第26回目(4/4) 宇野 彰先生 筑波大学大学院

いわれなき誤解の解決の糸口を、科学が提供できる

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「今後のお仕事の展望としてはどんなことを考えていらっしゃいますか?」

今、話題に上っていましたように、就学前から読み書きの到達度を予想できる検査を広めたいと考えています。今、作成している途中、データ整理中です。

それから、トレーニング法に関して、きちんと論文にしたあと広めたい。それは、臨床的な立場ですかね。

もう1つ、検査のことなのですが、読めるか読めないか、書けるか書けないかという正確性(accuracy)だけではなくて、流暢性(fluency)いかにスムーズに読めるか書けるかということが、次のひとつの尺度になってくると思うのです。

たとえば、今、私たちが見ている大学生の一人が、IQとしては120〜130あって、彼は専門知識に強くてアルバイトでそういう会社に行くと正規職員よりも知識が豊富だし、対応は完璧なので、お客様相談係に配属されて非常に評価が高いのです。

そこで社長さんが「うちに就職しなよ」と言ってくれて、試験を受けたけれど、きれいに落ちてしまった。「どうして?」って聞いたら、「読むのにとても時間がかかりました」と言うのですね。

実は対策は練ってあって、働きかけによってその会社は、就職試験の時に電子辞書や携帯電話を持ち込み可にしていたのですね。つまり、漢字が書けなくても損にはならないようにしてあった。実際に会社に入ってしまえば、みんなそういうツールを使うわけで、それで問題ないのです。

しかし、読む段階において、読めるのですが、とても時間が掛かるのです。早く読みなさいと言われると、読むことに集中すると今度は理解が十分でなくなる。

そういう、スピードが遅くて試験時間延長が必要な人がいるのです。イギリスやアメリカだと1.3倍とか試験時間を延長させているそうです。

筑波大学でも、視覚障害や聴覚障害、身体障害の方には時間延長をしていますね。聴覚障害の方には面接試験で、面接の時に手話通訳があるので時間延長をします。それと同じような形で、ゆっくりでもいいからできればいいという、そういうシステム作りもまた、必要だと思うのですね。

そういう、流暢性っていう尺度は、どれくらい標準値から遅ければ困難を来たすのかが、まだ分かっていないのです。そういうことも含め、研究を進める必要があります。

読めない、書けないという問題を、まずは、きちんと知ってほしいのですが、次の段階で、流暢性の理解かなと考えています。

テレビ画面の下に出てくるスーパーインポーズ(字幕)。あれもどれくらい科学的に提示時間を決めているのでしょう? そういうところにももしかしたら、貢献できるかもしれません。

NHKの研究所かどこかがやっていると思うのですが、読み書きの苦手な人たちにとっての提示時間はご存じないでしょうから…。どれだけ提示すればいいかというようなことに関して、少しお役に立てるような基礎データを集めることをし始めたところです。

「他に今後なさりたいことは?」

やりたいことはたくさんあるのです。僕は将来的には学校を作りたいのですよ。
ディスレクシアの専門の学校作りたい。アメリカやオーストラリアにはあります。 ディスレクシアの彼らに活躍してもらわないと、社会としてももったいないですからね。

学校作りでは、学校経営のプロと組みたいと思っています。僕は生徒さん集めはできると思います。

専門家は一人二人いれば良くて、後は、発達性ディスレクシアの事に関して信頼できる人がきちんとリーダーシップをとってくれれば、生徒さんは来ると思うのですね。寄宿制にするかどうかなど、考えなければいけないことがいろいろありますが…。

研究はたくさん進めなくてはいけませんね。やっと世界で言語の種類によって、読み書き障害の出方が違うのではないかということが、英語圏の人たちにも分かってきたような感じがしています。日本語の場合はこういうタイプの方が良いのだということを、きっちり主張していこうと思います。

それから、英語の訓練法ですね。英語の訓練法に関しては、もうひとつ整理しきれていないのです。

ひらがな・カタカナ・漢字ではあまり問題がないけれど、英語で問題が生じる中学生が結構います。それを、障害と言うか言わないかは別として、サポートはしたいですね。

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「それは英語圏の方の指導方法と同じなのですか?」

僕らは日常会話では英語を使っていないってことが違うわけですね。ですから、変えなくてはいけないんですね。日本語をベースにして英語を学んでいるので、日本語話者にマッチした英語のトレーニング法があると思っています。それは、道まだ半ばですね。

そういう能力的な問題があって英語が苦手になっているお子さんたちがいるということを、中学校の英語の先生方もご存じないと思うのです。それが知られれば指導法が変わる訳です。英語がそういう問題で苦手だったら、そのままでは結果的に英語が嫌いになる訳です。

ただ、中学校の英語の教師の方たちには、まず例外なく、英語だけができない子がいるという認識はあると思います。その子たちのメカニズムや指導法は、今はまだ途中なのですけれど、ある程度整理できれば広く中学校の英語の先生方を集めて、お伝えしたいところがあります。

文部科学省の人で非常にそのことを理解している方がいて、小学校での英語教育に関して、会話は良いけれど、読み書きはあまりやらないでくれと、コメントを出したことがあります。

英語の方が、読み書きの習得に関して日本語より問題が出易いからです。下手をすると、10人に1人くらいの割合で読み書きに関して問題が出るかもしれない。

小学校のうちにいやになられたら困りますよね。他のこともやる気がなくなってしまいますから。だから、英語はまだお遊び程度でやった方が良いって、制限してもらっています。

「このお仕事をされていて一番良かったと思うところは?」

そうですね。この仕事していて良かったって、本当に思うのですよ。
小さいことで言えば、データやエビデンスというのを大事にしているから、自分が納得して仕事できていることですね。はっきりしていて誤魔化さないでやっていけているのが、すごく良いですね。

でも、一番良かったって思うのは、エピソードを1つ申し上げれば、当時24歳の青年のお姉さんが「うちの弟は発達性の読み書き障害ではないか」と気づいてここで検査をしたのです。そうしたら、確かに、正真正銘の発達性ディスレクシアだったのです。

最初は、本人も「俺はただ、勉強しなかっただけだよ」って言っていましたが…。お母さんもお姉さんも彼のことが理解できる。ところが、お父さんだけは、「こいつは、努力しないだけだ。人生から逃げている」とおっしゃっていたのです。

確かに、彼は逃げているし、努力していないんですよ。できないから、努力しなくなりますからね。
そんな訳で、お父さんと息子さんは、ずっと疎遠だったのですね。

でも、お父さんがまじめな方で、2度ほど更に相談にみえましてね、もう一回説明してくださいと。それで最終的に、息子さんに「知らなかったとはいえ、お前を誤解していた」と謝ったのです。で、息子さんも「俺の方こそ反抗して悪かった」と。そんな歴史的な和解があったのです。

その時は、この仕事をしていて本当に良かったと思いましたね。
いわれなきの誤解の解決の糸口を提供できる。それが、ちゃんと科学でできる。これは素晴らしいことだと感じます。

「発達障害かもしれないと、不安に感じている方にメッセージを」

現実的には、専門家も少ないのですが、しかし、不安だったら大丈夫だということを確認するためにも専門家のところに行った方が良いと思いますね。大丈夫だってことを確認するだけでも良いじゃないですか。発見が遅い方が、後で影響が大きいと思いますね。

「子どもが発達障害だという事を気に病んでの痛ましい事件がありましたが…」

気持ちよく分かりますよね。やはり、組織的に支持しなくてはいけないのだと思います。 支えるっていうのか、共有するっていうのか。
でも、やはり事実を知ることですよね。いろいろなことを知ることが大切です。

「事実を知ることで突破口が見えてくる、そういう段階に今ありますか?

私の専門領域だけでいいですか? あると思います。事実を知らなかったり、正しい情報を受け取らないで思い込んだり誤解したりすることを考えれば、まず、正しい情報を得るってことが大事なのだと思います。
知らないよりも知った方が絶対に有利です。

「こちらに通っている方の横のつながりは、あるのですか?

今年やるつもりだったんですよ、子供たちの会。

子どもたちは将来自分がどうなるのか不安ですので、ディスレクシアの大人で仕事をしている人がいるんですが、その人たちに、ここに来ている子どもたちに、お話をしてほしいと考えているのです。自分の将来に対する選択肢を見せてあげたいのです。

そして親御さんの会。これは、おっしゃったことのようにすごく大事なことで、去年から計画を進めているのです。これは是非やりたいですね。

「先生のパワーの源は何でしょうか?」

元気ですよね、僕。やりたいことやっているからかな。つまらない答えですね。

やはり、仲間がいるのは、とても支えになりますね。いろいろな能力があるけれど、それぞれ特徴がある人たちが、僕の周りにはいるんですね。他のチームの一人の研究者と僕を比べたら、僕の方が劣っている場合はあります。でも、僕らはチームとしては負けない。

それって、ここに来ているお子さんたちと同じでね。自分が何が苦手で、何が苦手じゃないか、ということを知っていて、その組み合わせで、チームとして自分だけではできない仕事ができている。

ずっと、僕のチームって人間関係が変わっていないのですよ。だから上手くいっている。良い人たちに支えられていて、そういう意味でとても感謝しています。

それと、僕がやっていることを、それぞれみんなが良いと思って一緒にやってくれるのです。アイデアは僕が出すことが少なくないのですけれど、方法論を一緒に自分のものとして、それぞれが活躍してくれているので、仕事に関しては、それが僕の元気の源だと思います。

<編集後記>

宇野先生のお部屋には、大きな真っ赤のハートに寄り添う、大きな靴の子が描かれた絵がありました。
そしてもうひとつ、見ているだけで暖かくなってくるまあるい優しい絵も。
負けず嫌いの優しい「お父さん先生」の素敵なチームは、ほっとする空間を創りだしていました。

多くの人が先生のように、納得して仕事をしたいと望んでいます。
障害を持った子どもたちが、誤解されることなく、生き生きと活躍できる環境作りは、社会を暖かくすることでしょう。もっともっと、やりたいことをやって、あふれる元気を広げていってほしいと感じました。

翌日に渡米を控えていらっしゃるにもかかわらず、落ち着いてお話くださり、ありがとうございました。感謝いたします。

宇野 彰(うの・あきら) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 准教授、
             NPO法人「LD・ディスレクシアセンター」理事長、医学博士、言語聴覚士

「LD・ディスレクシアセンター」 LD(学習障害)、発達性Dyslexia(発達性読み書き障害)、小児失語症(大脳損傷)などの方々を中心に、主に読み書きや言語発達全般についてサポートするセンターです。

例えば、全般的な知能の発達には問題がないのに、文字の読み書きの習得が遅れている発達性読み書き障害や話したり聞いた言葉を理解することだけに障害のある特異的言語発達障害、脳損傷によって読み書きや話し言葉の発達などに障害をもつお子さん達を対象としています。

また、成人を含む高次大脳機能障害全般にかかわるご相談にも専門家が対応致します。

宇野彰 公式サイト
http://tokyo.cool.ne.jp/unoakira/
「LD・ディスレクシアセンター」
http://square.umin.ac.jp/LDDX/index.html
<宇野 彰先生の著書・訳書>
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ことばとこころの発達と障害


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小学生の読み書きスクリーニング検査―発達性読み書き障害(発達性dyslexia)検出のために


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ディスレクシア 読み書きのLD 親と専門家のためのガイド

インタビュアー:下平沙千代

下平沙千代

ワクワクセラピーで、好きなことを話しているうちに、希望が湧き上がり、
レイキでもっと元気になって、ショッピングや旅行にも行きたくなっちゃうような、
日本一やさしいワクワク介護タクシー開業準備中です。賛助会員募集中!

ワクワクセラピー ソーストレーナー、レイキヒーラー、導引養生功指導員、
ホームヘルパー2級、普通二種&大型一種免許取得
斉藤一人さんの全日本バンザイ連盟正会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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