第26回目(1/4) 宇野 彰先生 筑波大学大学院

医学と心理と教育と福祉、そういう境界領域が重要

今回は、発達障害の専門家で、筑波大学大学院准教授であり、NPO法人「LD・ディスレクシアセンター」理事長も務めていらっしゃる医学博士・言語聴覚士の宇野彰先生にお会いしてきました。

大学で「脳の高次機能」という最先端の研究・指導にあたりながら、特別支援教育専門家チーム委員、全国での講演活動、発達障害児の臨床活動などを精力的にこなされています。

最新の検査技法を駆使した世界レベルの研究と豊富な臨床経験から、発達障害に悩む多くの方の強力なサポーターとしてご活躍されています。

「脳の高次機能」研究というアプローチから、発達障害に悩む方の支援を長く続けてこられた先生に、発達障害に対する考え方、専門家としての姿勢等、奥の深いお話を伺ってきました。

インタビュー写真

「先生のご専門を一言で言うと?」

高次脳機能障害の臨床と研究が専門です。

現在は、発達性障害、その中でも特にLD(学習障害:Learning Disorders , Learning Disabilities)の一種である発達性ディスレクシア(読み書き障害)を中心的なテーマとして取り組んでおります。

現在、複数の自治体の特別支援教育専門家チームなどの委員を引き受けています。

「小さい頃はどんなお子さんでしたか?」

小学校・中学校時代は幼かったと思いますね。

小中学校の頃はずっとヴァイオリンを弾いていました。母はピアノの先生なのですけれど、僕がヴァイオリンを習いたいと言い出して…。最終的にはかなり本格的にやることになって、高校まで続けました。

同じヴァイオリンの先生についていた同級生が、大学では工学部に進んだのに、結局、ドイツのハノーファの放送管弦楽団の第一ヴァイオリン奏者をやっていたりします。

ヴァイオリンは、今はほとんど弾いていないですが、仕事に役に立っていないこともないのです。音楽と脳、言葉と脳には、かなり共通のことがありますから。

「文字を音に変換する」そういうことに障害がある人は、実は、楽譜を読むのも苦手なのです。脳の損傷で音楽家がその場所にダメージ受けますと、文字も楽譜も読めなくなります。

今、「LD・ディスレクシアセンター」に来ている子で、世界のヴァイオリンコンクールで入賞するような子がいるのですが、楽譜読むのが苦手なのですね。
そんな風に、言語と音楽には共通性があったりします。

「高校時代はいかがでしたか?」

高校1年生くらいから当時は学生運動の時代で、僕は一回も制服を着て高校に行ったことがないですね。途中からあまり勉強はしなくなりましたが、高校時代は、いろいろなことを考えることを学びました。ただ、内申書は良くなかったと思いますね。

高校の時は、精神科医か脳神経科医になろうと考えていて、医学部を目指そうと思っていました。父が医者だったので、昔から医者にはなろうと思っていました。

学生運動の渦中に少し入っていた事も影響したのかしれませんが、高校を卒業してから家を出ましてね。住み込みで働いて、生活費も自分で稼いで自活していたのです。ここら辺で、精神的に随分強くなった気がしますね。

最初は夜中に勉強したりはしていましたが、だんだんしなくなりました。
いろいろうまくいかなくて、毎日ウォッカをストレートで飲んでは血を吐くような生活をしていました。

そのころ同級生の一人が外語大を中退して音楽プロモーターを立ち上げて、「ちょっと来てよ」と言われて、音楽プロモーターの仕事を手伝っていました。

ユーミンとか、まだ荒井由美の時代でしたけれど、オープンリールテープで、「この下手な人、誰? 歌詞いいね」なんて(笑)。彼女のコンサートの企画をやりました。歌も今より上手ではなかったので、視覚的にごまかすしかないなって、レーザー光線やドライアイスを使おうとか、そんなことをやっていました。

矢沢栄吉が「キャロル」を解散してソロデヴューした時と、山田隆夫のいた「ずーとるび」などのプロモーションで、結構儲けました。

でも、この仕事は自分には合わなくて結局辞めて、とにかく形に残る勉強をしたいと思って、大学に進みました。

その時に受かったのが、北海道教育大学の養護学科と日本大学の独文科ですね。札幌医科大学は模試では合格レベルだったのですが、きれいに落ちていました。

結局、日本大学の独文科に進みました。4年遅れていたので23歳くらいですね。ドイツ語はかなり勉強しましたからできる方でした。全国の大学院生の模試があって、僕はまだ学部の3年生だったのですけれど上位でしたね。

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「独文科に行かれた後、今の研究領域に進まれるようになった経緯は?」

ちなみに独文科の卒業論文はワーグナーに関してです。ワーグナーって総合芸術論も書いているし、あまり知られていないのですが小説も書いているのですよ。

今の仕事との共通項は、そういうボーダーゾーン(境界領域)ですかね。
今も医学と心理と教育と福祉の狭間にいて臨床と研究をしていますよね。
そういう境界領域が結構重要だと思っています。

3年生の時、3ヶ月間ドイツに行って、基礎的な資格ですがドイツ語の資格も取ってきて、努力しただけのことが形になっているかなあと。自分がいつも中途半端だったという気がしていたので、今度はやれるかなと、思いまして…。

それで本当に1つやれることにトライしようと思って、医学部を受けようかと考えたのです。ただ医学部に行くためには、何年間も勉強していないし、少し時間が必要だなとも思いました。

それで、医療に近い仕事をしようと思って本を読んでいたら、確か社会福祉事業大学の先生(だと思うのですが…)が書いていた本で、自閉症(広範性発達障害の一種)の本に出会いました。

当時は1970年代なので、まだ自閉症は親に原因があるという考えが主流で、その本にカタカナで「スピーチセラピスト」という用語が出てきたのです。

「自閉症の子は人に裏切られ続けてきているので、信頼を取り戻すにはとても時間がかかって大変なのだ。そのためにスピーチセラピストというのがいて、信頼関係を得るのだ」というようなことが書いてあったのです。私の記憶でですが…。

それを読んで、僕は「なになになに、それ、やってやろうじゃないの。そんなに試されるのだったら試されてみましょう」
そんなつもりで、スピーチセラピストになりたいと考えたのです。

さて、スピーチセラピストになるにはどうしたらいいのかと思っていたら、周りがみんな親切で、ある先生が「竹田契一先生のところに行ってみなさい」と教えてくれたのです。

「丁度明日、韮山(にらやま)に来るって」「にらやまってどこですか?」「伊豆だよ。行きなさい」「わかりました」と言って、伊豆に出かけて…。運良く、先生にお会いできました。

竹田契一先生は、まさにスピーチセラピストの日本の草分けの数人のうちの一人ですかね。
彼は後で僕が入ることになる大阪教育大学の助教授(当時)だったのです。

伊豆韮山温泉病院。後で僕が最初の就職をする病院なのですが、竹田先生はそこの初代の言語室長で、彼はアメリカのコロラド州立大学のスピーチパソロジー(言語病理学)のコースを出て、失語症(大脳損傷後の言語障害)のメッカといわれるようになった伊豆韮山病院の名前を長谷川恒雄先生の下で作り上げた一人なんです。

竹田先生の(おそらく…)推薦もあり、いろいろな関門を潜り抜けて、スピーチセラピストへの道が開けました。

もともと、脳と言語の関係の本が好きで、言葉と脳の関係に興味を持ったのです。最初は自閉症がきっかけだったのですけれど、大人の言語障害の研究を始めて、大脳損傷による後遺症としての言語障害の専門家になろうと思ったのが大きな契機でしたね。

最初からシンドロームとしての自閉症の研究分野からスタートせずに、成人例での失語症の臨床研究を始めたことは、私にとって結果的によかったんだなと思います。

出来上がった脳がどういうダメージ受けるとどんな症状が出て、どういう回復プロセスがあるのかある程度は分かっているので、今、子どもの障害研究分野でも頭が整理されて、対応できるようになっているように思います。

「発達障害の研究に携わるようになったきっかけは?」

大脳損傷によって起こる後遺症のとしての言語障害の一部に読み書き障害、失読失書という症状があるのですが、もしくは失語症という、読む書く話す聞くの四つの言語領域に障害の出る人がいます。

ところが、脳の損傷はないのに、脳損傷の後遺症に非常に類似した症状を示す子供たちがいるということが分かったのです。判明したのは1994年か5年だと思うのですけれど、最初に出会ったそういうお子さん、それがきっかけですね。

3つ目の職場で、当時、私の上司だったある小児科医から「漢字が覚えられないって言うお子さんがいるので、会ってください」と言われて、会ってみると、まさに大脳損傷後に起こる漢字の失書、つまり漢字を書くことが難しい症状と同じ症状を呈するお子さんでした。

主治医の先生に「このお子さんは大脳の機能障害から来ているはずなので大脳の写真、MRIを見せてください」と言ったのです。そうしたら、「こういうお子さんたちを撮る習慣はない」と言われました。それがきっかけとなって、その後、撮る習慣ができるのですが、形態的な異常はなかったですね。

でも、どう考えても大脳皮質の症状なので、当時、東京歯科大学市川総合病院の精神神経科の先生たちが使っていた手法を思い出して、スペクト(SPECT)というもので脳の血流を撮りました。

そうしたら、ドンぴしゃり、私が推定していた脳のある部位だけの血流量が少なかった。ここからですね、今の研究と臨床がスタートしたのは。

症例としては、漢字の失書です。この業界で言えば、漢字の特異的書字障害。これが、発達性障害の一種、LD(学習障害)との出会いです。

「他の発達障害のADHD(注意欠陥多動性障害)や、PDD(広範性発達障害)はいかがですか?」


ADHD(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder)や、PDD(Pervasive Developmental Disorders)は、発達性ディスレクシアに合併する並存障害として現れることはまれではありません。実際、今ここに来る子達の半分以上はそうですかね。

最近多くなってきました。ですから、ADHDやPDDの理解なしには発達性ディスレクシアは論じられないですね。

「脳の特定部位の機能からアプローチすることは難しいのでしょうか?」

ADHDやPDDは、LDに比べるとシンプルではないと思います。

いくつかの脳の場所が責任部位として推定されるからです。本当に脳のその場所が関与しているのだけれど、ニューロトランスミッター(神経伝達物質)などの問題だった場合には、脳の2次元か3次元で考えていかないといけないだろうと思います。

脳の場所と症状の対応でいえばLDが一番シンプルです。
特にPDDはいろいろな症状の合併したシンドロームなので、そういう意味で、PDDの研究をするにはもう少し時間が必要かなと思っています。

自閉症の子の、「人の気持ちが分からなくて、共感性が低くて、コミュニケーションが成立しないところ」は、ある程度一次元だと思うのです。そして、自閉症の子どもの、言葉の発達が遅いというのは、また全然別の一次元でね。

それから、「固執性が高い、発想の切り替えが難しい」というのも、また別な一軸で、これら三つの次元があるのですね。

それは結構言われていると思うのですけれど、ただ、WHOやDSM-W(精神障害の診断と統計の手引き)では、コミュニケーションの中に言語を入れています。ですから、自閉症のコミュニケーション障害という時には、言語障害のことを言っている人が多いですよね。

言語障害は確かにコミュニケーションの障害の一部ですが、いわゆる言語機能障害と、言語機能に問題はないアスペルガー症候群のようなコミュニケーション障害とは分けるべきだと思います。

ですから、PDDにとっての言語障害と、コミュニケーション障害は別だてに考えて、「言語障害と、言語障害以外のコミュニケーションにも問題がある」という風に分けた方が良いのではないかと考えています。

脳の機能としてこれらは別なのではないかと僕は考えているので、いつか定義の中の表現も変わってくれるのではないかなと思っています。

             

(次回につづく・・)

宇野 彰(うの・あきら) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 准教授、
             NPO法人「LD・ディスレクシアセンター」理事長、医学博士、言語聴覚士

「LD・ディスレクシアセンター」 LD(学習障害)、発達性Dyslexia(発達性読み書き障害)、小児失語症(大脳損傷)などの方々を中心に、主に読み書きや言語発達全般についてサポートするセンターです。

例えば、全般的な知能の発達には問題がないのに、文字の読み書きの習得が遅れている発達性読み書き障害や話したり聞いた言葉を理解することだけに障害のある特異的言語発達障害、脳損傷によって読み書きや話し言葉の発達などに障害をもつお子さん達を対象としています。

また、成人を含む高次大脳機能障害全般にかかわるご相談にも専門家が対応致します。

宇野彰 公式サイト
http://tokyo.cool.ne.jp/unoakira/
「LD・ディスレクシアセンター」
http://square.umin.ac.jp/LDDX/index.html
<宇野 彰先生の著書・訳書>
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ことばとこころの発達と障害


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小学生の読み書きスクリーニング検査―発達性読み書き障害(発達性dyslexia)検出のために


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ディスレクシア 読み書きのLD 親と専門家のためのガイド

インタビュアー:下平沙千代

下平沙千代

ワクワクセラピーで、好きなことを話しているうちに、希望が湧き上がり、
レイキでもっと元気になって、ショッピングや旅行にも行きたくなっちゃうような、
日本一やさしいワクワク介護タクシー開業準備中です。賛助会員募集中!

ワクワクセラピー ソーストレーナー、レイキヒーラー、導引養生功指導員、
ホームヘルパー2級、普通二種&大型一種免許取得
斉藤一人さんの全日本バンザイ連盟正会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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