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メンタルビジネスへのご招待(インタビュー)

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第6回目(1/4)  赤城 恵子 先生   あかぎけいこ・カウンセリングルーム

2006年 08月 26日

その人らしい生き方を獲得していく姿がなによりも印象的です



←前回号「自分で自分の癒しを出来てこそプロです」



赤城恵子(あかぎけいこ)さんは、心理カウンセラーとしてはもちろんのこと、不妊カウンセラーとしても幅広いご活躍をされていらっしゃいます。

ご自身の不妊経験と豊富な知識を基に行なわれるカウンセリングは、愛と思いやりとユーモアに溢れ、不妊に悩む多くのカップルから支持を得ています。

不妊というデリケートな問題を扱う難しさや、カウンセリングとは何かということについてお話を伺ってきました。



インタビュー写真


「このお仕事を始められる前の経緯からお聞かせください。」

70年代にデザイン学校を出てから出版社に入り、雑誌のレイアウトやイラストの仕事をしていました。

26歳でフリーになって出版社や広告代理店から仕事をいただいていましたが、29歳の時にほとんど妊娠の可能性のない不妊と診断されました。さらに36歳の時に大病を患って入院してしまい、仕事を辞めざるをえませんでした。


「やはり過労からだったのでしょうか?」

そうですね。出版の仕事は徹夜になることも多いのです。雑誌のレイアウトは編集の最後の作業で、写真や原稿がどんなに遅れても急いで仕上げて、締切日に印刷所に入れないと発行日に間に合わないのです。だから気分はいつも「急げ、急げ」でした。

そこに不妊という心理的なダメージも加わって、相当ストレスフルな状況だったと思います。


「どのくらい入院なさっていたのですか?」

入院は1ヶ月ほどでしたが、病状が落ち着くまでに半年くらいはかかりました。今はすっかりよくなりましたが、ベーチェット病という難病でしたので、その当時はとても大変でした。

私が若い頃は、断続的にでも仕事を続けながら2、3人の子どもを育てていこうという、いわば生き方のシナリオがあったのです。

ところが病気と不妊で仕事も子どもも失って、白紙状態になってしまったわけです。そうなると将来がまったくイメージできないのです。「私はだれ?」「私はどこへ行くの?」といった、まさにアイデンティティを喪失した心理状態でした。

子どものいる人に悩みを話しても、「子どもがいたって大変よ。自由でいいじゃない。」と言われるばかりでした。

子育ての苦労もありますから無理もないのですが、不妊のクライシス(危機)はいっこうに理解されなくて孤独でした。悩んでいる私がおかしいのかしら?と思った時期もありました。


「どのような経緯でカウンセラーになられたのですか?」

その後大学に入って、心理学や文化人類学、女性学などを学びました。卒論のテーマに不妊を選んで、不妊の歴史を調べたり、当事者の方へのインタビューを続けていました。

するとやはり、「子どもを産むべき」という無意識の強い社会規範の中で不妊に直面することは、生活面でも心理面でも危機的なのだと解りました。

しかも、心身に苦痛を伴い経済的にも負担のかかる生殖医療を受けても、子どもが授かるカップルは半数ほどと言われています。

半数の人は喪失感や不妊で受けたトラウマを抱えたまま、養子を迎えるか子どもをもたない生き方を考えなくてはならないのです。

ですから、不妊の悩みを解消していくためには医療だけではなく、メンタル面でのサポート体制も絶対に必要だと思っていました。

ちょうどそんな時、1991年に不妊の自助グループ「フィンレージの会」がスタートしました。発起人の1人に声をかけられて、私も迷わず運営スタッフの1人になった次第です。


「どのような方が参加なさっていらっしゃるのですか?」

不妊治療のストレスにさらされながら、子どもをもたないことに対する周囲の干渉や圧力、子どもや孫を期待するパートナーや親に対する罪責感などに悩んでいる人がほとんどでした。

話し合いの場が開かれて、私はファシリテーターの役割をしていたのですが、私も当事者とはいえ、カウンセリングのスキルを身につけていないと相手が楽にならないばかりか、傷つけてしまう危険もあると思ったのです。それがカウンセリング講座に通うきっかけとなりました。

その一方で私自身が不妊の悩みを解消していった過程には、マスコミのインタビューが大きく係わっています。

フィンレージの会は日本初の大きな不妊の自助グループでしたから、マスコミからも注目されて、取材申込みが数え切れないくらい入りました。そのたびに私はよく自分の経験を話していたのです。

記者の方はインタビューの最中に自分の意見を言いませんよね。「子どもがいたって大変ですよ」とか、「こう考えたらもっと楽になれますよ」などというアドバイスもなさらずに、ひたすら耳を傾けてくれます。記者として当たり前の姿勢なのでしょうけれど、私にとってはそれがカウンセリングに近い効果がありました。


「インタビューを受けることがカウンセリングになっていた、ということだったのでしょうか?」

それがカウンセリングのすべてではありませんが、私にとってはその機能を果たしていた部分が大いにあったと思います。ある体験や思いを言葉にしたり、感じ取ったりすることで心の中がどんどん整理されていくのです。

ですから私は、ベテランの記者の方は皆カウンセラーになれるのではないかと思ったくらいです。(笑)

自助グループの仲間ともよく話をしました。それはもう、あきるほどしました。(笑)それと体験を文章にもしました。そんなことを通して怒りや悲しみを最後まで「感じ切る」ことができたのです。そういったことが自然とセルフカウンセリングになっていたと思います。


インタビュー写真



「不妊は、当事者にとって人生の根底を揺さぶられるような出来事だと思うのですが。」

そうですね。心と体の奥にある根っこの部分を引き抜かれてしまったような気持ちになります。一言で言うと不妊は大きな喪失体験なのです。

私は女(男)であるという基本的な自己認識は、自分には生殖能力があるという、ほとんど無意識の意識によって支えられていることが分かります。それが崩れてしまうと根無し草のような心もとない気持ちに襲われます。

私が不妊に悩んでいたのは70〜80年代にかけてのことで、体外受精・胚移植の技術が開発された頃です。人類が初めて手にした技術ですから社会の拒否反応も大きく、「体外に卵子を採り出す行為は、人間の生命を操作することにつながる」という危険性が指摘され、生命倫理の観点から問題があると言われていました。

でも、この論議が沸騰したことで、不妊の悩みがようやく発見されたともいえますね。


「体外受精で誕生した赤ちゃんが試験管ベビーと言われていた頃でしょうか?」

そうですね。試験管の中で胎児が育てられているイラストがテレビや雑誌で紹介されていたこともあって、大きな誤解や拒否反応も生まれたのではないかと思います。

また、体外受精までして子どもを産もうとしている女性は、「女は産むべきだという古い役割意識に囚われているからだ」とか、「子ども以外に生きがいをもてないからだ」といった批判もありました。

でも、不妊の悩みから解放されていくには、何か別の生きがいを持てば解消するというような、生易しい問題ではないのです。


「カウンセリングについては、専門的に学ばれたのですか?」

机上で臨床心理学を学んでも実践的に学ばなければどうにもならないと思い、カウンセリング機関のカウンセラー養成講座に4年ほど通いました。でもその頃は自分がカウンセラーになるとは考えていなかったですね。

その後、試験に合格して認定を受けましたので、そのカウンセリング機関のカウンセラーとして仕事を請けるようになりました。

それとほぼ同じ頃、東京都が女性の生涯を通じた健康支援事業の一環として不妊相談センター(不妊ホットライン)を設置したのです。縁あってそちらにも携わることになりました。今から10年ほど前のことです。


「逆に不妊を経験したからこそ得られたということはございますか?」

1つには、不妊を「喪失体験」として位置づけますと、不妊以外の喪失体験をされた方たちの気持ちの近くにいられるということでしょうか。

この世には死別や離別、失恋や離婚、失業もありますし、体の一部や機能を失うといった、本当にさまざまな喪失体験があります。それによって想い描いていた人生が崩れ去ってしまうわけですから、いずれも大変な危機ですね。

失った対象はさまざまですが、心理面では不妊と共通するところが大変多いものです。

ですから思考レベルの理解ではなく、自分の体の感覚を通して、何かを失った人の感情の近くにいられるように思います。

でもそれを過信してはいけないですね。あくまでもその人独自の経験世界に添って、そこにあるものを感じ取っていかなくてはなりませんが…。

二つ目に不妊もマイノリティですから、その他のマイノリティの人たち、たとえば心や体に障害のある人や、性同一性障害、同性愛といった性的マイノリティの人たちが抱える困難やその気持ちも身近なものとして感じられます。

どんな経験でもその底辺に流れる感情は繋がりあえるものなんだなあ…と感じることがよくあります。不妊の経験によって多くのヒントが得られ、私の生活も味わい深いものになったと思います。

とりわけ不妊カウンセリングの場では、それがとても役立っています。このときはカウンセラーとしてだけではなく、ピア(共通の経験をした仲間)としての私が求められますから、かつての私の経験も話します。

するとみなさん、「私一人ではないんだ」と思えるようです。孤独から解放されて、自分を大切にする気持ちを育てていかれるようです。


「クライアントさんの中で不妊を経験されて何かを手に入れられたという方はいらっしゃいますか?」

不妊に直面すると「最後まで子どもが授からなかった場合、私はどう生きていったらよいのか」と考えて、何かを習いだす女性が多いですね。

その結果、難関の国家試験に合格してその道に進んだ人もいます。臨床心理士になろうと大学院を目指している人や不妊カウンセラーになった人もいますよ。

そうした目に見えるものだけではなくて、「子どもを産んで当然」という常識や一般的な価値観から脱皮して、その人らしい生き方を獲得していく姿がなによりも印象的です。

 
「新しい人生の根っこを見つけられたということでしょうか?」

そうですね。ただ、仕事だけで子どもを産めなかった痛みや空虚感を埋めていこうとする生き方は、とても無理があります。

喪失感やトラウマ、それに不妊の劣等感に縛られたままでは、不安や緊張が強いからです。

悩みを切り捨てないで、悲しい時は悲しんでいいし、怒りや寂しさを表出していくことが大切なのです。大事な人を亡くした人がやがては立ち直っていくように、不妊で失った人生を嘆いたり泣いたりするグリーワーク(悲哀の仕事)は、絶対と言っていいほど欠かせません。

それに「母親にならない女性は成長しない」などという考えは根拠のない、幻想でしかないことに気づいていくことも大切です。グリーフワークをしたり、偏見から解放されていくことで、不妊の経験は大切な過去の物語として心の中に穏やかに位置づいてくれるはずです。

その過程を終えた人は「私が不妊に悩んでいたなんて信じられない、嘘みたい!」と表現するほどになっています。新しい生き方を模索していくと同時に、悩みと誠実に向き合って、心のケアを丁寧にしていくことが大切なのです。



                 (次回につづく・・)


次回号「人間同士の共感とユーモアを伝えたい」→

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インタビュアー:川鍋友紀

川鍋友紀    1児の母。

現在はカウンセラー・セラピストとして独立すべく勉強中。

インタビュアーとして活動中です。




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