第26回目(2/4) 宇野 彰先生 筑波大学大学院

弱点を、いかにカバーするかを知って欲しい

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「先生の現在の活動内容を教えてください」

大学の教員ってみんなそうだと思いますが、臨床と研究と教育の3つです。
教育は、学部生大学院生の教育の他に、言語聴覚士や心理、医師などの人たちで私の指導を求めている人たちの教育をしています。

臨床は、主にNPO法人LD・ディスレクシアセンターでやっております。他に月1回病院に行って診ています。あとは、筑波大学の中でも何人か診ています。

研究対象は、発達性ディスレクシア。それから、特異的言語障害:SLI (specific language impairment)。典型例は、読み書きのスキルはあるけれど、言葉の発達だけが遅れている。読み書きはできても、意味がよく分からないという症状です。

たとえば、よく講演で使うのは一休さんの「玄関で、『ここではきもの(着物)をぬいでください』」の話のようなね。読み方としては間違っていないのですが、意味が分かっていない症状が特徴的です。

SLIは、そのような子達ですね。言葉の発達だけが遅れていて、理解も十分できなかったり伝えることも十分できなかったりします。でも、典型例では、人の気持ちも分かるし、オセロなんかも強いです。

そういう子達は、大人の脳の損傷例である失語症例によく似ているのです。失語症例の中には、言語障害として重篤でかなり大きな部分の大脳が損傷されていて、有意味な発話がないというような方でも、囲碁なんか、主治医よりも強かったりします。今は、発達性ディスレクシアとSLIとが大体LDの大きな2元ですね。

その他に、後天的に脳が損傷された小児失語症という症状がある子ども達もいます。言語発達の途上で脳が損傷されたために言語障害になる、それが小児失語症です。そういう子ども達も、対象となります。さらに学生の指導もあるので成人の失語症も対象に入ってきます。

方法論としては、たとえば、一人一人のお子さんの障害のメカニズムを解明していったり、そのことによって訓練方法を考案して、それをデータに基づいてエビデンス(根拠)ベースの新しい方法論を構築し、発展させる研究があります。

このような研究の他に、コホート研究(特定の集団を長期間調査する研究)もやっています。就学前の6歳の1200名のお子さんたちを対象に、私が作った検査でチェックさせていただいて、その子たちが今、6年生になっています。

6年間ずっと追跡して、引越しや消息不明で今は200人ぐらいしか追跡できていませんけれど、そうやって、子どもたちがどのように言葉の発達に関して、変化していくのかを調べています。

その中にも、やはりSLIの子や発達性ディスレクシアになる子がいて、その子たちにどういう検査をすれば早期に発見できるのかという研究をしております。

少し、臨床から離れた研究としては、臨床から得られた仮説を障害モデルをPC上にシミュレーションして、そのシミュレーションのある回路を壊すことによって、本当に僕たちが言っているような障害像が出るか、モデルが正しいかどうかを検証する研究があります。これは主に大学院生にやってもらっています。

「脳のモデルをPC上に作って、脳の機能のシミュレーションを?」

そうです。それで、その機能を壊したら、本当に発達性ディスレクシアと同じ誤り方をするようになるかによって、モデルを検証するのです。読み書きの回路のモデルをワークステーション上に構築して、その回路を一度壊すわけです。

シミュレーションでの発達モデルというのは世界でもほとんどまだ作られていません。論文はまだ日本語でしか出していないのですけれど、そのうち世界に躍り出るのではないですかね。それが、シミュレーションモデルの研究です。

あと、新しい検査法の開発ですね。日本では、ほとんどきちんとした検査法がないので、僕たちがデータを取って、新しく標準値を取ってバンバン出版していくつもりです。

また、発達障害は誤解されることが多いので、広く社会的に知っていただかなくてはなりません。ですから、講演活動は積極的にスケジュールさえ合えばお受けしています。

「これまでで、研究、臨床含めて特にご苦労された点は?」

早期発見ができたケースに関して、まだ解決できていない問題がたくさんあります。

早期発見して早期対応したケースで、それ自体は良かったと思うのですが、そのうち、お子さんが、自分が何でこのLD・ディスレクシアセンターに来てるか分からなくなってきてしまうのです。

できるようになってきて、来る意味が分からなくなって、来なくなる。だけど、2年後には確実に漢字の習得が遅くなって困るだろうと思うわけです。

何のために早期発見・早期対応したのか。早めに対応すればその子の人生が楽になるだろうと思ってやっているのに元の木阿弥になってしまう。これはまだ解決していない問題です。親御さんに説明をしても、本人に説明をしても、そうです。

発達性ディスレクシアのトレーニングは、本人の意志がしっかりしていないとできません。トレーニングって基本的にそうですよね。

長嶋茂雄さんだって、意識が混濁している時にいくらPT(理学療法士)の人が、足や手を動かせって言ったって無理な訳です。本人が歩こうと思って、足を出さないと歩く練習にはならない。

同じように、本人が困っていないと練習しません。ですから、困り感がない子はここでは対応できないですね。効果も上がらない。

僕たちだって誰だって、欠点があることを知っているから、カバーできるわけですよね。同じ失敗を繰り返さないようにと思って、カバーしようとする。

僕は方向音痴だと思いますけれど、今日も午前中、案の定迷いましたね。自分で迷うと思うから、早めに行きますよね。地図も確実に持って行きますよね。迷うと思うから人の後ついていって、道聞いたりしますよね。弱点を知っていれば、ちゃんとカバーするわけです。

子どもたちにも、いかにカバーするかということを知って欲しいんですね。知らないとうまくいかないと思うのです。十分に困り感がないうちに対応してしまうという問題点が、原点に戻った感じがしますね。困り感がないうちにやると、うまくいかない。

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「実際に困り感を感じているけれども診断を受けることに躊躇されている方もいらっしゃると思うのですが、そういう方に対しては先生は、どういうご意見をお持ちですか?」

ちょっと風邪かなと思ったら、病院に行くというような意味合いで、障害かどうかではなくて、ちょっと苦手かなと思ったら、専門機関に行くためには、まず、発達性障害というものはどういうものなのか広く周知しないといけないだろうと思います。広くみんなが正しいことを知ることが大事です。

それから、専門機関が少ないので、それを解決しなければなりません。現実的には今、僕らのところで、去年の12月に申し込んでまだお会いできていないくらいの状態です。専門機関どころか、専門家が少ない。矛盾した話ですけれど、広く知らしめることによって、一杯になってしまっているのです。

スクリーニング検査法を出した時も、必ず一杯になると思って、その前にここを立ち上げておいてから検査法を出しました。そういう手は打ってあるのですけれど、どうしても、マンパワーというか、時間に限界がある。非常に専門家が少ない。

「専門家が足りない現状をどう変えていったらよいのでしょう?

まず、僕たちが、ちゃんとデータを公表できるようになるってことだと思います。データが公表できれば、それを使える人たちが増えてくる。使える能力のある人たちは、結構たくさんいるのです。

今、僕たちしか持っていないデータがあります。しかし、必ずしも公表できるデータばかりではないので…。出す以上は責任を持って出すというところまで行っていないというのが現状ですね。

検査キットを販売するということがある程度できていれば、広めることができるのですが、本格的にはこれからです。

「専門家に対して感じることはありますか?」

言語聴覚士の国家資格ができる前の話ですけれど、「うちの子は、耳が聞こえないんじゃないか?」と障害の施設にお子さんを連れて来たお母さんがいて、「小さいのでまだわかりません。来年来てください」と。翌年来てくれても「まだわかりません」と結局、専門家が2年間放っておいた。

ところが、実はもうその頃には各大学病院にはABRといって、お子さんたちが眠っている間にある種の脳波を取ると、聞こえているか、聞こえていないかが分かる装置が導入されていたのです。

大学病院にそういう機械が入っていることは知られていて、研究はもうしているわけですよ。学会に行っていれば、知っているはずです。つまり、学会にも行っていないのです。その機械で調べれば聞こえているかどうかが分かるのですよ。それを知っていれば、大学病院を紹介すればいいだけのことです。

そこにいた専門家と言っている人たちが勉強していなかったために、そのお子さんは耳が遠いことで言葉の刺激がなくて、その間、知的な発達機会が得られなかったのです。早目に診断して、補聴器をつけていれば、いろいろな対策ができたはずなのに…。

それは、専門家が勉強しなかったために起こったことで、表現は過激ですが、一種犯罪的だと思いますね。

もっと過激に言うと、専門家にとって、勉強しないのは「犯罪的」というところまでいくかもしれません。

僕は専門家向けの講演会では必ずそう言うのですけれど、勉強しないと新しいことについていけないし、勉強していないのは、もっといい検査法やトレーニング方法があるかもしれないことを知らないということですから、やってはいけない、という意味で過激な表現を使ってしまいました。

発達障害についても、勉強不足からそれを見逃してきてしまった専門家がいるわけです。以前は、典型的な発達性ディスレクシアもいないとずっと言われてきて、でも今は学会でも2〜3年前から認識がすっかり変わってきています。

ところが、それまでの学校教育の中で見逃してきてしまったということに関して、本当に反省をして、だからこうしなくてはいけない、という方向性が出てきて当然なのに、それが全然見えてこないのです。

ずっと見逃してきた歴史をいったいどうやって総括するのか。それがないと次のステップに進めないと思うのです。私としてはそれが不満であり、改善を大いに期待する部分でもあります。

             

(次回につづく・・)

宇野 彰(うの・あきら) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 准教授、
             NPO法人「LD・ディスレクシアセンター」理事長、医学博士、言語聴覚士

「LD・ディスレクシアセンター」 LD(学習障害)、発達性Dyslexia(発達性読み書き障害)、小児失語症(大脳損傷)などの方々を中心に、主に読み書きや言語発達全般についてサポートするセンターです。

例えば、全般的な知能の発達には問題がないのに、文字の読み書きの習得が遅れている発達性読み書き障害や話したり聞いた言葉を理解することだけに障害のある特異的言語発達障害、脳損傷によって読み書きや話し言葉の発達などに障害をもつお子さん達を対象としています。

また、成人を含む高次大脳機能障害全般にかかわるご相談にも専門家が対応致します。

宇野彰 公式サイト
http://tokyo.cool.ne.jp/unoakira/
「LD・ディスレクシアセンター」
http://square.umin.ac.jp/LDDX/index.html
<宇野 彰先生の著書・訳書>
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ことばとこころの発達と障害


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小学生の読み書きスクリーニング検査―発達性読み書き障害(発達性dyslexia)検出のために


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ディスレクシア 読み書きのLD 親と専門家のためのガイド

インタビュアー:下平沙千代

下平沙千代

ワクワクセラピーで、好きなことを話しているうちに、希望が湧き上がり、
レイキでもっと元気になって、ショッピングや旅行にも行きたくなっちゃうような、
日本一やさしいワクワク介護タクシー開業準備中です。賛助会員募集中!

ワクワクセラピー ソーストレーナー、レイキヒーラー、導引養生功指導員、
ホームヘルパー2級、普通二種&大型一種免許取得
斉藤一人さんの全日本バンザイ連盟正会員
ブログ:『幸せを運ぶワクワクセラピー ソース』

インタビュアー:脇坂奈央子(わきさかなおこ 日本メンタルサービス研究所 所長)

脇坂奈央子

『道開きの心理士』 ……本来のあなたの道を開く、お手伝いをします。
ブライアン・ワイス博士直伝の、プロフェッショナル・ヒプノセラピスト。
前世療法・催眠療法を中心に、ニーズに応じた各種心理セラピーを施療。

心理士、認定THP心理相談員、統合心理セラピスト、心理カウンセラー、
米国NGH認定ヒプノセラピスト、認定キャリアコンサルタント、
代替療法セラピスト(レイキティーチャー)
HP:ワイス博士直伝の前世療法・催眠療法・心理療法★ラポール
発行メルマガ:こころの栄養@さぱりメント
 

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