第56回目(3/4) 鈴木 規夫 先生 インテグラル・ジャパン

盲点をカバーし、バランスを回復する方法論

インタビュー写真

「インテグラル理論を学ぶことで、個人としてはどんなメリットがありますか?」

誰にも今までに取組んできた何らかの道があると思います。例えば、自分は企業のマネージャーとして鍛錬をしてきたという具合にです。こうしたものはひとつのレンズといえますが、そこには漏れているものもあるはずなんです。

例えば、ふと気づくと、子供が非行に走っていたり、奥さんが浮気していたり。正しいことをしてきたはずなのに、何で人生に裏切られるのかと。つまり、それが彼のレンズに見えていなかったものです。インテグラル理論を学ぶことで、それをカバーすることができるようになります。

ひとつのレンズで成功すればするほど、逆に盲点が出てくるので、バランスを崩すことになるんです。バランスを回復するための方法としては、新たなレンズを付けたり外したりできる筋肉をつけることです。それによって、今まで見えなかったものが見えてくる。

人間には、どれほど頑張っても必ず盲点が出てくるので、盲点をカバーするための方法論、あるいは、バランスを回復する方法論、それがインテグラル理論です。

例えば、コーチングでは、クライアントに盲点に気づいてもらうために、「全く違った実践の場を作ってみましょう」と、武道の道場に行ってもらったりします。そうしたところでは、クライアントは会社の部長でなく、単なるひとりの人間です。そこで、クライアントは生身と生身でぶつかりあう方法を勉強するんです。

そうした場面に出てくる自分というのは、会社にいるときの自分と全く違うわけです。こうやって異なる自分との間を行ったり来たりして、大きく揺れ動く作業をするんです。これによって、初めて盲点に気づくようになるわけです。

だから、クライアントを治療しようとするのではなくて、クライアントの中に揺らぎを付けるメソッドなんです。目に張り付いたレンズは引っ張ろうとしても、なかなか外れないので、自然と外れるような場所を提供するわけです。


「組織や社会にとってのメリットはいかがですか?」

皆が専門領域のレンズに固執していれば、動くべきものも動かなくなる。それがリーダーであれば、彼が自分の思想に固まって身動きできなければ、彼だけでなく、彼の下にいる何千人の人が不幸になる。

その意味では、インテグラル理論というのは、非常に明確なエリート主義の理論なんです。つまり、ひたすらにコツコツとひとつのことをしていればいいという人には、必要ないのです。

ところが、様々な領域を行ったり来たりして、全ての領域の真実を理解した上で、なおかつそれらをとりまとめていく仕事をする企業の経営者やリーダーにとっては、インテグラル理論は必要不可欠です。

対話もできるし、戦うこともできるし、人を叱ることもできるし、優しく抱きしめることもできる。そのように、複数のレンズを通して世界と関係することができる。これができない人がリーダーだと、周りの人は不幸になるんです。

「どういう方に先生のセミナーに来てほしいですか?」

やはり、ひとつは何らかの専門を修めたうえで、だけど、これだけでは十分ではないような気がするという気づきを持ちはじめた方ですね。それ以外の方が来られても、腑に落ちないと思うんです。

現場で実際に何年か経験されたり、あるいはメソッドをきちんとひとつマスターされて、それは自信を持ってできるけれど、それだけでは解決できない問題がありそうな気がするという気づきが生まれはじめた方。

それはセラピストかもしれないし、企業のコーチかもしれないし、あるいは普通のマネージャーや生活者かもしれないけれど、インテグラルは、ひとつの道を歩んだことのある方のためのものです。

だから、まずはひとつのメソッドを習得して、それに基づいてしっかりした成果を上げておくべきです。同じメソッドを共有する同僚から見ても評価に値する、客観性を持つ成果を創出した経験が無いと、インテグラルをやっても意味が無いと思います。

「ワークショップやコーチングでも同じですか?」

それは企業人でも一緒ですね。例えば、販売部門は販売部門の思想があって、独自の評価の仕方があって、優れた人材とそうでない人材を見極めるための枠組みがある。それらをマスターして、初めてその有効性と盲点に気づけると思うんです。

それをまずやっておかないと意味がない。インテグラルは、専門を既にお持ちの方が、さらに自分のプロフェッショナルとしての成熟を深めていくための世界地図みたいなものです。


「世界地図を得るための学び?」

そうです。ウィルバーは自分の本の中で、「これをやっても人生の意味は見つからないし、儲からない」と言っているんです。

つまり、地図には日本とかアメリカとかが大まかに書いてありますけれど、それらはそれそのものとしては幸福になるための道を示してくれません。

ただ、地図があることで、自分が今実践している幸福になるための方法論がどこに位置づけられるのかを把握することはできる。そうすると、自分がそれを実践することで何を達成できるのかが分かります。

逆に言えば、自分に見えていないことがこれだけあるということが分かる。すると、自分の見えていない領域で活躍している人達の話に、耳を傾けることができるようになります。

例えば、僕は音楽は自分なりに分かるんですけれど、絵の素晴らしさが分からないんです。ということは、絵が分かる方の話が聞きたくなりますよね。多分、そういうことだと思います。

それから、先生を使い分けることができるようになります。先生というのはその領域で練達した人達ですから、これこそが最高のメソッドだと思って教室をやっているわけです。ところが、それは嘘なんです。




「最高ではない?」

最高ではないし、解決できない問題は山ほどあるんです。例えば、空手道場では、これさえやれば人生の最高の修行になると言うかもしれないけれど、それは嘘ですよね。メソッドによって、達成できることとできないことがある。

このメソッドを使ってもこれに関してはできないと、表立って言う人はいません。だから、僕らは自分の責任に基づいて、先生を使い分けできないと大きな失敗をすることになります。

坐禅というメソッドがありますね。座禅は精神修行において非常に優れた方法ですけれど、座禅をやることによって、カバーできないことが山ほどある。

そのひとつは、シャドー(影)の問題です。坐禅をやればやるほど、シャドーを対象化してしまうんです。つまり、シャドーは私ではなく、私が見ている対象物であるというふうに、距離を置くんです。

そうすると、坐禅をしている間は空になるからいいけれど、終わったら、切り離したものはまた戻ってきます。10年も座禅しているのに、シャドーの問題がずっと解決できないということになる。

ところが、西洋の心理学のシャドーワークでは、対象化するのではなく、このシャドーの中にどういう自分の本質が隠れているのだろうかと入っていく。そうすると、シャドーワークができて解決に向かうわけです。

坐禅の先生は、坐禅で悟りなさいと言うけれど、悟ってもシャドーの問題は山積みになっている人達はたくさんいるわけです。メソッドとは皆そんなものです。そのメソッドが起こしてしまいかねない問題について、完全に無視なんです。

だから、心理学とスピリチュアリティの融合、心理学とスポーツ心理学の融合、ヨガとサイコセラピーの関係、ヒプノセラピーと運動の関係、これらの全部が重要だと思うんです。そして、そこにはすごく可能性があると思います。

「ウィルバーの統合心理学とは何かを、教えていただけますか?

ウィルバーは「インテグラル・サイコロジー」と言っていますね。ひとことで言うと、先程の四領域を意識すること、そして、発達段階――人間が人生の間で通過していく一階、二階、三階というビルの階数みたいなものです――を認識すること。

他にもいくつかキーワードがあって、例えば、意識の状態というのがあります。人間は、朝起きて、夜寝て、夢を見て、夢を見ない様な深い状態に入って、また朝起きてと、一日の間にいろいろな状態を行ったり来たりするわけです。

起きている中でも落ち込んでいる状態とか、充実している状態とか、いろいろな状態を経験します。状態の変化に応じて、世界の見え方も変わってきます。感じられ方も違ってくる。だから意識の状態に着目するということ。

それからもうひとつ、発達のラインという考え方があります。多重知性や、最近流行っているEQ等、人間の人格の中には多様な能力があって、どれもが満点ということはなく、いろいろなアンバランスがありながら、発達していくわけです。

そのあたりのキーワードを考慮した上で人間や世界を見ていくのが、ウィルバーの統合心理学です。

「インテグラルは幅広い視野で世界を見る。学ぶ者には壁が大きいと感じますが?」

自分がどの段階にいても、四領域を網羅して考えることはできるんです。実は小学生でも四領域が使えるんです。

四領域の内実を完全にマスターしようとすれば、それこそ300年くらいかけないと無理だと思うんですが、四領域という地図は、意外と早い段階で自分の頭の片隅に置けるようになるんです。まずは、それだけで十分だと思います。

時間があったり、準備ができてきたら、十年後、二十年後、本格的に他の領域に足を伸ばしてみればいいと思うんです。だからそんなに大変なことではないんです。

四領域を網羅して考えることができるようになると、面白いことがあって、「この人はこの領域の専門家だけれど、この人はこっちのレンズから世界を見ている」という具合に、本屋さんに行くと区分けができます。

それから、発達の段階が見えてくると、「この人の発達段階はここだから、この発達段階から出てくる言葉や問題提起の仕方は大体こんなもの」というのが本を手に取るだけで分かります。

「四領域の中にそれぞれ発達段階があって、その両方が見えてくる?」

そういうことです。

今の日本では、4つ目の経済や政治の領域の中で活躍した人が、3つ目の領域にどんどん流れ込んでいるんです。企業経営者が突然教育に口を出したりするのは、4つ目の領域のチャンピオンになることで全ての領域を征服できるように思い込んでいるからです。

金儲けに成功した人が、全ての領域のチャンピオンになってしまうわけです。これを「特定領域の絶対化」と言います。お金が神様になっている我々の社会のアンバランスです。


「お勧めの本はありますか?」

ウィルバーの『実践 インテグラル・ライフ』(春秋社)。これは実際に日常生活の中で使うための本です。

ボディ、マインド、スピリット、シャドー、エシックス(倫理)の5つの領域を全部網羅した実践生活をすることで、非常に発達の速度が高まるということが書かれています。ボディは体、マインドは心・感情。スピリットは、ひらめき・霊感・インスピレーションです。

ひとつの道を追求するときでも、必ず複数の要素が絡み合うことになりますので、ひとつの領域だけにフォーカスするのではなく、全体を網羅しながら実践すると、すごく深まりが早まるのです。

坐禅だけでなく、たまには筋トレをやったり、マインドも鍛えたり。これを網羅的にやっていくと本当の意味で全人格的成長が可能になるということなんです。

「先生はスピリチュアリティを、どんな風に考えていらっしゃいますか?」

スピリチュアリティというのは、僕達の存在をそこから逃れられないようにギュッとつかんでいる何者かだと思います。それは必ずしも神様ではなくて、お金がスピリチュアリティの人もいると思います。

目の前に置けば見ることができるけれど、首の後ろにあるものは見えないでしょう。僕らはその見えないものにつかまれているんです。これが僕らにとっての神様だと思うんです。

ただ、不思議なもので、僕らはその神様を目の前に移動させることができて、その瞬間、それは神じゃなくなるんです。もしかしたら、首の後ろにあるものを目の前に置くことができるその力が、スピリットなのかもしれないですね。

「これでもない、いやこれでもないぞ」と、偽者の神様を偽者と認識できる力。これは、結構スピリチュアリティっぽくないですか。これがストップしてしまうと、いつの間にかお金が神様になったり、固定化したりしてしまうということです。

                 

(次回につづく・・)

鈴木 規夫(すずき のりお)  インテグラル・ジャパン(株)代表取締役

人間の心理的発達と能力開発の領域において10年以上にわたり研究と実践に取り組んでいる。
1972年東京生まれ。
2004年California Institute of Integral Studies(CIIS)でPh.D.を取得(East‐West Psychology)。
現在、インテグラル・ジャパン株式会社の代表取締役として、ケン・ウィルバーのインテグラル理論普及のための活動を展開している。
インテグラル研究所の創立メンバーでもある。

◆事業内容
 ・ ワークショップの提供「インテグラル・ライフ・プラクティス(ILP)」等
 ・ 勉強会の提供「インテグラル理論の学習・研究」等
 ・ コミュニティーの提供およびインテグラル理論の社会への応用等

<鈴木規夫先生のHP>
【INTEGRAL JAPAN インテグラル・ジャパン】
<鈴木規夫先生のブログ>
【IJ Staff Blog / Norio Suzuki】
<鈴木規夫先生の著書>
cover
インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論
cover
インテグラル理論入門IIウィルバーの世界論
<鈴木規夫先生の訳書>
cover
実践インテグラル・ライフ―自己成長の設計図

インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主催、NPO Oasis 代表
いろんな環境に自分を合わせて生きてきて、自分がなんだか分からない。
そんな、うつ病や心の悩みを抱えた方のお手伝いをしています。

心理カウンセラー、NLPセラピスト(ゲシュタルト、エリクソン催眠療法、
家族療法)、交流分析士1級、トランスパーソナル学会会員、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren

インタビュアー:村上友望(むらかみともみ)

村上友望

今は普通のOLをしながら、セラピストとして活躍できるよう勉強中です。
出会った方々の幸せな笑顔をサポート出来たらと思っています。

ヨーガセラピスト ソース公認ベーシックトレーナー
パステル和アートインストラクター ジュニア野菜ソムリエ
アロマテラピーアドバイザー キャンドルアーティスト
ブログ:http://ameblo.jp/ohisamakokoro/

インタビュアー:広江俊介(ひろえしゅんすけ)

広江俊介

心のボイスレッスン 代表
都内で声と言葉をテーマにしたメンタルセラピー、
ゴスペル音楽による発音・発声のレッスン、自己表現力の磨き方を
指導しております。

現在、一般のビジネスマン、OL、カウンセラー、セラピスト、教師、
コンサルタント、俳優、声優の方まで多岐に渡り、教えております。
プロボイストレーナー、プロギタリスト講師
ブログ:『心のエバーグリーン。』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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