第52回目(3/4) 百武 正嗣 さん ゲシュタルトネットワークジャパン

ゲシュタルト療法にフェルデンクライス・メソッドを取り入れて

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「ゲシュタルトには、『今、ここ』という考え方がありますよね?」

「今、ここ」というのは、ゲシュタルトのもう1つの特徴です。気づくことができる世界は「今、ここ」なんです。

思考だけが過去を思い出すことができますが、それは「今、ここ」ではなく、過去の出来事です。なぜ、「今、ここ」に焦点を当てるかというと、ゲシュタルトでは「未完了」という言葉があります。終わっていないことですね。「未完了」なものは、過去のものではなくて、生き続けます。

例えば、小さい時に、誰かに教室でいじめられて、すごく嫌な体験をして傷ついたとします。ある人はそのことに囚われて、それ以来、人が嫌いになったり、人に近づかないようにしている。

また、ある人は同じ体験があったとしても友達をいっぱい作っている。そういう体験があったとしても、友達を作って自由でいる。1つの体験、経験として乗り越えている人は、そのことが未完了ではないのです。

そのことに、十分に触れることができなかった、あるいは十分に表現できなかった場合は、それが未完了な感覚として自分の中に残ってしまうんですね。そうすると、理由はわからないけれど、人が沢山いる所だと、いつも緊張してしまうとかなってしまう。

十年前とか二十年前のことなので、本人の意識にはのぼっていないのです。でも、沢山の人の前にいくと、必要以上に緊張しているとしたら、それは未完了な何かが動いているわけなんです。「今、ここ」で。

ある特定の上司が怖いとかいうのは、その人が怖いのではなくて、もしかしたら自分の中である経験がまだ処理されていないのではないか、未完了なものが関係していてそれが引き出されると、ゲシュタルトでは取ります。

「どうすれば、それが解消するのでしょう?」

ゲシュタルトでは、過去の原因を分析しません。する必要がないのです。

「今、ここ」で自分に何が起きているかということに意識を向けていけば、未完了なものは「今、ここ」で未完了だとサインを出してくれています。その未完了なことに意識を向けていくと、ある場面のイメージが出てくることが多いのですね。

ですから、分析しなくても、ぱっと小学校の時にいじめられた場面が出てきたり、突然押入れに入れられてお父さんから怒られた場面とかが、必然的に出てきたりします。ちょうどそれは、体が解決したいって言っているサインでもあるわけです。

その時に、「今、ここ」で未完了なことを、安全な場所、安全な人間関係で、もう一度表現することで、初めてそれは済んだことだと納得できるのです。消化できる、囚われなくなる、楽になるということです。

「未完了なものは、どなたも持っているのでしょうか?」

みんな持っています。未完了なものを持っていない人はいません。気がついていればいい。気がつかなければ、そのことを「なんでだろう?」と思ってしまう。

でも気がついていれば、それを表現してもいいし、しなくてもいいということです。気がついていれば、自分がどうしたらいいかというのを自分で決めることができます。気がつかないと選択ができません。

「選択するというのはどういうことですか?」

例えば、いつもイライラするとします。理由がわからないけど、イライラする。部下に当たったり、家族に当たったり、友達に突然切れたり。

突然、怒りが表現されてしまうことには気がついているけれど、元々の未完了なものがあることに気がつかなければ、ただ怒りの感情が上がってくるということにしか気がつかないですよね。

その怒りの、「本当の未完了な怒り」は何かということに気がつけば、怒りを出すか出さないか、選択できるようになります。今、目の前にいる人に怒っているわけではないことに気がつくことができます。

気がつかなければ、目の前にいる人に怒ってイライラしていると感じてしまうかもしれない。

「ゲシュタルト療法の面白いところというのはどんなことですか?」

病理的なことだけじゃなくて、健康な人には、実はゲシュタルト療法が非常に役に立つ。健康な人間ほど、創造的な気づきがあります。

仕事だったら自分がどういう仕事をしたいかというのに気がつくことができる。芸術だったら自分がどういうことに興味があるのかということに気がついていくこともできる。今自分が求めているものは何だろうってことに気がついていくことができる。

人間関係だったら、自分がどういう人間関係を築きたいのかということにも気がつくことができる。ですから、気づきというのは、むしろ健康な領域の方が大きいのです

「いろいろ応用できるのですね?」

いろんなことに活用できます。仕事の人間関係、家族の人間関係にも活用できるし、個人的な自分の体や病気、症状と対話するということもできます。それによって、症状が緩和されたりということが起きます。

頭痛に悩まされている人が頭痛がなくなるとか、腰が痛い人が痛みがなくなるとか。体が表現している何かに気がついていくことで、表現していた症状が消えてしまう。別の表現をすると、症状は、何か必要があって、体が表現している自分の気がついてない部分である、ということです。

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「百武さんは、フェルデンクライス・メソッドもやっていらっしゃいますね?」

はい。フェルデンクライス・メソッドというのは、フェルデンクライスというユダヤ人の学者が作ったんです。

この人は、日本の柔道の支部をフランスで最初に作った時の弟子なんです。彼は物理学者でもありますが、サッカーが好きでいろいろやっていて、膝のお皿がくっつかなくなった。どこの医者に行っても治らなかったのを、自分で治したんですよ。

「どういう方法でフェルデンクライスは治したのですか?」

昔は、柔道はスポーツというより、まだ柔術の影響が強かった。生き延びるために戦うわけだから、生き残るために自分の体の骨が外れたり、折れたら、治せるようにしていました。

パリに行ったのは嘉納治五郎のお弟子さんで、当然、柔術ですから、体のことを非常によく知っていて、体の構造を教えてくれたのでしょう。

フェルデンクライスは物理学者なので、教えられたことを科学的に理解しようとしました。それで、体の動きを通して、体のバランスを取り戻していくと治っていく、ということから始めたんですね。

「フェルデンクライスとゲシュタルトとの関係はあるのですか?」

彼は、自分を治すと同時に、体に意識を向けるフェルデンクライスというメソッドを作り出しました。それはゲシュタルトでいう気づきと全く同じ視点なんです。

ただ、フェルデンクライスの場合は、精神世界に一切触れない。体の筋肉の動きだけに意識を向ける。そこの緊張に意識を向けて、アプローチすることに焦点を当てたのですね。

「なぜ、体の動きに意識を向けるのですか?」

フェルデンクライスは、赤ちゃんがどうやって脳の神経を発達させるかということに興味がありました。赤ちゃんは学校に通っていないのに、赤ちゃんの時に脳の神経が一番発達します。それはなんでだろうと彼は考えました。

それでわかったのは、赤ん坊は自分の体を使うことで脳を活性化させる。そこで体を微妙に動かすことで、脳の神経を刺激することに彼は気がついたんです。脳の神経を刺激するだけでなくて、脳の新しい神経を作っていくんですね。

「赤ちゃんはどのように体を使って脳の神経を刺激するのですか?」

赤ん坊はある特定の時期に、親指をしゃぶる。お母さんのおっぱいをもらうので、唇の皮膚は非常に柔らかく、愛情と外の世界とのセンサーでもあります。

左手の親指をしゃぶっている時にある特定の刺激があって、いつも同じ感覚が生まれる。でも右の時には違う感覚がある。こういう動きを意識化した時に、もっと進むと、左という概念が生まれてくるわけですが、動かすという感覚はとにかく生まれます。

何回か同じ動作を繰り返して、それが心地いい体験であると、脳の神経がそっちに向かっていいんだって、伸びていくわけです。

赤ちゃんは無数の方法で体を使って、いろんな感覚を脳に伝えて、新しい神経を作っていく。

「大人になってからもですか?」

それは、大人になってからでも全く同じです。例えば、怖い場面なり、嫌いな人がいたら、我々は学んで、そこに近づかないようにしますよね。

ゲシュタルトはそれを、心と体と両方の側面から何が起きてるんですかって気づいていく。それで、囚われていたものを解放していきます。

フェルデンクライスは、自分の体を使いながら、その緊張に気がついていけば、その緊張を自分で取ることができると知った。意識化が十分にされていないから、緊張が残ってしまうのだと。そういう意味では同じなんですね。

気がつけば、その緊張は取っていける。緊張を取っていくと何が起きるかというと、今度は自分が怖いと思っていた環境が怖くなくなる。体も心も、十分に緊張を受け入れることで、その緊張を外すことができる。問題が解決するのです。

「ゲシュタルトとフェルデンクライスの両方の手法を組み合わせていらっしゃるのですか?」

そうなんですよ。ほとんど同時に始めて、僕にとっては両方同じもの、同じことをしていると思っています。ゲシュタルトとフェルデンクライスという区別はありません。1つのものとしています。

実はフリッツ・パールズとフェルデンクライスは、晩年、「我々は同じ事をやっている」ことに気がついて、一度話し合おうということになったらしいんです。

ところが両方歳を取っていたんで、結局会うことができず、未完になってしまったという話を、フェルデンクライスのお弟子さんに聞きました。その話を聞いて、僕は非常に納得したというか、嬉しかったですね。「やっぱり1つのものだ!」って。

「ゲシュタルトのワークでフェルデンクライスを取り入れると、違いますか?」

違います。何が違うかっていうと、その人の体の微妙な表現がもっと理解できる。それはずっとフェルデンクライスの、大きな動作じゃなくて、微妙な動作をただ意識的に繰り返すことをやってきたからなんです。

手を繰り返し同じように動かすとか、そういう体の微妙な感覚を、動きを通して非常によく理解できる。その人の中で何が起きているかがわかりやすいです。

「指示して体を動かしてもらうのですか?」

ええ、フェルデンクライスは動作を指示します。ただ、講師はその動作を見せない。見せてしまうと、やり方ばかりに意識が行って、自分の中で何が起きているかということがわからなくなる。

「右の手首をゆっくりと回してください」と口頭で指示をして、それを何回か繰り返す。「じゃあ、左の手首を回してください」って、やってもらっていくと、だんだん自分の体の感覚ができてくる。

手首を回していると、実は手首だけじゃなくて、肘も関係しているわけだしね。最初のフェルデンクライスのレッスンは、そこから始まったんです。

人間の体は、自分の中心に向かうと手のひらが自分の方を向くようになる。そういうことが意識化できれば、自分の中で何が起きているのかということにも気がつくようになります。

「ご本人が気づいていくということですか?」

ゲシュタルトもフェルデンクライスも、「本来人間は、問題を克服する能力があって、自己成長していくようにできている」って立場を取ります。これが昔の心理療法との違いなんですね。

カール・ロジャーズも同じ視点で、「その人が自分に意識を向けていって、自分が何を感じているかを十分に意識化することができたら、自分で問題を解決していく。だからカウンセラーは、何か指導する必要はない」。そこが全部共通しているところです。

全ての人間は自己成長する能力を持っている。自己成長のモデルです。それ以前は病理モデルです。何か問題があるのは、過去に問題があったからだ。だから専門家が助ける必要があるという立場です。

「その気づきを促すのが、ファシリテーターの役割ということですか?」

そうです。ファシリテーターというのは促す、促進するという意味ですからね。先生という関係ではない。

「ゲシュタルトとフェルデンクライスを組み合わせようと思ったきっかけは何ですか?」

アメリカに行って大学院は出たけれど、英語を今の日本語みたいにしゃべれるかというとしゃべれない。アメリカでいい仕事は無理だと思って、日本に帰ってきたのですが、日本が合わなかった。

日本人と話していてもよくわからない。会話が成り立たない。勤め先で、「僕はこうしたいのだけれど。僕はこういうことをしてきている。あなたはどういうことができるんですか?」と言ったら、後で相手が怒っていた。

関係を作るまでの儀式が多いですよね。「最近、忙しくて大変ですよね」と言ったり、儀式がないと日本人はうまくいかない。そういうことが、もう合わなくなった。それで体調を崩したんですね。心理的な症状は全部出ました。それがきっかけです。

「体調を壊してから、どうなさったのですか?」

その時に、カウンセラーと医者には行くまいと決めた。理由ははっきりしていました。

僕は日本の社会に合わなくなっているだけ。でもカウンセラーや医者は日本の社会で生活しているから、日本の社会が良しなんです。そうすると、僕が日本の社会に順応していくことが、その人たちの見えない目標になっていますよね。

僕はそれが嫌だったから日本から出ていったし、帰ってきても合わない。自分で治す方法は何だろうと考えて、ヨガがいいかなと思った。それで、ヨガをやっていたら治っていった。1年位したら、その症状は全部消えたんですよ。

それで、身体を使って心理療法をやろうと思って、ゲシュタルトをやろうと思ったんです。

ゲシュタルトをやるのと同時に、フェルデンクライスに出会った。身体の緊張を取って、身体を使って自分の気づきを高めるもの、両方同時に見つかったので、良い出会いだったと思います。これをやると最初から決めましたね。

                 

(次回につづく・・)

百武 正嗣(ももたけ まさつぐ)  NPO法人ゲシュタルトネットワークジャパン理事長
                     日本フェルデンクライス協会理事
                     日本ゲシュタルト療法学会理事長

ゲシュタルト療法をパールズの弟子であるポーラ・バトム博士(Paula Bottome Ph.D) に学ぶ。
ポーラは1985年に来日し、ゲシュタルト療法を広めるためにGNPRを設立する。その事務局を引き受ける。2001年にポーラが亡くなった後を引き継ぎ、現在のNPO法人GNJをポーラの弟子である人たちと設立し普及に努める。
また、2003年から全国のゲシュタルトセラピストの連絡協議会を開催し、より広く一般へのゲシュタルト療法の普及を願い、日本ゲシュタルト療法学会を設立する。
中央大学理工学部卒。カリフォルニア州立大学大学院心理学科卒。


<NPO法人ゲシュタルトネットワークジャパン(GNJ)のHP>
【NPO法人ゲシュタルトネットワークジャパン(GNJ)】

<日本フェルデンクライス協会のHP>
【日本フェルデンクライス協会】
<日本ゲシュタルト療法学会のHP>
【日本ゲシュタルト療法学会】
<百武正嗣先生の著書>
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気づきのセラピー はじめてのゲシュタルト療法



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エンプティチェア・テクニック入門―空椅子の技法

インタビュアー:奥原 菜月

奥原菜月

フリーライター、占い&カウンセラー(奥原朱麗)として活動中。
夫と子供2人、犬1匹で横浜に生息中。

占い・カウンセリング・開運などをメインにしたブログ
『占いカウンセラー朱麗のまったり開運日記』

HP:アストロ・ハーティ「朱麗の占いカウンセリングルーム」

インタビュアー:鈴木明美

鈴木明美

セラピールームChildren主催、NPO Oasis 代表
いろんな環境に自分を合わせて生きてきて、自分がなんだか分からない。
そんな、うつ病や心の悩みを抱えた方のお手伝いをしています。

心理カウンセラー、NLPセラピスト(ゲシュタルト、エリクソン催眠療法、
家族療法)、交流分析士1級、トランスパーソナル学会会員、レイキヒーラー
HP:江戸川区西葛西、セラピールームChildren
ブログ:セラピールームChildren

インタビュアー:村上友望(ともみ)

村上友望

今は普通のOLをしながら、セラピストとして活躍できるよう勉強中です。
出会った方々の幸せな笑顔をサポート出来たらと思っています。

ヨーガセラピスト ソース公認ベーシックトレーナー
パステル和アートインストラクター ジュニア野菜ソムリエ
アロマテラピーアドバイザー キャンドルアーティスト
ブログ:http://ameblo.jp/ohisamakokoro/

インタビュアー:広江俊介(ひろえしゅんすけ)

広江俊介

心のボイスレッスン 代表
都内で声と言葉をテーマにしたメンタルセラピー、
ゴスペル音楽による発音・発声のレッスン、自己表現力の磨き方を
指導しております。

現在、一般のビジネスマン、OL、カウンセラー、セラピスト、教師、
コンサルタント、俳優、声優の方まで多岐に渡り、教えております。
プロボイストレーナー、プロギタリスト講師
ブログ:『心のエバーグリーン。』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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