第56回目(1/4) 鈴木 規夫 先生 インテグラル・ジャパン

多様なものを統合していく、インテグラル理論に出逢った衝撃

今回のインタビューは、ケン・ウィルバーの「インテグラル理論」、
「インテグラル心理学」研究・実践の第一人者としてご活躍の、
インテグラル・ジャパン代表取締役の鈴木規夫先生です。

インテグラル研究所の創立メンバーでもいらっしゃいます。

多様な専門領域を相互に結びつけるための枠組を提示する
「インテグラル理論」。

10年以上にわたり、人間の心理的発達と能力開発の領域の
研究と実践に取り組んでこられた鈴木規夫先生に
難解と言われる「インテグラル理論」の魅力や効果・必要性などを、
解りやすくお話いただきました。

インタビュー写真

「先生は小さいときはどんなお子さんでしたか?」

体が弱かったので体操競技をやっていました。合計すると6〜7年しましたが、初めのうちはできなかった技が、何年後かに、ある日、突然できるようになるんです。突然に筋肉がついたわけでもないのに、できなかったものができるようになる。そういう不思議な瞬間を何度も経験しました。

こういう経験を重ねる中で、「これは何なのだろう」と思うようになりました。何かを理解するとか、人間が変化するとか、成長するとかいうことについて、素朴な疑問を抱くようになったのです。そういう経験が今の土台になっているかもしれません。

コツコツと練習を重ねないと、そこまでいけないものというのが、世界にはあります。何をやってもどうしようもなかったものが、数年後、気づくと突破できている。

短期的な努力や情熱だけでは手にできないものが、人間の変化の中にはあると思うんです。長い時間の中でコツコツと蓄積されていくものが、突然、何かにつながる感じでしょうか。

体験とか感覚とか情熱とか発見とか気分とかでは捉えられないものが人間にはあって、長い時間枠の中で、それが徐々に変化していく。心理学は、そういうものに着目する学問でもあるわけで、そこが面白いところでもあります。

「心理学に興味を持ち始めたのは、いつ頃からですか?」

高校時代ですね。高校生の頃というのは、大きくアイデンティティが変わります。自我が変容する時期ですね。悩んだときに、救いを求めたのが心理学だったんです。

10代というのは、与えられた知識というものが意外と役に立たないものであることが分かる時期だといえます。誰かに与えられた言葉を自分の答えとすることに釈然としないものを感じる。だから悩むことを覚える、そういう時期だと思うんです。

それが10年くらい続きました。大学からアメリカに行ったんですけれど、5年くらいウツになりました。よく自殺しなかったと思います。そういう時期に、たまたま心理学的に考えるということの基盤を作ったのかなとも思います。

「大学では心理学を専攻されたのですか?」

アメリカの大学は、3年生になるまで専攻を決めなくていいんです。悩みの只中にいる青年期の人間に専攻を決めろというのは、難しいことです。僕は決められなかった人間なので、決めるのを先延ばしにするために海外に行ったところもあるんです。

もともとは政治学と心理学の両方をやりたかったのですが、能力的に追いつかなかったので、心理学にしました。

「最初はどんな系統の心理学を学ばれたのですか?」

僕のついた先生がたまたまシカゴ大学で宗教心理学を勉強された方だったんです。日本では「宗教」という言葉は怪しいものに聞こえますけれど、向こうはキリスト教どっぷりの文化ですから、宗教学と心理学の交差点に関する研究がたくさんなされています。

人間は何かを信じて生きていますが、この信じるということについて研究をするのが宗教学であるわけです。そして、それは心理学の関心そのものでもあります。

人間が何かに意味を見出すということ。そして、絶望の中で何かに救済されるという経験。こうしたものは宗教学のテーマであり、心理学のテーマでもあります。

大学では、人間が意味というものを見つけていく中でどう変化していくのかを勉強させてもらいました。それで、こんなに面白いんだったら続けてみようと思ったわけです。

「ケン・ウィルバーのインテグラル理論に出逢われた経緯は?」

実は、大学の3〜4年生になって、もう帰国しようかと考えていた時期があったんです。

海外での生活は、コンピュータでいうとOSをもうひとつ新たに作りなおして、それにもとづいて思考するというような感じなんです。

僕らは日本語のOSを使っているから、こうしてテキパキと情報処理ができますけれど、新しい英語のOSで思考しようとすると、どうしても動きがのろくなります。

どれだけ頑張っても、ネイティブの平均レベルの学生に及ばないことがたくさんあるんです。それで帰国しようかと思っていたんです。そのときに夏休みを利用して本を読んでいたら、ケン・ウィルバーに出逢ったのです。

「ケン・ウィルバーのどんなところに魅かれたのでしょうか?」

心理学、政治学、文学、脳生理学、エコロジーとか……世界にはいろいろな学問があって、どれも面白い。そうしたものを捨てることなく、全てを楽しむための思想――これがウィルバーの思想の魅力です。

ウィルバーは大学院では生化学を専攻しましたが、その後、心理学や宗教学などをはじめとして、世界に存在する膨大な学問を修めて、それらを統合的にまとめました。
実は、今日、そのような統合的な考え方が求められていて、誰もがそれをしたいと思っているのだけれど、社会的な支援体制が整備されていないので、どうしてもひとつの専門領域を選んで、それで生計を立てていくことになります。

皆、プロとしての自分のアイデンディティを確立することを要求されるとき、特定の専門領域を選択して、それで生活をしているわけです。ところが、同時にそれではダメだということにも気づいているわけです。

会社員になれば、「僕はエンジニアですから、エンジニアリング以外のことは知りません」とは言えないわけです。クライアントとの交渉、部下のコーチング、プロジェクト・マネジメントもしなければいけない。

製品がデザイン上、顧客の嗜好に合うのかとか、ビジネス活動が社会のためになるのかというCSRの視点など。これはエンジニアとしてのアイデンティティにしがみついていたら、できないわけです。

今、我々はそういう時代に生きています。その中でいろいろなものを橋渡しするだけではなく、それらをまとめ上げていく力が必要とされているということを、皆、薄々感じ始めているのです。

そうしたところに、「多様なものをまとめることは可能であるし、また、そのための学問は存在し得る。そして、そういう志向や行動の仕方こそが、これから求められてくるのだ」ということを具体的に示してくれたのがウィルバーなんです。

日本に帰ってきてもウィルバーのことは学べませんから、サン・フランシスコにそれについて学べる学校があったので、そこに行って修士号と博士号を取りました。




「最初にケン・ウィルバーの著書や研究に触れられたときの印象はいかがでしたか?」

雷に打たれたような感じでした。「これしかないな」という感じです。こういう体験をする人は、意外と多いんですよ。

でも、ほとんどの人には、結局のところ、ウィルバーのように、統合への欲求をひとつの形にまとめあげるだけの実力がないわけです。それをああしてできあがった形で提示されたのは、驚きでした。これだけやられたら、自分でやるべきものが何もないという感じです。

そういう意味では、僕も新しく理論構築をするということはできませんが、別次元の人間がこういう仕事をしてくれていると、自分のすべきことをわきまえることができます。もう既に大きな仕事をしてもらえているので、安心して自分のできることに集中できるわけです。

ただ、それなりに実力のある人の場合には、ウィルバーに実力的に負けることを認めることは、絶対に嫌だということもあります。実際、ウィルバーに対する反発心を糧にして、彼と論戦をするために懸命に勉強している人もたくさんいます(笑)。

まあ、僕自身はそれだけの能力がなかったので、「自分のできることは何か?」ということを考えて、それをやりました。

「ご自分ができること、方向性としてはどんな展望を持たれたのですか?」

興味があったのは発達心理学で、人間が発達していくこと、成長していくことに興味がありました。

ウィルバーは「我々は一生の間に変化をしたり、成長を遂げたりする。いろいろなステージを経て人格が成熟していくけれど、そこにはいくつかの核となる法則がある」と言っています。

人間が健全に生きていけるために一番大切なもの――我々の存在を根本的なところで支えてくれているもの――を、ウィルバーは「私」がここに確実に存在しているという感覚だと述べています。

ところが、自分がここに確実に存在しているという感覚は、意外とあいまいとしたものです。漠然としたものなので、どうしても不安になります。

例えば、病気の宣告を受けたとき、すごく不安になりますね。つまり、ここに揺るぎない存在として、充実した存在として確実に存在しているという感覚というのは、意外と脆いものなんです。

ウィルバーは、「確実に存在しているという実在感を確かめるために、僕らはいろいろなものを獲得しようと、毎日もがいている」と言っています。「1000万円稼げれば安泰だ」とか「マイホームさえあれば……」とか「恋人さえいれば……」とか。でもそれはおかしいんです。

僕らは死ぬとき、それらのものを手放して死んでいくわけです。丸裸になって、お金も一銭も持っていけない。ところが、それらを一生懸命貯め込むことによって、自分は安泰で、少なくとも今日は不幸に見舞われることなく、幸せに生きていけると思っているわけです。

経済学の法則のひとつに、こんなものがあります。ピザは、1枚目は美味しいけど、2枚目からだんだん美味しくなくなる。形あるものは、貯め込もうと思ってもなかなか貯め込めないんです。すぐ満腹になってしまう。

でも、お金は1枚目も美味しいけれど、2枚目も3枚目も美味しいわけです。お金は、モノではなくてシンボルだからですね。シンボルというのは、記号として貯め込むことができるわけです。

「お金はシンボルなのですね?」

そうです。そうすると僕らはシンボルに対して、依存症になるわけです。お金依存症です。シンボルが「神」になっているわけです。僕らはそうやって「嘘の神様を作り上げて、それに支配されて生きている」というのがウィルバーの主張なんです。

実存主義心理学などでも、そういうことを言っています。ヴィクトール・フランクルも、「所詮、戦争になれば丸裸にされてひとりの素の人間なる」と言っているし、エイブラハム・マズローも同様のことを言っている。

結局どんなに素晴らしい「神秘体験」をしたり、「自己実現」をしたりしても、そんなものは「始まり」があって「終わり」がある刹那的なエクスタシーの体験です。それらはいずれは過去のものとなり消えていく。

僕らはそういうものに依存しながら、一生をあくせく生きているわけです。ウィルバーは、「究極的には人間はそういう病を持っている」と言っています。

「その病とは?」

どんなに人格的に立派な人でも自分の名前を残すことに固執しているし、芸術家は「この作品は、人類の遺産として永遠に継承されていく」ということを夢見て作業をしている。でも、これには無理がありますよね? 地球もいつかはなくなるわけですから。
「僕らは嘘のものにしがみつきながら、何とかして自分の幸せや精神的な安定を維持しようとする生き物なんだ」とウィルバーは言うんです。ところが、人間は成長していく中で徐々に抽象性の高いものに依存することができるようになるんです。

最初は美味しいものを食べるとか、マイホームを持つとか、刹那的・具体的なものに依存しがちなんですけれど、成長していくと、もう少し抽象的なもの、例えば、愛とか友情とか芸術的に生きることだとかに価値を見出すことができるようになる。

そうなると、今は大変かもしれないけれど、10年後に人々の役に立つような何かを生み出すためにコツコツと作業をすることができたりするようになるんです。あるいはお金にならなくても、目に見えない形で誰かのためになるような仕事ができたりするわけです。

そうやって「自己中心性が減少していくことが成長のプロセスなのだ」とウィルバーは言うんです。究極的なところでは幻想にしがみついているのは事実だけれど、だからといって人間の営みがことごとく嘘かといえば、そうではない。どれもそれなりに意味があり、貴重で、価値がある。

そして、ウィルバーは「人間は、究極的には何かにすがりながら、夢を見て生きざるをえないけれど、夢の質を変えることはできる」と言うんです。

「夢の質を変える?」

より自己中心性の少ない夢を見ることによって、僕らは同時代に生きる友人・知人、あるいは、直接にはお会いしないかもしれないけれど、仕事を通してつながれるような人々のために仕事ができたりするわけです。

発達心理学的にいうと、愛情の輪が拡がっていく。自己中心性が小さくなっていくということは、「自己」のアイデンティティの輪の中に容れることのできる他者の数が増えていくということです。これが発達のプロセスなんです。

現代においては、会社のためだけの仕事ではなくて、クライアントのためにもなる、あるいは、次世代のためにもなる、そんなふうに時空間を超えて他者のためになる仕事したいと思う人が増えています。

それは単純に1冊の本を読めばできるようになるようなことではなくて、意識の器そのものを変えていかないとできないことです。発達のプロセスを通して、器を大きくしていく。

「ウィルバーの研究の特長は何でしょう?」

心理学の勉強をしていくと、いろいろな理論家がいて、いろいろなことを主張しているということに気づきます。

ウィルバーは「世界には無数の学派があり、それらは、人間が癒されたり、成長したり、成熟したりしていくプロセスについて、独自の視点で理論化したり、実践の方法を提示したりしている。では、それらの深層にある共通事項とは何だろうか?」と考えます。

それらの心理学を全部読みこなした上で、一歩下がって「これは同じことを言っているのではないか?」と考えるわけです。

ウィルバーは、「これらは、どれも自己中心性が減少していくプロセス、あるいは、愛が拡がっていくプロセス、自分のアイデンティティの中に含まれる他者の数が増えていくプロセスについて語っている」と言うんです。ウィルバーのこうしたところに、僕は特に魅かれます。

企業でコーチングをしていても、意外と皆さんそこで格闘しているわけです。皆、部門を代表して会議に出てくるけれど、部門の利害だけを重視して会議に参加していては対話にならない。全体を見渡して、全体のために貢献できる人間が求められている。

しかもプロジェクトは何年も続くわけです。今さえ良ければいいのではなくて、空間的にも時間的にも長いスコープにもとづいて、業務プロセスに参加できる人がいなければ困るわけです。

このように、日常の現場の中で、わたしたちは自己中心性を小さくする修業をいつもしているわけです。これは週末のワークショップに参加して、プロジェクト・マネジメントの手法を学んだりしてもできるようになるものではない。

コンピュータでいえば、OSの中にたくさんソフトウェアを詰め込んでも、ただ動作が鈍くなるだけで使いものにならない。器を大きくしていく、人格を発達させていくというのは、OSをヴァージョン・アップするということなんです。

(次回につづく・・)

鈴木 規夫(すずき のりお)  インテグラル・ジャパン(株)代表取締役

人間の心理的発達と能力開発の領域において10年以上にわたり研究と実践に取り組んでいる。
1972年東京生まれ。
2004年California Institute of Integral Studies(CIIS)でPh.D.を取得(East‐West Psychology)。
現在、インテグラル・ジャパン株式会社の代表取締役として、ケン・ウィルバーのインテグラル理論普及のための活動を展開している。
インテグラル研究所の創立メンバーでもある。

◆事業内容
 ・ ワークショップの提供「インテグラル・ライフ・プラクティス(ILP)」等
 ・ 勉強会の提供「インテグラル理論の学習・研究」等
 ・ コミュニティーの提供およびインテグラル理論の社会への応用等

<鈴木規夫先生のHP>
【INTEGRAL JAPAN インテグラル・ジャパン】
<鈴木規夫先生のブログ>
【IJ Staff Blog / Norio Suzuki】
<鈴木規夫先生の著書>
cover
インテグラル理論入門I ウィルバーの意識論
cover
インテグラル理論入門IIウィルバーの世界論
<鈴木規夫先生の訳書>
cover
実践インテグラル・ライフ―自己成長の設計図

インタビュアー:鈴木明美(すずきあけみ)

鈴木明美

セラピールームChildren主催、NPO Oasis 代表
いろんな環境に自分を合わせて生きてきて、自分がなんだか分からない。
そんな、うつ病や心の悩みを抱えた方のお手伝いをしています。

心理カウンセラー、NLPセラピスト(ゲシュタルト、エリクソン催眠療法、
家族療法)、交流分析士1級、トランスパーソナル学会会員、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren

インタビュアー:村上友望(むらかみともみ)

村上友望

今は普通のOLをしながら、セラピストとして活躍できるよう勉強中です。
出会った方々の幸せな笑顔をサポート出来たらと思っています。

ヨーガセラピスト ソース公認ベーシックトレーナー
パステル和アートインストラクター ジュニア野菜ソムリエ
アロマテラピーアドバイザー キャンドルアーティスト
ブログ:http://ameblo.jp/ohisamakokoro/

インタビュアー:広江俊介(ひろえしゅんすけ)

広江俊介

心のボイスレッスン 代表
都内で声と言葉をテーマにしたメンタルセラピー、
ゴスペル音楽による発音・発声のレッスン、自己表現力の磨き方を
指導しております。

現在、一般のビジネスマン、OL、カウンセラー、セラピスト、教師、
コンサルタント、俳優、声優の方まで多岐に渡り、教えております。
プロボイストレーナー、プロギタリスト講師
ブログ:『心のエバーグリーン。』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
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