第56回目(4/4) 鈴木 規夫 先生 インテグラル・ジャパン

悩みを突破するには、サポートとチャレンジの両方が必要

インタビュー写真

「心の仕事に就きたい方へ、先生からメッセージはありますか?」

自分の器以上のクライアントは扱わない、ということですね。それを肝に銘じなければいけない。発達心理学のアセスメントはインタビューを使ってやるんですけれど、自分の発達段階を超えた人だと、アセスメントできないんです。

そのとき、自分より良く見えるレンズを持っている人が、世界について語ってくれているわけです。だけど、レンズの精度が良くない自分には見えないんです。そうすると誤解してしまう。これは、治療においてもそうだと思います。

基本的にその人の人生を引き受けて、その人の人生に介入していくことは、僕らの器の深さや高さが試されていて、かなわないという人は世界に一杯いるわけです。だから唯一僕にできることは、多分自分を深め続けることだけなんです。

それは、学位さえ取ればとか、何とか先生の本さえ読めばというのでは、絶対に克服できない問題です。

僕の友人も臨床心理士の育成に随分と関わっていますけれど、合格者がほとんど現場で使いものにならないそうです。スキルやノウハウ等のテクニックを習得することで、セラピストになれると思い込んでいるところがあるからなんです。

ところがテクニックは瑣末の問題で、テクニックとアートの両方があり、アートの部分が最終的に僕らは試されるわけです。アートの部分が深さなんです。テクニックを道具箱の中に一杯突っ込んでも使えないんです。

できる人だけがセラピストになる。才能の無い人や、まだまだ人生の途上にある人は、ならないというのが良心的だと思うんです。セラピストは、免許を取ったからできますという職業ではないですよ。

友人が映画を作っているんですが、「良い人だけど才能が無い人」がいることによって、全員が不幸になるという厳しい世界だそうです。セラピーの仕事もそれに近いところがあるような気がするんです。

だから、なるべきでない人、頑張ってもなれない人がいる。皆がなれると思い込むのはすごく危険だと僕は思っています。

「適性の見極めは、どうしたらよいのでしょう?」

インテグラル的に言うと、その人の個性や素質の問題もあると思うし、その人のテクニックのレベルの問題もあると思うんですが、一番はアート、つまり深さの部分の問題です。そして、それを育成するための場が、今、現代の日本の中にあるのかということです。

自分の人生の中で縁(よすが)にしていた、拠り所にしていたものを完全にはぎ落とされて、丸裸にされる経験を、僕らはどんなときにするでしょうか。

ぎりぎりのところまで人間を追い込むような経験を、我々が成長するプロセスの中のどこでできるのかはすごく重要だと思います。僕は、その経験が無いセラピストに見てもらいたいとは思わないですよ。

それは、喪失の経験とか、個人個人の特殊な経験であり、意図してできるようなことではないというところがありますよね。

「先生にも喪失の経験がおありですか?」

たくさんあります。喪失の只中で、全ての人に見放されて、「オレって生きている理由が何もない」というところに置かれるときがありますよね。個としての自分に戻らざるを得ない。その中で、それでも自分自身の命を肯定する力が、結局、人間の癒しの力だと思うんです。

全てを剥奪されて丸裸になったときに、人によっては死を選ぶ人もいるけれど、生を選ぶ人もいる。生を選ぶときに何がそこに働くのかというと、人間の何か不思議な力だと思うんです。

こうした力に、どこかで触れた経験がなければ、僕はセラピストにはなれないと思うんです。これが無い人には、僕は見てもらいたくない。


「ゼロになって、そこから戻ってきた経験ということでしょうか?」

おっしゃるとおりです。

「生を選ぶ人に共通する力とは、何でしょうか?」

これは僕の個人的な経験ですけれど、悩みにしがみついている自分が実はいるんです。ウツに溺れることで、そこに救済を求めている自分がいる。それを捨てることだと思うんです。それが生を選ぶ力じゃないかと思います。




「今、悩みを抱えている方にメッセージがありましたらお願いします」

悩みを突破するには二つの要素が必要だと思います。それは、サポートとチャレンジです。

悩みというのは、正面から向き合って格闘しなくてはいけない大きな課題ですから、人生の贈り物と思って全力で戦わなくてはいけないものではあるんです。と当時に、戦い続けると潰れますから、サポートを得るということです。

サポートとチャレンジは、両方あって初めてバランスが取れますので、孤独の中で格闘している人はサポートを得るべきだろうし、課題から逃れようと仲間の中に逃げ込んでいる人は、一人になる時間を作るべきです。

サポートとチャレンジの両要素を自分の中に維持しながら、悩みと格闘する。

クライアントでも、課題をしっかりと自分で引き受けた上でカウンセリングルームに来る人と、僕に空け渡すために来る人とでは、結果は全然違います。だから、そういう意味で、「悩みは誰のものでもない。あなただけのものです」ということですね。

「今後の展望や、夢などはおありですか?」

2001年にアメリカで同時多発テロがあって、あの後、時代はすごく早い勢いで動きはじめているのを直感しています。資源の争奪戦争が世界で起こっているのです。

なぜ資源が重要かというと、水や食べ物は全て膨大なエネルギーを投じて生産されているんです。社会のインフラがあって、それらが手元に来てくれるから、僕らは生きていけるわけです。

贅沢をするためにエネルギーを争っているのでなく、死にたくないからエネルギーを争っているのです。今、地球規模ですごい速度で資源の枯渇が進行しているので、そういう時代状況の中で、どんなものが必要とされているのかが自分のテーマなんです。

例えば、最近、「持続可能性」という言葉が随分使われていますけれど、まさにそんな意識です。それから、ローカルにできた物を食べて自給自足をしていく「エコビレッジ」とか。でも、TPPなんていう、完全に逆行する方向の話もある。間違ったことがさらに行われる時代になっています。

その時代の中で要求されているものが、確かにあるはずなんです。そういうところを見極めて仕事をしていかないといけないと思っているんです。

「心理学という領域よりももっと広く?」

そこでも心理学はすごく重要です。我々が特定の選択肢を選んだとき、そこには意識が介在しているわけです。どういうメカニズムである特定の判断をしているのかの理由が分からなければ、僕らは自動的に反応するだけです。

そこはやはり突き詰めて、心理学者がするべき仕事はたくさんあると思うんです。僕らの首根っこを捕まえている「神様」は何かということです。

「そこに気づかせるのも心理学の仕事だし、OSをヴァージョン・アップしていくのも心理学?」

OSがヴァージョン・アップしないと気づけない。つまり、レンズを外したところで初めて、レンズに見えていた光景が必ずしも真実ではなかったと気づけるわけです。

レンズを外すというのは、OSをヴァージョン・アップしないとできない。皆、このレンズで生活し慣れているから、これ以外の光景を見ることに抵抗がある。そこが多分すごく難しいところだと思います。

ただ、変化のまっ只中にいる人は存在するんです。周りを見回すとクライアントさんの中には既に変化のまっ只中にいる方がいます。彼らは、僕らのところに来て、この厳しい変化のプロセスを完結するための方法を求めてくるわけです。

彼らは彼らなりに何かに導かれて変化をしているわけです。だから、僕らができるのは、その人達をヘルプすることだけなんです。

「先生がこのお仕事をなさるうえで大事にされていることはありますか?」

そのときに出会うチャンスをもらったクライアントさんは、唯一無二の存在です。だからその人のために尽くすということですかね。

ただ、1時間とか時間を限っているから尽くせるんです。セッションが終わったら完璧に忘れます。今日、誰と何を話したかということは、30分後には全然覚えていないんです。だから、その人の存在に限定的にコミットするということです。背負いこまない。

「意図的に忘れるではなくて、自動的に忘れるのですか?」

そう。それは、意識状態が変わるからです。

例えば、ステージにいるときのパフォーマーとステージを降りたときのパフォーマーとでは全然感じが違うと思うんです。そして、ステージを降りたときに、ステージにいたときのことについて尋ねても、何も覚えてないことが結構あると思うんです。

完全に意識状態が変わっているからです。

「意識のモードが違うということでしょうか?」

そういうことです。

我々にできることは少ししかなくて、その人が生きるか死ぬか、幸福になるかならないかの責任は、結局負えないですから、限定的にコミットすることしかできないんです。逆に、それを引きずってしまう人は、ならない方がいい。

だから、完全にその人にコミットできるためには、逆に言えば、その人の人生はその人のものだと、どこかで割り切れる力が必要だと思います。

<編集後記>

心理学領域の中でも、最も難解と言われる「インテグラル理論」。

その研究・実践の第一人者である鈴木規夫先生にお会いできる
こととなって、かなり緊張して先生をお待ちしたのですが、
先生はフットワークも軽やかに、柔らかな笑顔で登場されました。

実に幅広いテーマを、軽快にテンポよく話される鈴木先生。

高い視点と鋭い分析に基づく深いお話に、
知的興奮をたっぷりと堪能させていただいた取材となりました。

「今の時代、心理学者がするべき仕事はたくさんあると思う」

そう語る鈴木先生からは、知性のきらめきとともに、
強い使命感と繊細な優しさを、深く感じさせていただきました。

鈴木 規夫(すずき のりお)  インテグラル・ジャパン(株)代表取締役

人間の心理的発達と能力開発の領域において10年以上にわたり研究と実践に取り組んでいる。
1972年東京生まれ。
2004年California Institute of Integral Studies(CIIS)でPh.D.を取得(East‐West Psychology)。
現在、インテグラル・ジャパン株式会社の代表取締役として、ケン・ウィルバーのインテグラル理論普及のための活動を展開している。
インテグラル研究所の創立メンバーでもある。

◆事業内容
 ・ ワークショップの提供「インテグラル・ライフ・プラクティス(ILP)」等
 ・ 勉強会の提供「インテグラル理論の学習・研究」等
 ・ コミュニティーの提供およびインテグラル理論の社会への応用等

<鈴木規夫先生のHP>
【INTEGRAL JAPAN インテグラル・ジャパン】
<鈴木規夫先生のブログ>
【IJ Staff Blog / Norio Suzuki】
<鈴木規夫先生の著書>
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インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論
cover
インテグラル理論入門IIウィルバーの世界論
<鈴木規夫先生の訳書>
cover
実践インテグラル・ライフ―自己成長の設計図

インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主催、NPO Oasis 代表
いろんな環境に自分を合わせて生きてきて、自分がなんだか分からない。
そんな、うつ病や心の悩みを抱えた方のお手伝いをしています。

心理カウンセラー、NLPセラピスト(ゲシュタルト、エリクソン催眠療法、
家族療法)、交流分析士1級、トランスパーソナル学会会員、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren

インタビュアー:村上友望(むらかみともみ)

村上友望

今は普通のOLをしながら、セラピストとして活躍できるよう勉強中です。
出会った方々の幸せな笑顔をサポート出来たらと思っています。

ヨーガセラピスト ソース公認ベーシックトレーナー
パステル和アートインストラクター ジュニア野菜ソムリエ
アロマテラピーアドバイザー キャンドルアーティスト
ブログ:http://ameblo.jp/ohisamakokoro/

インタビュアー:広江俊介(ひろえしゅんすけ)

広江俊介

心のボイスレッスン 代表
都内で声と言葉をテーマにしたメンタルセラピー、
ゴスペル音楽による発音・発声のレッスン、自己表現力の磨き方を
指導しております。

現在、一般のビジネスマン、OL、カウンセラー、セラピスト、教師、
コンサルタント、俳優、声優の方まで多岐に渡り、教えております。
プロボイストレーナー、プロギタリスト講師
ブログ:『心のエバーグリーン。』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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