第64回目(2/4) 倉成 央 先生 メンタルサポート研究所
人は必ず再決断して、問題を乗り越える力を持っている
「再決断療法とはどんなことをするのか、簡単に説明していただけますか?」
自分が今、問題だと思っていることがありますよね。悩みであったり「自分はもっとこうなりたい」という思いであったり。
その「問題だ」と思っていることの原因は、ほとんどが小さい頃から今までの人生のどこかで、自分が取り入れたもの、決断したものなんですね。生まれつきの問題・遺伝的な問題を除いては。
「こういう状況では、こう考え、こういう感情を使う」という決断――例えば、人に構ってもらいたい時に相手を攻撃する、という人がいるとしたら「構ってもらえず悲しい時に、怒りの感情を使って相手を攻撃すればよい(振り向いてもらえる)」ということを取り入れている、決断しているんです。
私達は今までにいくつもの決断をして、決断した考え方や感じ方を繰り返し体験しているんです。
例えば、同僚が褒められているのを見たら自分はダメだと思い落ち込みを体験している人がいるとしたら、その人は幼少期に「兄弟が褒められている時に、自分がダメだと言われているような非言語的なメッセージを受け取り、そのように感じていた」ということを繰り返しているかもしれないということなんです。
その時に、「自分はダメなんだ」と決断している人が、その決断自体を変えるよう支援していく、その取り入れた決断をもう一度取り入れ直そう、というのが再決断療法です。問題の根本である決断にしっかりアプローチして根っこから解決していく、というようなものです。
決断が変わるということは、考え方や感じ方も変わるということです。だから、変化は割と自然に訪れますよね。そういえば最近こういう感覚をあまり持ってない、とか。そういうのが再決断療法の特徴かなという感じがします。
「具体的には、決断を変えるというのはどんな風になさるのですか?」
もう一度、小さい頃の決断した場面を再現して体験してもらって、その場面で「あの時はこの決断をしたけど、今後はこの決断をする」と決心してもらうんです。
例えば「自分はどうせ誰からも好かれないんだ」とよく思う人がいるとしたら、それを最初に感じたのはいつかというのを体験してもらうんですね。
小さい頃に、親から愛されてないと思った時にそう感じたのであれば、親が自分のことを愛していないと感じたその場面をもう一回体験してもらうんです。
そして、親が愛してくれないから、やっぱり自分は誰からも愛されないんだと自分で決めるのか、それとも、この親は愛してくれなかったけれども自分は愛される価値があるんだ、ともう一度決めるのかを選択する、再決断するんです。
そして、ポジティブで建設的な方を選択できたら、その人の感覚が変わるんです。
「その時に先生は、どういう介入や支援をなさるのですか?」
クライアントさんの気持ちに寄り添って、クライアントさんがポジティブな新しい決断ができるように勇気づけていくことをします。
「今まで自分は誰からも愛されないという決断を持ち続けたのは、とても辛かったね」と、気持ちに寄り添いながら、この辛い状況をまた続けていきたいか、それとも違うことを自分で決めていきたいかを投げかける形で介入していきます。
「体験するというのは、思い出す感じですか?」
いいえ。例えばひとつの方法としては、ゲシュタルト療法のように空椅子を使って、そこに両親がいて決断メッセージを受け取っているその場面に身を置いてもらうんです。
そして小さい頃の自分の気分とか感覚、言われた言葉ひとつひとつやその時の気持ちを、もう一度体験し直すような感じです。だから、思い出すというよりは再体験するという言葉が近いかな。
「どなたでも再体験できるものなのですか?」
もちろん人によってはすぐには再体験しにくい人もいますが、何度かやると大体できるようになります。
「いつ決断したかがはっきり分からない方もいらっしゃるのではないですか?」
そういう方もいますが、大抵は大丈夫です。大体いつ頃からその感覚を持っているかを探っていけば、大抵、決断の場面に辿り着きます。
似たような場面を人は何回か体験しているので、はっきりと「これが一番最初の場面だ」と言い切れるものが分からなくても再決断はできるんです。要は、決断した内容を建設的な決断へと変えることができれば良いのですから。
「なかなか再決断ができない方もいらっしゃいますか?」
それはそうですよね。もちろんいらっしゃいます。なかなか過去の出来事とお別れができない場合などはそうです。だからそういう人にはゆっくり時間を掛けて寄り添い勇気づけながら、再決断まで一緒に歩んでいくように支援します。
私が支援したクライアントさんで、「死にたい、死にたい」と言っていた人がいて、しょっちゅう自殺未遂をしていたんですよ。
その方は小さい頃に親から相当の虐待を受けていて、親に付けられた傷が身体にも残っていたり、親に殺されかけたことも何度かあって、「死にたい」という気分をいつも感じているんです。
カウンセリングの時に「あなたが自分なんかいない方がいいと最初に思った場面に、身を置いてください」と言ったら、その人は親から殺されかけた場面を描写し始めたんです。
親から殺されかけるような目に遭ったら、自分なんて生まれてこなければよかったと誰しも思いますよね。だからこそ、そう決断した場面なんでしょうね。その場面はあまりにも怖くて強烈で、その方はその日は耐えられなかったんです。怖さと向き合えなくて、再決断するどころではなかった。
そういうクライアントさんを二度、三度カウンセリングして、支えて、護って、そして怖さと少しずつ向き合って、「親のあなたは私のことを要らないと思ったかもしれないけど、私は要らない人間じゃないんだ」という力強い再決断をするまでにやっぱり少し時間は掛かりました。
でも多少時間は掛かったかもしれないけれど、その方は最終的には力強く再決断をしていったんです。それから数年たってその方が私のところに遊びに来た時に、こんなことを言ったんです。
「私、昔はよく死にたいって言っていましたよね。先生はどんな風に私がそう言っていたか覚えていますか? 実は、あれから死にたいっていう感覚は全く湧かないから、忘れてしまったんです。辛い目に遭っても、辛いとは思うけど、死にたいとか消えたいとは思わないんですよ」と。
だから、たとえすぐに過去の出来事とお別れして再決断できなくても、人はそれを出来る能力を持っているので、必ず乗り越えられるんです。寄り添って、しっかりと支えていけば、人は乗り越える能力を発揮出来るんですよ。
「必ず乗り越えられる力を持っている?」
どんなに自分の問題が深くて、どんなに自分の問題が辛くて、自分は絶対に変わらないと思っている人がいたとしても、それは間違いです。私はどんなに困難に見える問題であっても、人は必ず変わって乗り越えていけると思っていますからね。
私がよくワークショップで言うのは、「どんなカウンセリングを何度受けても、絶対にこの問題は変わらないっていう問題があるんだったら、それこそワークショップでその問題を出してくれ」と。
「何十回もカウンセリングを受けたけれど、解決できなかったという問題をどうぞ出してくれ。それが解決できていくということ、自分がそんなに力があるんだということをここで実感していこうじゃないか」と私は呼びかけています。
変わらない問題なんてない。そう私は信じています。何回もカウンセリングを受けたけれど変わらなかった問題が、ワークショップで変わった方もたくさんいますよ。
「人は小さい時に、自分にとって建設的でない決断をしてしまうことがあるわけですよね。それは何故なのでしょうか?」
それは、その時にはその方が都合が良いからですね。
例えばお兄ちゃんばかり可愛がられる時に「何でだ?」と思い続けると苦しいじゃないですか。子どもにとっては、その時は「自分は大した価値のない人間だ」と思った方が楽なんですよ。
そうすれば、お兄ちゃんばかりが可愛がられるという現実にも対処ができる。そう決めてしまった方が楽な時がある。
だから良くない決断というけれど、実は子どもの頃には良かった決断なんです。それが時を経て今は良くない面、マイナス面が出てきているという意味合いだけなんです。
私はただ昔の決断を変えるというだけではなくて、昔の決断はとても良かったんだという思いの下に変えていきたいなと思うんです。この時はとても正解だったんだ、と。だから昔の決断を否定はしてほしくない。その時はOKだったんですよ。その決断がとても良かった。
「否定しないことには意味があるのですか?」
それが真実ですから。今までその決断が自分を支えてきてくれたわけなので。だから、過去とか、過去にやったことを決して否定はしてほしくない。やっぱり、過去の自分に感謝ですよね。
昔の決断は良かったというのが真実だと私は思っているのでそうしたいと思っているだけです。ネガティブと思った方が再決断は早いのかもしれませんけれど、それはよく分かりません。でも、過去の決断というのは決してネガティブなものじゃないと思いますね。
「恐怖症や精神的な疾患にも再決断療法は有効なのでしょうか?」
もちろんです。恐怖症の話をするならば、それこそ高所恐怖症や水恐怖症の問題をグールディングは20分で解決していました。私も高所恐怖症はグールディングのワークで解決した一人です。
「先生もそうだったのですか?」
ええ。でも実は恐怖症だけでなく、最近増えている鬱などにも再決断療法はとても有効なんです。
ある精神科のクリニックで、鬱の患者さんに再決断療法だけを行った場合と、薬物療法だけを行った場合を、5年かけて比較したんです。その結果を見ると、再決断療法は薬物療法と比べて何ら遜色がないどころか、むしろ効果が高いぐらいだというデータが出ているんです。
さらに、カウンセリングや薬物療法が終わった1年後まで追跡調査をしてみると、再決断療法を受けた人というのは良くなる一方だというデータが出ている。こんな風に見ていくと効果は高いですよね。こういったことをそのうち論文で出そうと思って執筆中なんです。
カウンセリングをやっている人には、カウンセリングが「効く」とか「効果がある」と体験的に言葉で言う人が多いと思います。だから理論だといってもそれを検証するものが無い。私はカウンセリングを世の中に広げるためにはそういう段階から脱出しなくてはいけないと思っています。
着実に研究を重ね、そしてきちんと発表して、カウンセリングの効果というものを世の中に広げていきたいと思っているんです。そのために大学院も行っています。今、僕は博士課程の3年生なんです。
「では、これからはエビデンスを出していかれるのですね?」
そうですね。そして、今研究しているのは再決断療法ですけれど、再決断療法がどうだというのは二の次にして、まずは「カウンセリングは大切なものなんだ」ということを広げていきたいと思っているんです。
今は、どの心理療法が良い、悪いと言っている場合じゃないと私は思っているのです。この心理療法はどうだとかいう話もよく聞きますけれど、世の中でカウンセリング自体がまだ認められていない段階なのだから、その中で足の引っ張り合いをしている場合ではないと思っています。
まずは、心のことはとても大事だということが認められるように、心理療法や流派を超えてしっかりと心のケアの大事さを訴えていく活動をすることが、今は一番大事じゃないかなと思っています。
もちろん自分が「これだ」と思う療法は信じてやったらいいけれど、心のことという視点で見ればどの療法もたぶん仲間なんですよ。そういう風にしていきたいですね。
「ご著書の中で『インナーメッセージ』という言葉が出てきますが、これは先生のオリジナルの言葉ですか?」
「再決断」とか「禁止令」とか「決断」という言葉を使わずに、簡単な言葉で説明したいと思ってインナーメッセージという言葉にしたんです。今はまだ、本を出す時に「再決断」とか「決断」という言葉は使いたくないので。
「それは何故ですか?」
一般の人、普通の人が聞いて読んで理解できるような分かりやすい本を出したいんですよ。別に専門書を出したいわけではないので。
「では、インナーメッセージについて教えていただけますか?」
禁止令に近い考え方です。つまり自分が小さい頃に取り入れたり決断したことを、本の中ではインナーメッセージと呼んでいます。
例えば「自分はダメだ」って考えがちな人が、表面的に「そんなことない。自分だっていいところあるんだ」って考えるのも悪くはない。でも、そうやって表面的に思い込もうとするのは結構努力が必要で、苦しくてきつい思いをするんですよね。
以前の私が人に会う時にストレスを感じていたのも、頭で「ストレスじゃない。ストレスじゃない。その人が悪い人なわけでもなんでもないから」と思い込んで克服しようとしても、結構大変なんですよ。
だからそれに代わるやり方として、そういう考え方はもっと昔から持っているはずなので、その過去の自分に「あなたは価値があるよ」とか「人っていうのはこうだよ」と、語りかけるようなイメージをすることで、インナーメッセージを書き換えましょう、と。
その方が楽に変わることができるんです。「今、苦しい思いをしている原因は、インナーメッセージにあるんだよ。だから、インナーメッセージに語りかけて、インナーメッセージを書き換えていきましょう」ということを言っているんです。
要は再決断療法の理屈と同じなんですけれど、それを自分で、セルフでやりましょう、ということを、本の中ではインナーメッセージの書き換えと呼んでいるんです。
(次回につづく・・)
倉成 央(くらなり ひろし) メンタルサポート研究所代表
臨床心理士 メンタルヘルスコンサルタント
「再決断療法」の第一人者。
1963年、福岡生まれ。大学で経営学を学び、大手経営コンサルティング会社で経営コンサルタントとしての実務経験を積む。その後、大学院で臨床心理学を学び、臨床家としての実務経験を重ねる。現在は、経営コンサルタントと心理カウンセラーの両方の経験を活かし、精神科でのカウンセリングの傍ら、企業でメンタルヘルスの導入・定着に向けたコンサルティングや研修を行う。
日本心理学会、日本心理臨床学会、交流分析学会などに所属。
- <倉成央先生のHP>
- 【倉成央 公式ウェブサイト】
- <メンタルサポート研究所のHP>
- 【メンタルサポート研究所】
- <倉成央先生の著書>
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ゲシュタルト・再決断@府中「座★すわろう会」で活動中。グループの中で
お互いにサポートを得ながら、自分らしく癒されるセラピーをしています。
ペンギン好き。趣味はバレエです。
GNJゲシュタルト療法トレーニングコース修了、日本ゲシュタルト療法学会会員
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前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。
心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
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