第57回目(3/4) 森田 汐生 先生 アサーティブジャパン

相手も自分も責めないスタンスで、問題解決に進む

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「職場でのコミュニケーションの事例ではいかがでしょうか?」

では、今度はCさんが職場の先輩で、後輩のDさんを注意するというのをやっていただきましょう。

多くの方が悩んでいらっしゃるのが、仕事上での人間関係。仕事の関係になってくると立場が違ってくる訳です。上司と部下、先輩と後輩になってくると、フラットに話すのが難しくなってしまう。

アサーティブネスでは、相手と立場が違ったとしても対等に話をすることを意識します。

対等というのは、タメ語で喋ることではなくて、相手を尊重しつつも、人間としては対等というところに立って、相手を尊重しながら伝えるべきこと、伝えたいことを具体的にわかりやすく伝えることです。上から目線でも卑屈な目線でもなく、堂々と自信をもって、率直に伝える。

職場の事例で多いのが、後輩や部下を上手に注意することです。

仕事の仕方、電話の応対の仕方、レポートの書き方、ケアレスミスが多いことや報告書がなかなか出てこないことの注意。そういう、仕事の仕方や、取り組む時の姿勢そのものを注意しなければいけないことを、的確に伝えることができなくて悩まれている方が多いです。

Cさんが先輩の役で、Dさんが忙しくて報告書を出すことができない後輩という役割でさせてください。

Dさんは、仕事の優先順位がなかなかつけられない。Cさんに言われたことはやるのだけれど、どうも勝手な判断をしてしまい、このスケジュールは大事だよと注意してあげなきゃいけないという事例です。

Dさんは、一生懸命頑張ってはいるんだけれどカラ回りぎみで、「お客さんに呼ばれたのでそっちに行っていました」とか言ってしまう。そういう姿勢そのものを、Cさんは、ダメだよ、そのやり方は改めなさいと言わなきゃいけない、という場面を設定しますね。

【ロールプレイ1回目】

C「そういえばDさん、この間お願いした会議の報告書はどうなってるの?」

D「あー、すみません。まだやってないんです。お客さんからちょっとこっちをやってって言われて、そっちを先にやっちゃったので、まだそれ終わってないです」

C「これ、昨日も聞いたよね」

D「ええ昨日も言われたんですけれど、その間にお客さんからこっちを先にやってよって言われちゃったので、そっちを先にやっちゃったんです」

C「なるほど。でもこの報告書は、今日結構重要な会議で必要になるので、優先順位をつけてやって欲しいなって思ってるんだけど・・・」

D「はあ、重要なんですね。でも、お客さんに言われるのも私にとってすごく重要で、大事かなって思ったんで、そっちを先にやっちゃったんです」

C「分かりました。いろんなお客さんの対応もあるとは思うんですけど、会議の報告はすぐにやらないと、連絡が伝わらなかったりするので、次からは優先順位の重要なものからやっていくようにしてもらえますか?」

D「はい、わかりました(なんとなくわかっていない様子で、しぶしぶと)」

(ロールプレイ終了)

はい、それくらいにしましょう。これもよくある事例ですね。どうですか、こちらの注意が相手に伝わって、これで自主的に優先順位をつけるような手ごたえはありましたか?

C「いや、ないですね。自分の優先順位と相手の優先順位が違う可能性があるので、そこをまず、合わせる必要がありますね」

そうですね。今の伝え方は、Cさんの困っている状況は伝えられたし、注意をしている時の姿勢もとてもいいなあと思いましたが、「ことの重要性」については、相手に届いていない感じがありましたよね。

Dさんの方は、これで先輩に言われたように、優先順位をつけようと思いました?

D「優先順位がよく分からないっていう感じでした。いつまでかが分からないと、『私にとってもお客さんは大事だし!』みたいな感じでした」

これも組織の中でよくみられる、2つの違う価値観がすれ違っているケースです。こういう事が積み重なると、結局、先輩のCさんがストレスを感じ、後輩の方が、「何で文句ばかり言われなきゃいけないの、私」みたいなストレスを感じてしまうことになってしまう 。

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「それをアサーティブで、どうしたら回避できるのでしょうか?」

アサーティブなポイントから見ていきます。断る事例と違うポイントとしては、1.「事実」、2.「感情」、3.「要求」というように、ちゃんと整理して伝えていくことです。

1.起こっている事実を客観的に伝える
起きている問題は何でしょうか。会議の報告書が出ていないことで、問題が生じている。彼女の行動もまずいけど、「彼女の行動の結果、会社でこういう問題が起きている」ということ、これが客観的な問題です。

相手にフォーカスするのではなくて、実際に起こっている問題にフォーカスすると、話し合いが問題解決の方に行きやすくなるんです。

「君はいつも頼んだことをやってくれないよね?」ではなくて、「報告書が出ていないことで、上への報告が遅れて、その結果、お客さんを待たせることが、実はこの2カ月続いているんだ」。つまり、Dさんの行動の結果、お客さんに迷惑をかけているというところを、具体的に伝えます。

もう一点は、相手の非を頭ごなしに指摘するのではなくて、最初に相手の良いところを認めます。

具体的には「Dさんが、いろんなお客さんにベストを尽くして対応しようとしている姿勢は、本当に助かっています。ただその結果、会議の報告書が遅れてしまう事で、その後のプロジェクトに一週間遅れが生じる、そういう事が起きているんです」というように伝えるといいですね。

そうすると、相手は「自分の行動の結果、迷惑をかけていた」ということに初めて気が付きます。そこで問題の共有ができるのです。

2.問題に対する自分の気持ちを言葉にする
会社の中でも、友達関係でも家族の中でも、アサーティブでは、感情を適切に言葉にすることがポイントになっています。感情的にならないで、相手に感情を伝えていくことで、相手の心にぐっと入っていきます。

「気持ちを伝える?」

具体的には、「会議の報告が出なくて、お客さんに迷惑がかかるんじゃないかと心配しているんだ」「このような事態が続いていて、僕も困っているんだ」というように、人間としての感情を言葉にして伝えてあげると、相手は一方的に怒られたという印象は持たなくなるんですね。むしろ「ああ、そう思っていたんだ」と納得する。

ですから、「お客さんに迷惑をかけるっていうのはまずいと思うし、心配なんだよね」などと、伝えてみてください。

3.具体的な要求や提案をする
最終的に要求を明確に述べます。「今後、○○ということをしてもらいたい」です。「こういう事が起こらないように、毎朝、優先順位を確認する形で、しばらく仕事を進めてみるようにしたいんだけどどうかな?」などと、提案してくださっても結構です。

それでは、もう一度、Dさんに注意をするロールプレイをしてみましょう。

【ロールプレイ2回目】

C「Dさん、いつも電話対応もいいし、早く仕事をやってくれてすごく助かってます。でも、最近報告書が遅れることが続いているよね。遅れるとプロジェクトに支障が出るので、僕はそれを心配しているんです。これからは朝、ミーティングをして、優先順位を確認してから仕事を進めていこうと思っているんだけどどうかな?」

D「報告書が遅れたのはすみませんでした。ただ、朝、優先順位を決めても、どうしても間に自分のお客様から電話が掛かってきちゃうと、そっちに対応しちゃったりするんですね。その時にどうしたらいいかが分からないんです」

C「そうだよね。優先順位の判断の基準が分からないよね。それでは、一つ決まりを作りましょう。5分以内に対応が終わるものであればそちらを優先して、5分以上かかるっていう案件であれば、僕に相談してください」

D「はい、分かりました。それだったら大丈夫です。よろしくお願いいたします」

(ロールプレイ終了)

はい、お疲れ様でした。どうでしょう手ごたえは。少しは彼女の行動は変わりそうですか?

C「そうですね。具体的な対処を相談することができたので」

そうですね、対話になっていましたものね。Dさんは、2回目はどうでしたか?

D「目の前のお客さんに迷惑をかけないようにしようって動いていたんだけれど、最後の確認で5分以上かかるんだったら相談すればいいんだなっていうのが分かりました」

このように、具体的に問題点を指摘して、一緒に解決策を話し合うことで、相手が悪いとか、相手の性格が悪いとか、そういう問題ではなくて、具体的な解決を進めていくことができるのですね。

事例を通して実感していただけたかと思いますが、アサーティブであるというのは、率直に伝える姿勢、相手を認めつつ言うべき事をわかりやすく具体的に伝えること、相手も自分も責めないスタンス、自分の責任も認めながら対話を促す。そんな感じだと理解していただけたらと思います。

「ご著書で、よくあるコミュニケーションパターンとして3つ挙げていらっしゃいますが、それについて教えていただけますか?」

自分の取りがちなコミュニケーション上のパターンという風にご理解いただくと良いと思います。一つは、攻撃的な言い方になる「ドッカン」、もう一つは受身的になってしまう「オロロ」、そして最後に作為的な回りくどい伝え方の「ネッチー」です。

ドッカンやオロロ、ネッチーになることが「悪い」というのではありませんが、ある人との関係の中で、いつも自分はそれしかできない、常にドッカンやオロロになってしまうということになると、問題解決の方に進んで行かないですよね。攻撃側と委縮側というように、人間関係も固定化してしまう。

人間関係はあまり固定化しない方が、お互い気持ちがいいものです。なので、「この間は言えなかったけど、次回はもう少しアサーティブになろうかな」と思って、ちょっとアサーティブに言ってみるということ。そうすることで関係も、徐々に変わってくるのです。

「あの人は言い方がきつくて嫌な人」じゃなくて、「今ドッカンになってるよ」とか「オロロにならないで発言しようよ」という感じで、お互いのくせについて話す。

「言い方のくせと性格とを分けて考えるのですね?」

そうですね。伝え方のくせは変えられる。性格は変えなくてもよいけど、くせは変えようよ、というアプローチができることで、お互いがもう少しラクになり、むやみに責める必要がなくなってくるのだと思います。

「自分がどういうコミュニケーションをとっているかを自分で把握するという事ですか?」

それは非常に大事です。自分がどういう時にそうなりがちかなと。そして、本当に大事な時はアサーティブにやってみようと思えるといいですね。4番目の選択肢を意識して使うということですね。

「それにはやはり練習ですか?」

そうですね。もちろん認知を変えることで、人が変わる事も多々あると思います。アサーティブはもともと行動療法だったので、行動から変わるというアプローチです。
私自身はアサーティブネスを「心理学」というよりも「社会教育」というスタンスで教えているので、なによりも「やってみて身につける」ことを大事にしています。

パソコンでも運転でも自分でやって初めて身につきます。身体で学んで身につくものなので、そのためにはやはりトレーニングが必要になりますね。

身につけることができれば、何かあった時には「よっしゃ! これを伝えてみよう」と、自信が持てるようになるんです。自分は率直にアサーティブに伝えることができるとなると、もっと自信を持って日々が生きられるようになるでしょうね。

(次回につづく・・)

森田 汐生(もりた しおむ)  特定非営利活動法人アサーティブジャパン代表理事

一橋大学社会学部卒業。大学在学中にデンマークに留学、その後、イギリス滞在中にアサーティブネスに出会う。大学卒業後、日本社会事業大学研究科で社会福祉士の資格を取得し、1991〜93年、イギリスの地域精神医療団体でソーシャルワーカーとして勤務。その間、ヨーロッパにおけるアサーティブネスの第一人者、アン・ディクソンのもとでトレーナー養成講座を受け、アサーティブネス・トレーナーの資格を取得。帰国後、1999年に国立市に事務所を設立。2004年にNPO法人化。現在、アサーティブネス・トレーナーとして、全国各地で講演・研修を行っている。
◆アサーティブジャパン主催の講座
 ・ 基礎講座
 ・ 応用講座
 ・ ステップアップ講座
 ・ アドバンス講座
 ・ トレーナー養成講座
 ・ ロールプレイ講座

<森田汐生先生のHP>
【アサーティブジャパン】
<森田汐生先生の著書>

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インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主催、NPO Oasis 代表
いろんな環境に自分を合わせて生きてきて、自分がなんだか分からない。
そんな、うつ病や心の悩みを抱えた方のお手伝いをしています。

心理カウンセラー、NLPセラピスト(ゲシュタルト、エリクソン催眠療法、
家族療法)、交流分析士1級、トランスパーソナル学会会員、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren


インタビュアー:広江俊介(ひろえしゅんすけ)

広江俊介

心のボイスレッスン 代表
都内で声と言葉をテーマにしたメンタルセラピー、
ゴスペル音楽による発音・発声のレッスン、自己表現力の磨き方を
指導しております。

現在、一般のビジネスマン、OL、カウンセラー、セラピスト、教師、
コンサルタント、俳優、声優の方まで多岐に渡り、教えております。
プロボイストレーナー、プロギタリスト講師
ブログ:『毎日1分!伝説の質問。』


インタビュアー:村上友望(むらかみともみ)

村上友望

今は普通のOLをしながら、セラピストとして活躍できるよう勉強中です。
出会った方々の幸せな笑顔をサポート出来たらと思っています。

ヨーガセラピスト ソース公認ベーシックトレーナー
パステル和アートインストラクター ジュニア野菜ソムリエ
アロマテラピーアドバイザー キャンドルアーティスト
ブログ:http://ameblo.jp/ohisamakokoro/


インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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