第79回目(2/4) 上田 信行 先生 同志社女子大学

その場で起こるコミュニケーションや学びを展示するネオミュージアム

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「ネオミュージアムで、その場を創っているのですか?」

はい。そんな場を創りたかったのです。憧れの最近接領域を! だけど、ネオミュージアムの実現には少し時間がかかりました。まず始めたことは、今まで両親と一緒に住んでいた自宅の部屋を改造して小さなラボを創りました。いつでも人が集まって来て、モノづくりが出来るスタジオです。

たまたま僕の友人が音楽をやっていたので、音楽を創るラボ、Laboratory of Music Technology(LMT)を立ち上げました。そこに平日の夜や週末に30人ぐらいが集まって音楽をレコーディングしたり、ミニライブをやっていたのです。

LMTを創るために部屋を改造して音楽スタジオを創っている時に強く感じたのですが、空間の持つ力はすごいと。ほぼ手作りで出来上がった音楽スタジオに入るとドキドキして、音楽が創りたくなり、創れそうになるのです。場が持つ力はすごいなと思いました! 音楽を創るためのオーセンティックな場が僕達をevoke(喚起)させるんだと。

その後、6〜7年このラボで活動した後、1990年の末に奈良県吉野でネオミュージアムをスタートさせました。ネオミュージアムという名前は、ミュージアムなんだけれど、従来のミュージアムではないという意味でつけました。ネオ、つまり新しいミュージアムという意味を込めて。

ミュージアムには展示物があります。ネオミュージアムには何も展示物がないのですが、その場で起こるコミュニケーションや学びを展示するミュージアム、これこそが次世代のミュージアムだと叫んで様々な試みをしました。展示物ではなく展示事。出来事を展示するミュージアムとして。

活動を展示したり、コミュニケーションの現場を展示する。博物館ではなく、出来事の「博事館」だったのです。今でこそ、このコンセプトは受け入れられますが、当時は、そんなのミュージアムじゃないと、さんざん言われました。だけど絶対そういう時代が来ると信じていたのです。
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「空間に興味を持たれたきっかけは?」

空間ってものすごくパワーがあると思います。例えば、ヨーローパの教会に行くと一歩足を踏み入れただけで、荘厳な空気に包まれますね。美術館もそうですね。作品はもちろん素晴らしいけれど、空間が醸し出している空気感が作品にポジティブなエネルギーを与えているように思います。

僕は美術館の空間が特に好きなのですが、どこに行っても作品より空間ばかり見ています。カフェに行ってもレストランに行っても。入った途端に味までわかる!って言ったら大げさかもしれませんが。人間って、ドキドキするような場所に入るとトキメキますよね!

爽やかで新鮮な風を感じると、何でも出来そうな気になるのです。みなさんも研究会に行った時など、会場に入った途端に、どんな雰囲気の会議か直感でわかりますよね。

僕は空間だけでなくコミュニケーションやアイディアを喚起するツールにも興味を持っています。例えば大きな白いロール紙に発色のいいマジックで書きながら話し合いをすれば雰囲気もプレイフルに変わりますよね。学習環境のデザインは、空間と道具と人と活動で成り立っています。その4つのインターラクションをどうデザインするか、がポイントなんです。

「空間・道具・人・活動の4要素なのですね?」

学習環境デザインとは、どんな空間で、どんなツールを使って、どんな人と一緒にどんな活動を創り上げるかを考えることなんです。最近はこの4つの要素に加えて、「食」ということもすごく大切だと思っています。

「食べること」をうまく活動の中に取り込めれば、コミュニケーションがより活発になります。喫茶店やカフェも、コーヒーが飲みたいのではなく、その場に行って話したいんです。そういうことを大事にしたい。環境や状況、場が大切なんですね。

「最近、どんな試みをされていらっしゃいますか?」

最近シリーズでSCHOOL3.0というワークショップを始めました。第1回目は、空想大学院。世界中にGraduate School of Education(教育大学院)はいたるところにありますが、Graduate School of Learning(学習大学院)はないのです。僕は、これからのプロフェッショナルスクールには学習大学院が必要だと思っています。

あるいは、すべてのプロフェッショナルスクールの学生たちが「学びを学ぶ場所」Learning Learning Place(LLP)を大学に創ることが重要だと感じています。ちょうどスタンフォード大学のd.school(すべての大学院生がデザインを学べる)のような。LLPは、自分の体験したことの意味を自ら再構成していくことが出来るleaning Instituteなんです。

そこで、SCHOOL3.0では、AXISというプロダクトデザインの雑誌をデザインしておられる方とプロの写真家を招いて、learning特集を組むという状況をつくりました。参加者はGraduate School of Learning のプロフェッサーとして自分の専門分野を決め、AXISの表紙になってみるというワークショップなのです。

写真スタジオを借りて、みんながそこで自分のポートレートを撮ってもらったのですね。とても贅沢な雑誌の表紙を作るワークショップでした。そうすると、そこに写っているのは確かに自分なのですが、すごく素敵な自分なんですよ。自分なんだけど、写真家にこうしてくださいと言われた表情とポーズをとると、「こんなに自分ってかっこよかったかな!」という驚きと発見があるのです。

僕はこの体験を“ワンランク上の自分に出会える”と言っています。こういう場に参加することで、写真に写っている自分を目指そうと思うんですよ。こういう場を創ることで、一人ひとりの良くなろうというモティベーションが活性化されるんです。このワークショップを通して沢山の発見がありました。

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第2回目も、同じ発想で音楽のバンドを撮るという「Playing the Band」というワークショップを行いました。CDジャケットではなく、30cmのレコードジャケットを作るというものです。このレコードジャケットを見てさい。かっこいいでしょう! 僕は、ミュージシャンになりたいから、まずレコードジャケット作ろうと言って、作ったのがこれなんですが・・・。

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「すごい! カッコイイですね。こういうミュージシャンいますよね」

そうでしょう!!
写真を先に撮ってもらって目指す姿が見えれば、現実に近づくのがより早いと思うんですよ。

「誰かになるのではなく、自分の中になりたい自分を描くということですね?」

そう! 僕は写真の力って、すごいなと今回思いました。みんな何か必ずすごいものを持ってるんですよ。ただそのポテンシャルを発揮できる場がないから、そのキラキラが輝いてこないだけなんですよね。だから、元気のない人もこういう所に出て来ると変わるかもしれないですよ。

僕はよくわからないのですが、心の問題で大変なことを抱えていらっしゃる方でも、もっと光の沢山ある所にどんどん出て行くことによって、自分が変われるんだということ、もっと自分を肯定してもいいんだということに気づいてもらいたいし、1人じゃできなくても仲間とだったらできるんだ、ということを知ってほしいですね。

「先生にとってメディアとは?」

メディアってコミュニケーションを何倍にも楽しめるもの。考えを触発するものだと思っています。僕は「五感+メディアセンス」が大切だと言っています。

五感でヴィヴィッドに感じるって、人間にとってとても大切なことですね。メディアセンスというのは、感じたものを自分で統合して、思いを表現するセンス。自分の五感を使ってコミュニケーションするセンスなんです。

「リテラシ―」と言うと「教育すべきもの」という感じになるので、センスという言葉を使いたいんです。日常の中で磨かれる感覚です。

「メディアセンスですか?」

これからは「センス」を磨いていくというか、自分の「センス」を磨くのにどこに行けばいいかとか、どんどん外に出て、多様な人達と交流していかれたらいいと思うんです。そうやって、「センス」が身についていく。

空間もメディアだし、使う道具もメディアだし、もちろん他者もメディアですよね。人も空間も道具も全てうまく活用して自分を表現する。そのためには、五感が覚醒してないと。まず感じ取れないとダメだから。メディアセンスをアウトプットと考えて、五感はインプットとしましょうね。

アウトプットすればするほど、インプットが鋭くなってくるんですね。だからその循環がすごく大事で、よく見るためには見た物を表現しないといけないんですね。デッサンがまさにそれで、よく見るということの訓練だと思います。見る力、聴く力を育てるためには、逆にアウトプットしなければならないのです。

「学びはアウトプットと書かれていますが、アウトプットの良さは?」

僕達は、学ぶと言うとインプットだと思いますよね。でも僕達が本当に学べる瞬間は、誰かに思いを伝える時なんです。今、インタビューを受けながら、考えて話していますよね。このプロセスの中で沢山の気づきや発見があるんです。

何かを伝えようとする時にどこがわかっていて、どこが曖昧かかがわかりますよね。話すことで「ここわかっていないな」と思い直したりできるのです。ただ聞いてるだけではわからないですよね。みんな学びはインプットだと言いますが、アウトプットだと言い切ることで、違う面が見えてきますよね。

「違う面が見えてくる・・・」

僕達は、思い込みとかそういった固いフレームに縛られ過ぎてるんですね。心のケアの問題も多分そうだと思います。病名がついたらその病気になってしまう。お医者さんが言うからじゃなくて、自分で責任もってきちんと理解し判断することが大事だと思います。

これからそういうことがものすごく大切になってくると思います。「マインドフル」という言葉があります。心を覚醒させるということです。僕たちはマインドレスになってはいけないと、エレン・ランガーというハーバードの心理学者が言っています。

「それはどういうことでしょうか?」

僕は今3カ月に1度定期検診に行っていますが、値がいくつを超えると注意しないといけないとか、それ以下なら安心とか言われて、その言葉に一喜一憂してしまいます。それおかしいですよね。

お医者さんが言うことをマインドレスに真に受けてしまうのではなく、自分で判断できるようにしないといけないということです。自分が自分の体の状態を理解した上で強い意志を持って健康をコントロールしていくことが、これからは特に重要になっていくと思います。それは、マインドフルになるということです。

「先生の失敗談などあれば、教えていただけますか?」

それはもう、いつでも失敗ですよ。こんなこと言ってても本当に毎日悩んでるんですよ。毎日心配しているし。だからこそ、こうやって自分に言い聞かしているんです。人間って、しょっちゅう失敗するし、失敗した時は苦しいですけど、そこからどう立ち上がるかで決まりますよね。

失敗しちゃいけないと思うと何もできないけれど、失敗してもちゃんと起き上がれるという自信さえあれば、チャレンジできますよね。失敗って、何が失敗かというと、失敗したことをそのまま放っとくことが失敗ですよね。失敗から何を学べるかと考えると、次に活かす方法を学ぶ自己投資となるんです。逆に失敗しないとわからないですよね。

講演会でも、うまく行かなかった時ほど値打ちがあります。その時すごく傷ついて痛いんですよ。「あ〜あの時にこう言えばよかった〜」なんてしょっちゅうです。その時悔しいと思って、「よし!」と思うから、次良くなるんです。

うまくいってれば「あ〜、今日もうまくいったな」って、別に何も学んでないのです。だから痛い目に遭った方がいいんですよ。そういうことの繰り返しで私たちは学んでいく。

普段の授業でも、僕は学生から教えてもらってることが多いです。教えてるんじゃなくて、一緒に学んでるって感じで、逆にパワーをもらってます。

「義務教育の間は、先生が教えていることが多いようですが、どうお考えですか?」

義務教育では、子ども達はしっかりと学びの姿勢を身につけてほしい。学校が学びの共同体として機能し、教師同士、教師と子どもたち、子ども同士が共に学び合い、真剣に学ぶとことの楽しさをぜひ義務教育の間に経験してほしいと願っています。そういう意味で教師の役割はとても重要だと思います。教師が学びの姿勢を見せるという意味で。

これからは、知識は別に学校でなくても得られるので、学校の役割が変わってくると思うのです。知識はインターネットなどで学んで、学校はその知識を活用して仲間と共に新しい理解を創り上げるところ。実際の社会の中に出て行って積極的にフィールドワークをし、協同的リフレクションを通して自分の行動を意味付けるところになってくると思います。

学校は、知識をアウトプットする場に確実になってくる。インプット型の学校からアウトプット型の学校に変わる、丁度今、過渡期だと思います。

(次回につづく・・)

上田 信行(うえだ のぶゆき)  同志社女子大学 現代社会学部現代こども学科教授
                     ネオミュージアム館長

1950年奈良県生まれ。同志社大学卒業後、『セサミストリート』に触発され、セントラルミシガン大学大学院、ハーバード大学教育大学院で学ぶ。ハーバード大学教育学博士(Ed. D.)。帝塚山学院大学専任講師、甲南女子大学人間科学部人間教育学科教授を経て、現職。
専門は教育工学。学習環境デザインとメディア教育についての実践的研究を行っている。
実験的アトリエとして奈良県吉野川のほとりに「ネオミュージアム」をつくり、1990年以来、実験的ワークショップを数多く実施している。
現在、人と人が織りなすコミュニケーションから豊かな学びの場をつくる「プレイフル・ラーニング」という新しい考え方を構築し、実践的な研究を続けている。

<上田信行先生のHP>
【learningthroughlove label】

<ネオミュージアムのHP>
【neomuseum】

<上田信行先生の著書>
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プレイフル・ラーニング


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プレイフル・シンキング



インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主宰、Team Oasis 代表
自分がなんだか分からない。何かやりたいけど、見つからない。
心の悩み、病を抱えた方、自己実現したい方のお手伝いをいたします。

心理カウンセラー、ゲシュタルトファシリテーター、NLPセラピスト、
交流分析士1級、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:前田みゆき(まえだみゆき)

前田みゆき

身も心も魂も輝やくように、いつも笑顔を心がけています。
人とのご縁で、気づかされることが喜びです。

自称 遅咲きさん

コーチングと心と体の健康について、もっか勉強中


インタビュアー:古武家真美(こぶけまみ)

古武家真美

心理学とカウンセリングを勉強中。
自分らしさを探す旅の真っ最中です。

学生の悩みに手紙やメールで答えるVFM東京でも活動しています。


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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