第26回目(3/4) 宇野 彰先生 筑波大学大学院

読み書きの側面からの、自立するプロセスのお手伝い

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「他にも、日本の現状の問題点というのはありますか?」

エビデンス(根拠)ベースで、本当にやってるのかな、と心配しています。ある結構有名なところで診断評価している内容は、かなりいい加減でしたね。

本当の診断評価になっていないということはたくさんあります。
もう少し科学的に考える専門家が多く育ってほしいと思います。

それと、日本語のことをもう少し勉強してほしい。英語圏の方が発達性ディスレクシアの論文が多いので、英語圏のことばかり勉強して日本に来ると、そういうのは日本に当てはまらないのですね。日本語話者の特徴に合わせた指導が必要なのです。

「指導方法は、確立しているのでしょうか?」

ある条件下においては確立しています。その条件を満たせば失敗したことがない手法ですね。条件とは、知能や認知能力、本人の意思などですね。そういった条件を満たせば、きっちりと効果が上がっています。

ただ、新しい方法というのは面倒臭いのですよ。面倒臭い方法ですから納得しないと使えませんよね。良いということを分かってもらうために3週間、通常の方法との比較検討の期間を取ります。

そうすると、本当にその方法が自分に合っているということが かなり厳密に分かります。本当に自分で良いと分かれば使いますよね。これが良いはずだからと言うだけでは長続きしないのです。

「その方法は、従来の方法とどのあたりが違うのでしょうか?」

最初に、7〜8時間かけてその子の認知能力を調べるのですね。その中で、得意な力っていうのをピックアップして、その得意な力で、苦手な力をカバーするというやり方です。ですから、検査は悪いとこ見つけるのではなくて、得意なところ見つけるのが目的です。

苦手な能力を伸ばすのではありません。「カバーする」という方針です。それは、脳を損傷された大人のリハビリテーションの経験からなんですね。簡単に言えば、他の脳を使う。それを想定した練習法です。バイパス法といいます。

バイパス法っていうのは成人の失語症領域の臨床をしていた時に、僕が言い始めたんですけれど、でも、バイパス法が適用できるような考え方というのは、先輩がすでにふたつくらい訓練法として作っていましたね。

「か」って音を聞いて、「か」って書けないと、いくら練習しても書けない。でも、得意な聴覚的な記憶力を活用して、バイパスすると書ける様になる。

私は、みずほ銀行って名前が出てこないのです。たぶん銀行の名前がしょっちゅう変わるから対応できなかったのと、ひらがなの「みずほ」というのは僕の語彙に無かったので、想起しにくいのだと思います。それで自分に対して、バイパス法を使う訳です。

私は、おばの名前だったらすぐ思い出せます。おばの名前が「みずこ」なので、おばの名前を「みず」って思い出して、それに「ほ」をつけるのです。こんな風に今も頭の中でバイパスさせているのです。

銀行の名前を、おばの名前から持って来ているのですけど、皆さんから見ればストレートにできているように見えますよね。その回路を強化すれば早くなる。バイパス法はそのような方法です。その回路を意図的に使わせていきます。

どうしても苦手なことは、直接の回路はなかなか活性化しにくいのではないかと考えています。それを、脳科学的にもいずれは証明したいと思います。活性化しない場所があると、他の部分は活発になるはず、予備実験ではそうなっているんですね。

「いろいろな活動をされている中で、先生が特に大切にされているものは何でしょうか?」

子どもたちが、自信を回復していって、元気になって、自分で考えて自分で判断して自分で行動するようになること。それを読み書きの練習を通して、お手伝いしていくことを大事にしています。ですから、ここでの活動と重なるのですが、自立するまで応援しますと申し上げています。

私たちの開発した手法や私たちとのコミュニケーションを通して、できなかったことがやり方を変えることでできるようになっていく。そうして、失敗した経験に成功した経験が上書きできて、少しずつ元気になっていく。

そして、読み書きが段々できるようになっていって、本を買ってほしいって自分から言うようになっていくプロセス。これをすごく大事にしています。

読み書きの側面からの、自立するプロセスのお手伝いです。

子どもたちの、人間全体としての力が上がっていく。誰だって苦手はあるから読み書きが苦手でも仕方がない。だけど、その練習を通して自信を回復していってほしい、元気を取り戻していってほしいのです。

そのために、科学的なデータを出しています。こういうことを、経験的にやるのも大事なのですが、僕たちはデータを大事にして、データに基づいてサポートしていくという立場をとっています。

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「発達障害を持つお子さんの親御さんへのメッセージがありましたらお願いします」

どんなに科学的に主張しても、社会のシステムは動かない。当事者の団体や保護者の団体が、組織的に文部科学省や厚生労働省に働きかけて、やっとシステムが変わっていくと思います。できたらそれを、やっていただきたい。私たちは、科学的な立場から応援します。

「発達障害を持つお子さんに関わっている学校の先生やスクールカウンセラーなど、専門職の方へのメッセージはありますか?」

基本的には発達性の読み書き障害に関しては、日本では新しい障害概念なので、今まではいないと言われていました。つい3〜4年前まで、高名な発達障害の専門家の先生でさえ「宇野さんたちが言うような典型的な読み書き障害の子っていないよね」と言っていました。

今、誰もそんなことは言わない。実際、通常学級の中にたくさんそういう子たちがいるわけです。そういう子たちが、困ったり、傷ついたりしているのを、何とかサポートしてあげてほしいと思います。

そのためには、まず知っていただきたいと思いますね。
そういうことを知っていただけたら、勉強したいと思われるでしょうし、勉強していただきたいと思います。

「障害があるということを知っても治らないからと、診断を受けない方についてはどう思われますか」

その考え方は、僕にはよく分からなくて…。
熱が出た時に解熱剤を飲むのは、素人でもできますね。でも、それは内臓の炎症から来ている問題かもしれません。ずっと素人判断のままでいたら 場合によっては重篤な症状までいってしまいます。

その熱はいったいどこから来ているのかが分かると、その診断に合わせて、フォーカスを定めた治療ができますよね。もちろん、治療法が分かっていないものもあるけれど、サポートのしようはあると思います。

同じように漢字が書けないから、たくさん書かせましょうっていうのは、解熱剤と同じだと思います。それが効かないということは、次の手を打たなくてはいけない。そういうことを無視してしまうのは、現代では、倫理的に違反していると思いますね。ですから、それはお勧めできません。

「発達障害を持っている方への、メッセージがあればお願いします」

客観的に自分の状況を掴むことは、今後生きるために、必要なことだと思います。やはり、専門家のところで、診断評価を受けた方が良いと思います。

大人になってからも、自分の得意・不得意を知る、自分の状態を客観的に知るということは、弱点をカバーできる方向に進むので、私は知っておいた方が良いと考えています。大人になってからも、弱点をカバーしていくことは可能だと思います。

たとえば、共感性の低い方がいたとして、グループで仕事をするのは多分大変ですよね。年齢にもよりますが、弱点を把握することは、職業の選択に非常に重要な情報になります。

苦手なことを無理やりしないでいい仕事を選択する方法があるのではないでしょうか? 不得意を知ることは、職業選択時にメリットがあります。

「では、カウンセラーやキャリアカウンセラーは、不得意の部分を使わずに済むようなアドバイスをしていけばいいと?」

そうですね。または、使わざるを得ない時に、どう気をつけるかのアドバイスですね。

「カウンセラーも発達障害について勉強する必要がありますか?」

そうですね。心理カウンセラーの一番弱いところがLDだと思いますね。それは、客観的な検査をしなくては分からないからです。行動面を観察すれば分かるものではないので…。

認知能力としてどのようなことが苦手なのかとか、学習到達度としてできないのかとかということを、標準のデータとつき合わせてみないと分からないということですね。ただ、できないって言っても、練習していないからできないのかどうか。

練習してもできないなら、能力的な苦手があるはずです。それはいったい何なのかが分かることによって、LDかどうかが分かりますよね。そういう検査をしないと診断評価は難しいですね。

「簡単にできるスクリーニングテストはあるのでしょうか?」

ありません。全般的な知能はどうであるか? 学習到達度がどうであるか? 要素的な認知機能はどうであるか? 最低、3種類必要なのです。

全般的な知能に関しては、標準化されています。学習到達度に関しても私たちが検査を出版しました。

問題は、要素的な認知機能なのですね。つまり、頭が良くて、読み書きの習得が遅い場合、それは、本当に練習した結果なのかどうかを把握することが必要です。

ひらがな・カタカナの診断評価に関しては、詳細な検査がなくても、一応こうすれば評価できますよ、というところまで進んでいます。ですから、講演をお聞きになった方は、ひらがな・カタカナと漢字の音読については、診断評価的に、まあ大雑把には把握することはできると思います。

               

(次回につづく・・)

宇野 彰(うの・あきら) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 准教授、
             NPO法人「LD・ディスレクシアセンター」理事長、医学博士、言語聴覚士

「LD・ディスレクシアセンター」 LD(学習障害)、発達性Dyslexia(発達性読み書き障害)、小児失語症(大脳損傷)などの方々を中心に、主に読み書きや言語発達全般についてサポートするセンターです。

例えば、全般的な知能の発達には問題がないのに、文字の読み書きの習得が遅れている発達性読み書き障害や話したり聞いた言葉を理解することだけに障害のある特異的言語発達障害、脳損傷によって読み書きや話し言葉の発達などに障害をもつお子さん達を対象としています。

また、成人を含む高次大脳機能障害全般にかかわるご相談にも専門家が対応致します。

宇野彰 公式サイト
http://tokyo.cool.ne.jp/unoakira/
「LD・ディスレクシアセンター」
http://square.umin.ac.jp/LDDX/index.html
<宇野 彰先生の著書・訳書>
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ことばとこころの発達と障害


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小学生の読み書きスクリーニング検査―発達性読み書き障害(発達性dyslexia)検出のために


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ディスレクシア 読み書きのLD 親と専門家のためのガイド

インタビュアー:下平沙千代

下平沙千代

ワクワクセラピーで、好きなことを話しているうちに、希望が湧き上がり、
レイキでもっと元気になって、ショッピングや旅行にも行きたくなっちゃうような、
日本一やさしいワクワク介護タクシー開業準備中です。賛助会員募集中!

ワクワクセラピー ソーストレーナー、レイキヒーラー、導引養生功指導員、
ホームヘルパー2級、普通二種&大型一種免許取得
斉藤一人さんの全日本バンザイ連盟正会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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