、臨月の合図。「学校」に行っていい。「学齢」に達したのです。

シュタイナー学校の入学面談で、「歯はいつから生え替わりだしましたか?」という質問があります。それぐらい重要なメルクマールです。

で、その次に早産を避けるべき要素は、知的な理屈を抽象的に教えることです。小学校期の勉強は、いわゆる知育に属するはずの科目でも、すべて芸術体験を通して学ぶ。ノートはいつも絵から始める。絵から段々文字が現れ。絵から段々数が現れる。

九九の授業もいきなり「二二が四、二三が六…」とは行きません。クレヨンの色を使い歌を歌いながら、遊ぶ芸術から出発するのです。第2の七年期に「芸術に浸された教育がきっちりなされないと、大人になってから感情面の弱い人間になる。

ティーンエイジャーになると第3の七年期。思春期でもあります。ここで飛躍的に「論理」の出番。抽象的論理も解禁の時期なんです。けれど小学校時代は、抽象性を避ける。一例を言うと、数年前に学力調査で「地球が太陽を回っていることを知らない小学生が何十パーセントもいる」とマスコミが騒ぎ立てたことがありました。識者達も由々しき問題、と発言していました。

でもシュタイナー学校では、思春期までは、お天道様が回っていると思っていて良いんです。ガリレオやコペルニクスが16世紀になって初めて「それでも地球は周っている!」と叫んだ、あのドンデン返しの大発見を、子どもが本当に追体験するには、思春期に差しかかる年齢こそが正しい時なのだ、とシュタイナー教育では考えるわけですよ。

子どものお絵描きでも、たとえば家の絵を、小さいうちからこんな風に遠近感をつけて描かせたりするけれど、これもまだ本当の子どもの目からではないんですね。二次元的に平たい家で良い。

遠近感のある絵は、娘のクラスでは確か13〜14歳で、世界史の授業でルターが95箇条のご誓文を書き付けたヴァルとブルクのお城、あの絵をノートに描いた時が初めてです。その時初めて描くから、すごく感動するんです。歴史的にも、ルネッサンスに入る頃にやっと、西洋の絵画でも遠近法が出てきた。その画期的な歴史転換に、子どもは自分自身の成長とともに立ち会うわけですよ。


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「思春期までに、五感・感情を育ててあるから、出会った時に感動が生まれるのでしょうか?」

そうなの。小さなことにハッと気がついて感動する。感動に継ぐ感動。思春期の反抗っていうのは日本だけでなく、どこでもありますけれど、反抗期の子ども達が授業で衝撃的な感動体験をすると、心の深くで実はそんな授業をする先生に尊敬の念が生じます。

小学校の2〜3年生の頃に「このビルはこうやって描くものだよ」って教え込んだら、暗記させられて描くわけ。感動しないんですね。そういう大づかみな教育の配慮が、子ども達の内面の成長に対してあるから、入学してから8年間は同じ先生にもたせる。

1年生からずっと通して見る先生には、今年のクラスは少し成長が早いから、この辺でこの絵を見せようかとか、この辺であえて抽象的な定義にまとめてみようか、とかができるようになる。先生がその時その時で、観察からの判断が。

音楽に長調と短調がありますが、低学年の間は長調に馴染ませる。ある時、先生が短調を聴かせようかと。子ども達の中に素直で明るい空気がみなぎっているクラスで、早い子は、ある時ふっとある陰りを見せる時がある。そういう陰りを好む子どもが何人か現れてくる。そんな時に、短調の曲を聴かせる。

すると子どもが先生を追いかけてきて「先生、今日のあの音、嫌い。あんなの聴かせないで」って言う子がいたり、「僕はあれに取り憑かれちゃう」って言う子がいたり、そういうのを見計らいながら先生は徐々に短調の方に入っていくんです。

「すごく感情が豊かですね?」

そう。この第2の七年期の教育者としての課題は、子ども達に早く方程式などを教えようと意図するのではなくて、子ども達に感情の分化を体験させること。微妙な感情の分化。単なる喜・怒・哀・楽という4つだけの感情じゃない。

憧れという感情、孤独という感情、寂しさ、妬み、絶望の感情。それらを色、音、音楽、絵画で味わい、表現することを通過させるの。

「日本の今の教育、教師に必要なものは何だと思いますか?」

この質問は良く受けますね、私が困るのが、日本のいわゆる通常の学校の教育っていうものを、自分で直に知る機会が少ない。直に知るところでは、少なくとも個別の先生では娘や孫の先生など、良い先生を何人か知っているわけ。

そんな先生がいるのに、マスコミで取りざたされる事は信じられない時がある。間接的には聞きますね。「うちの子がこういう目に遭いました」って。そんなわけなので、今のご質問に答えるのは大変。それで、娘の経験したシュタイナー学校の話をすることによって、ご自分で何かに気がついていただければいいかなぁって思うんですね。

例えばね、うちの孫の父親はアメリカの黒人、孫はハーフなんです。その孫が公立の小学校に入学してひと月も経った時かしら、浮かぬ顔をして学校から帰って来たらしく、母親、つまり私の娘が、それに気づいて、何があったか問い詰めたようです。

「何があったのでしょうか?」

その日クラスの男の子が『焦げ焦げ女』って言ったって。肌が黒いので「焦げてる」って表現をしたのね。その時、娘、孫、私、夫の4人で食卓を囲んでいて、話を聞いた私の夫が「その子、きっとナターシャと友だちになりたいんだよ」。娘は「男の子がそういう嫌なことを言う時って、大抵好きなのよ。あなたのこと気になってるんだ」って。私は「大丈夫よ。そう、ワタシ焦げてるよって言えば」ってね。

娘が担任の先生に手紙を書いた。週明けに孫が家に帰ると「あの子が今日、私の所に来て『ナターシャちゃん、これからも仲良くしようね』って言った」って。先生がきっと、あちらのお母さんに電話か何かなさったんでしょう。

具体的に何をしたのかは知らないし、私たちもあえて知る必要はない。その子がカラッとして「これからも仲良くしよう」と言った、それで終わり。先生が適切なことをされて、あちらのお母さんも適切なことをした。その結果に納得できれば、私達は詳しくは聞かないでいいんだわ。

「そうですね?」

ほどなく父母会があった時、知らないお母さんが寄ってきて「うちの息子が失礼なことを言ったようで」って娘に謝った。きちんとした人だと私は思う。それに類したことはちょこちょこあります。その時の大人の咄嗟の対応、姿勢がことがらを救うし、大人の学びにもなります。

後から聞くと、担任の先生はそれまで障害児学級の先生だった。孫の小学校では、一年生の担任は障害児学級経験者にするんだそうです。校長先生の見識に感心しましたね。

別な時、その学校から私に講演依頼があって、玄関に入ったら「あ、子安先生ですか?」、おじさんがニコニコして出てきたの。おじさんの片足に小さな女の子が抱きついたまま現れて、おじさんが「私の孫です」って。私は真に受けました。

実はその方は校長先生。抱きついていた子は、その学校の3年生で特別支援の子。その二人の抱きつ抱かれつの姿を見ただけでね、「この学校は良い!」と思っちゃったわ。

その校長先生にしても、担任の先生にしても、それぞれの人生の中できっと色々な事があったと思う。最初から理想的な完全無欠の先生だったかは知りません。私が目にしたその時点で、先生達はそれぞれ立派な先生になっていらしたんだ。

他の学年を受け持った先生の中には、それぞれ個性がありましたが、特に悪い先生にぶつかったという記憶はありません。孫は中学も高校も公立に行きましたけれど、特別問題な先生だと思ったことはありません。孫が学校でのことを全部話していたかどうかは分かりませんけれども。

「お嬢さんはシュタイナー学校に行かれたけれど、お孫さんは普通の学校に行かれたのですね?」

小・中・高校は公立。大学だけは私立で、今2年生です。

「シュタイナー学校に行かれなかったのは、何か訳があるのですか?」

孫が小学校に上がる時、日本にシュタイナー学校が小さいながらもいくつかは出来ていました。その頃、三鷹にシュタイナーシューレがあって、1987年に日本で初めて私達が作った学校でしたが、孫を入れようかとも一旦考えた上で、距離が遠かったことと日本の公立学校に対する興味も多少あったこととで。

それと孫は保育園に行っていたので、その友達と一緒に地元の小学校に行くのもいいかと思いましてね。

(次回につづく・・)

子安 美知子(こやす みちこ)  早稲田大学名誉教授
                     あしたの国まちづくりの会顧問

1933年生まれ。ドイツ文学者。早稲田大学名誉教授。
東京大学大学院で比較文学を専攻、早稲田大学に40年勤続し、ドイツ語ドイツ文学の教職に当たる。
ドイツ語辞典類、文学論文の他、『ミュンヘンの小学生』を皮切りに、シュタイナー教育、ミヒャエル・エンデをテーマとする著書、翻訳書多数。黒姫童話館エンデ資料室」、ビデオシリーズ『シュタイナーの世界』等の監修。
シュタイナー思想と教育実践の学びの輪の中で、1982年「日本シュタイナーハウス」を開設、1987年東京シュタイナーシューレ創立等の歴史をつくる。
1976年『ミュンヘンの小学生』に対して毎日出版文化賞受賞。
2012年春の叙勲において瑞宝中綬章を受勲。

<子安美知子先生のTwitter>
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<あしたの国 シュタイナー学園・こども園のHP>
【あしたの国 シュタイナー学園・こども園】

<子安美知子先生の著書>
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子どものいのちを育むシュタイナー教育入門


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ミュンヘンの小学生―娘が学んだシュタイナー学校


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エンデと語る―作品・半生・世界観



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鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
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心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
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