第56回目(2/4) 鈴木 規夫 先生 インテグラル・ジャパン

インテグラル理論の四領域とは

インタビュー写真

「ウィルバーのインテグラル理論を易しく説明していただけますか?」

ウィルバーのインテグラル理論というのは、ひとことでいうと、「あれもこれも統合しましょう」、あるいは、「あれもこれも考えましょう」という理論です。

あれかこれかを選ぶのではなく、また、単純にあれもこれも寄せ集めにするのでもなく、それぞれの理論やシステムの間にある関係を見極めて、お互いの間を仲人してあげる力が非常に重要なのです。

クライアントが来たときに、こちらに「ナイフ」しかないと、全て切るものに見えてしまいます。でも、ナイフの他に、ハンマーもドライバーもあれば、クライアントに応じて道具を使い分けることができます。

あれかこれかではなくて、まず全体を見た上で、関係のないように見えているものの間にある関係を見極めて、橋渡しをする。そのためのフレームワークのことを「インテグラル理論」と言うんです。

もう少し分かりやすい言葉で言うと、「メタフレーム」「メタシステム」です。

フロイト派というシステムがあり、ヒプノセラピーというシステムがあり、それぞれ完結している。メタシステムというのは、そのようにたくさんあるシステムを整理することのできる、大きな風呂敷みたいなものです。

「複数のシステムを乗せるメタシステムですか?」

これが有る無しで、実務家として、理論家として、機動力をもって柔軟に動けるか動けないかという点で、随分大きな違いが出てきます。

人間の意識を探求するための方法としては、西洋の心理学だけでなく、東洋にも中東にもいろいろなシステムがあります。キリスト教の神秘主義があったり、坐禅があったり、仏教があったり、スーフィズムがあったり。ウィルバーは、それらを全部調査したうえで、それらの関係を整理したんです。

治療プランを作るときに、まず統合的な視点からアセスメントをして、このクライアントのこの治療段階においては、どのメソッドを組み合わせて複合的にアプローチできるかという考え方を示したんです。

また、ウィルバーは、我々が肉眼で観察することのできる脳生理等の外面に着目しました。例えば、怒りを感じているとき、同時並行的に脳の中で化学反応が起きています。この外面と内面とを関係させる、ウィルバーはこれをやりました。

そして、個人は、時代や社会や文明の中で生きているので、その時代がもっている価値観や世界観、そして、空気や社会が要求するもの――それらと心の関係。それから、エコシステム、政治システム、経済システム等の集合的なシステムと個人の関係。これ全部で4つの領域になります。

「4つの領域に分かれるのですね?」

「四領域」とか「四象限」とかいう言い方をしますが、とりあえず、世界はこの4つの領域から眺めることができる。まず、それらを踏まえた上で、4つの側面から状況把握をして、インターベンション(介入)の方法を考えるのが効果的なのです。

「先生の言葉で、4つの領域を易しく説明していただくとどうなりますか?」

1つめは個人の内面。目を閉じたときに心の中に感じられる感覚、直感、思い、情熱、夢、希望、これら全部がそうです。これは周りの人には見えない。世界でそれを見ているのは皆さんただひとりだけです。

2つめは個人の外面。皆さんの姿を鏡に映したときに見えている全てがそうです。表情、姿勢、行動もそうです。それから量で計れるもの。遅刻をしていないかだとか、売上成績がどれくらいかということもそうです。これも重要なリアリティです。

3つ目は、集団の内面の領域。その場に流れている空気、価値観、雰囲気、その場がもっている独特の磁場。部屋に入ると「皆、緊張しているな」「緊張した議論が行われていたんだな」といった雰囲気が残っている。その雰囲気。

共同体で共有されている価値観や言語の文法もそうです。どこにも書いていないけれど、皆が共有しているもの。それをベースにしてコミュニケーションをしている。皆が当然のこととして共有している価値観、思い、歴史など。

仲間意識とかもそうです。人と人とをつなげる見えない絆と言えるかもしれない。

4つ目は、目で見ることのできる共有のインフラシステムということです。例えば、建物とか経済システムなど。

インテグラル理論で主張しているのは、「4つのどの領域も見ましょう」ということです。




「心理学でいう折衷主義とインテグラル理論とは別物なのでしょうか?」

別物です。折衷主義の問題点として、何と何を組み合わせるかは実践者に任されているところがあります。

つまり、それまでの経歴の中でたまたま出会ったのが10のメソッドで、この10のメソッドを折衷主義的に組み合わせて使ってみたとします。これはいろいろ組み合わせているように見えるけれど、世界の領域のある限定的な部分に対応するための方法を10個組み合わせているだけなのかもしれない。他の領域に関しては、全然視野に入っていないわけです。

どれだけの幅広い領域があるのかをまず最初に見回すことなく、たまたまつまみ食い的に自分が出会ったものを折衷主義的に結び合わせるというのは、無責任だと思いませんか。

もちろん、自分がどうあがいても対応できない領域もあると思います。そうしたら、そこはその領域の専門家に任せたらいいわけですが、本人は折衷主義で何でもできると思っているから、逆に非常に扱いづらいんです。

「適正なリファー(紹介)ができない、ということですか?」

そうです。インテグラルというのはどちらかと言うと、町医者になるようなものです。できないことが一杯あるわけです。自分の道具箱の中に無いものがあれば、そのための方法に習熟している専門家にクライアントを紹介することになるわけです。

しかしそれは、他者の協力を得ることで、幅広いスペクトラムを行き来できるということでもあるのです。

他の方法を使わないと解決できない問題というものがあるわけです。そのことを認識するためには、ある特定の方法論を特権化してしまうことがもたらす盲点を意識しないといけないのです。

例えば、警察官が、被疑者を制圧するときになぜ柔道を使うのか。それは、柔道というのが相手に致命傷を与える確率が非常に低いものだからです。制圧術としては非常に優れているのです。でも、それは現代の戦場では役に立たない。状況に応じて、メソッドが有効になるときと、逆にそれにこだわるために被害が大きくなるときがある。

心理学でも一緒です。ある特定のメソッドを絶対化して、それで全てが解決できると思い込むと、どこかで必ず足を引っ張られます。学問もそうですし、人間が作り出したあらゆる問題解決方法は、必ずプラスとマイナスがあるんです。

「必ず盲点が生まれてくるのですね?」

そうです。ウィルバーが言っているのは何も特殊なことではなくて、「ひとつのメソッドに通ずれば通ずるほど、そこに盲点が生まれてくる可能性があるので、それを相補う形で使うことが、現代において必要とされる知恵のあり方です」ということなんです。

理論やメソッドというのはレンズみたいなものです。あるレンズを掛けると、ある特定の見え方ができる。顕微鏡の倍率みたいなものです。倍率を入れ替えると違った光景が見えます。その倍率が適切なときと、違った倍率を使わないといけないときがあるのです。

我々にとって、理論やメソッドや思想というのはレンズみたいなものです。あるレンズを掛けるとある特定の見方で世界が見える。と同時に他のレンズを掛けたときに可能となる見方ができなくなる。

レンズは目そのものではないのですが、どうしてもレンズが目に張り付いて外せなくなってしまうんです。ウィルバーは「状況に応じて、付けたり外したり、適切なレンズを用いる練習をしましょう」と言っているのです。

フロイト派のレンズを付けてアプローチすべきときもあるし、ユング派のレンズを付けるべきときもあるということです。

「日本に帰られてすぐに、このお仕事を始められたのですか?

チャド・スチュワアートさんという方が人材育成の会社をやっていて、彼のパートナーになって、車会社と製薬会社でそういう作業を何年かしました。すぐに仕事が始められたのは、たまたま運が良かったんです。

そうした企業で従業員の方々が直面する課題としては、例えば、突然、海外の競合他社と吸収・合併することになるというようなものがあります。

今日から突然、上司がフランス人かもしれないし、部下はドイツ人かもしれない。そうすると今までのやり方では通用しない。人材をとりまとめていくための、全く違った発想が必要になったりするんです。

形態はコーチングとワークショップです。いわゆる「セミナー」(講義)といわれるものはほとんどしなかったですね。会社のワークショップに参加されるのは、マネージャーやジェネラル・マネージャーかその上の人達です。彼らはレクチャーなんて興味はない。今ある問題の解決に興味があるんです。だから、レクチャーは5分くらいにして、1日かけて状況分析をして戦略を練るんです。

一般的には、あまり発達段階の高くない人は、どうしても自分が直接に所属する部門の視点から発想をしてしまいます。また、非常に短期的なタイムスコープを設定して、そこから全てについて考えてしまったりする。

だから、意識のスコープを広げるための作業を一緒にしていくわけです。定期的にお会いしてワークを一緒にすることによって、スコープを広げる、意識の筋肉を広げる練習をするわけです。

「そのお仕事を始められたとき、戸惑われたことなどはありますか?」

一番大きな問題は、年齢差ですね。僕は1972年生まれですが、1972年に入社した人達が生徒なんです。当然、そうした年齢差というのは、大きな障壁となります。

でも、ワークショップが終わったときに、相手に何かを貢献することができていれば、勝ちなんです。「参加して少しでも意味があった」と思わせれば勝ちですから、年齢は関係ない。実力勝負です。

そういう意味では、提供しているものが、役に立つか立たないかだけが勝負なんです。セラピーでもそうですよね。結局、クライアントに「来て良かった」と言わせればいいわけです。それには成功体験を積んでいくしかない。

ウィルバーは「成長には2種類ある」と言うんですね。ひとつには、同じ発達段階にいながら、その器にたくさんの知識や経験を貯め込むことによって人格を深めるという水平方向の成長があります。

もうひとつは、より高いOSに造り替えていくという垂直方向の成長があります。たくさんの人生経験を積まれている方は、水平方向の成長はしているんです。50年生きれば50年分の経験があるわけです。

水平的な成長だけでは、年齢の差はなかなか超えにくいものがあります。でも、垂直方向なら、そうした年齢的なハンデは超えられます。僕らは垂直的な高さを自分の軸にして、彼らと対話や作業をするわけですから、彼らの年齢や経験等はそれほど関係ないんです。

                 

(次回につづく・・)

鈴木 規夫(すずき のりお)  インテグラル・ジャパン(株)代表取締役

人間の心理的発達と能力開発の領域において10年以上にわたり研究と実践に取り組んでいる。
1972年東京生まれ。
2004年California Institute of Integral Studies(CIIS)でPh.D.を取得(East‐West Psychology)。
現在、インテグラル・ジャパン株式会社の代表取締役として、ケン・ウィルバーのインテグラル理論普及のための活動を展開している。
インテグラル研究所の創立メンバーでもある。

◆事業内容
 ・ ワークショップの提供「インテグラル・ライフ・プラクティス(ILP)」等
 ・ 勉強会の提供「インテグラル理論の学習・研究」等
 ・ コミュニティーの提供およびインテグラル理論の社会への応用等

<鈴木規夫先生のHP>
【INTEGRAL JAPAN インテグラル・ジャパン】
<鈴木規夫先生のブログ>
【IJ Staff Blog / Norio Suzuki】
<鈴木規夫先生の著書>
cover
インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論
cover
インテグラル理論入門IIウィルバーの世界論
<鈴木規夫先生の訳書>
cover
実践インテグラル・ライフ―自己成長の設計図

インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主催、NPO Oasis 代表
いろんな環境に自分を合わせて生きてきて、自分がなんだか分からない。
そんな、うつ病や心の悩みを抱えた方のお手伝いをしています。

心理カウンセラー、NLPセラピスト(ゲシュタルト、エリクソン催眠療法、
家族療法)、交流分析士1級、トランスパーソナル学会会員、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren

インタビュアー:村上友望(むらかみともみ)

村上友望

今は普通のOLをしながら、セラピストとして活躍できるよう勉強中です。
出会った方々の幸せな笑顔をサポート出来たらと思っています。

ヨーガセラピスト ソース公認ベーシックトレーナー
パステル和アートインストラクター ジュニア野菜ソムリエ
アロマテラピーアドバイザー キャンドルアーティスト
ブログ:http://ameblo.jp/ohisamakokoro/

インタビュアー:広江俊介(ひろえしゅんすけ)

広江俊介

心のボイスレッスン 代表
都内で声と言葉をテーマにしたメンタルセラピー、
ゴスペル音楽による発音・発声のレッスン、自己表現力の磨き方を
指導しております。

現在、一般のビジネスマン、OL、カウンセラー、セラピスト、教師、
コンサルタント、俳優、声優の方まで多岐に渡り、教えております。
プロボイストレーナー、プロギタリスト講師
ブログ:『心のエバーグリーン。』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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